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2話 抑圧/トランス


「少しくらい言う事聞けないのっ!?」


 これは夢だ。レイモンドが見ている夢。

 レイモンド自身もこれが夢だと理解している。

 そして普段ならば夢だと分かれば目覚める事が出来る。

 今までもそうやって恐ろしい空想の怪物から逃れてきたし、幸福な夢はその歪さに気付いてしまった。

 しかしこの夢は別なのだ。

 目の前に居るのは空想の怪物ではなく、レイモンドの母親。

 レイモンドはこの夢を見ると、どうしようもなく思考が硬直し、ただ恐怖に慄き身を震わせるしか対処法を知らない子供に変わってしまう。


「そこにっ!そこに立て!」

「嫌だ!お母さんやめて!やだ!やだぁ!」


 バスルームの隅に追いやられた幼いレイモンドは痣だらけの下半身を隠す衣服を持たず、タイルの上を裸足で後ずさる。

 しかし逃げ場は見つからず、母親に両手首を捻り上げられてしまった。


「アンタみたいなの、産まなきゃ良かった……!あんなレイプ犯で殺人鬼の子供なんて……そうよ、2人目なんて欲しくなかった……違う?偽物、産んでないんじゃないの?アンタ本当に私の子供なの?」


 レイモンドの両手は母の片手の中。ならば母親の空いた片手はと言えば、次第に熱を持つヘアアイロンが握られていた。

 それが熱を持つに従って、母親の眼光にも熱く、恐ろしいものが増してゆくのを幼いレイモンドも感じ取っている。

 夢の中とはいえ、レイモンドの精神はこの幼い身体に完全に閉じ込められてしまっていた。


「なにするの!?やめてよお母さん!離してっ!」

「良い子ならそんな悪いモノ要らないよねぇ!?──要らないって言えッ!」


 返事を待つ前に、ヘアアイロンはレイモンドの股間へ向けられる。

 しっかりと熱された金属に焼かれる痛みを、痛みを掻き消そうと上げた必死の叫びを。


「あぁあ!?……はぁ、はぁ、はぁ……」


 それを存分に味わってからレイモンドは飛び起きるのだ。

 決まってそう。

 レイモンドがこの夢から逃れられた事は一度も無い。

 まさしくこの記憶通りに逃げ場は無く、助けは来ない。


「……うぐっ、ひっ……うぅ……」


 そうしてひとり、啜り泣く。

 夜の闇の中、ひとりでうずくまって泣くのだ。

 レイモンドにはこんな時に力強く励ましてくれる父親も、優しく寄り添ってくれる母親も居ない。

 レイモンドの父親は能力を使って女性をレイプし惨殺、母親はこの恐怖の根源だ。

 だからレイモンドはひとりで泣く。

 

◆◆◆


「いってきまーす」


 既に叔父さんは出勤して家には誰も居ないが、それでもレイモンドは家を出る時はこう言ってから出掛けるのだ。

 いつも通りの日常。

 お気に入りのパーカーを着て早めに家を出て、自分を虐める人々と出会さないように時間を見て学校へ向かう。

 こうすれば嫌な時間を最低限に抑える事が出来る。

 レイモンドは平穏を望んでいるのだ。

 だが、ここ数日は一点だけ普段と違う事もある。


(薬の事、バレない……よね?)


 リュックサックを背負い直して、レイモンドは内心の不安と高揚を誤魔化す。

 そう、レイモンドは一時的に超能力を得る事の出来るドラッグを叔父さんから隠し、1回分をリュックサックの中に忍ばせていたのだ。


(別に使う勇気も無いけどさ……)


 自身の臆病さを自覚するレイモンドは精一杯の冒険、隠し事、悪さを楽しむ。

 当然、これは犯罪だ。

 だがそれを踏まえてもなお、レイモンドはこれを手元に置いている。

 それが手元にある事で不要な心労を招いても、帰り際にライアン達と嫌な出会いをして、リュックサックを守って手酷く痛め付けられてもなお、だ。


「おいおいレイモンド君は今日もビクビク歩いてんのかぁ?」

「てか、あんなビビってたら逆に目立つわ!」


 小柄故に隅の方へとなす術なく追い詰められて、腹や脇腹に拳を叩き付けられてもレイモンドは痛みに耐える。

 じゃれ合いとは呼べない、悪趣味に甚振る様子を見て助ける者はおらず、レイモンドはただ耐える。


(大丈夫……夢と同じだ。我慢したらいつか終わるはずなんだから)


 レイモンドは既に痛みそれ自体に反応する事を止めて、心を閉ざす方法を覚えてしまった。

 だから効かない、効かないと思い込む。

 思い込んで自分を守る。

 

「反応無いのつまんな。キモチン、ノリ悪いわー」


 ひと通り甚振り、満足して去った3人を見送って、レイモンドは脇腹を抑える。

 反応が無いというのは時に暴力のエスカレートを招く。

 脇腹にヒビが入る一撃を当てつつも、レイモンドが黙って歯を食い縛り耐えたので、大事になっていないと軽く考えるような暴力を。


「大丈夫、今日もちゃんと終わったから」


 そう自分に言い聞かせて、レイモンドは痛みが響かないようにゆっくりと歩く。

 他ならぬレイモンド自身も脇腹の痛みが大事だとは考えずに。


「また、あの道を通ってみよう。あの道を歩くと、何だか変われる気がする」


 背中に隠した小さな容器が、レイモンドの背中を押す。

 恐れも痛みも乗り越えて進む力を与えていた。

 だがその道のりの最中で徐々に脇腹は痛みだし、あの薬を拾った場所に辿り着いた頃には脇腹を庇って不恰好な歩き方をする羽目になってしまう。


「痛っ……つつ、これ結構痛いなぁ」


 自らの身体の不調に気付けない愚かさに自嘲しつつ、レイモンドは近くの壁に寄り掛かる。

 周囲に人影は無い。

 身体を休めるレイモンドを好奇や訝しむ目で見る者はおらず、ゆっくりと深く呼吸して歩く力を蓄える。


「前に牛乳買った店……氷とか売ってないかな……そうだ、あそこ──」


 道を挟んで向こう側、レイモンドが記憶を頼りに顔を上げて見やったそこは、食品や生活用品を置いた商店。

 車の通りが殆ど無いので、ガラス越しに店内がよく見えて、レジ越しに店員に詰め寄る二人組の客もよく見えた。


「トラブル?やだな、あの人帰ってから──っ!」


 そして客、そう思っていた目深にフードを被った人物が銃を突き付ける場面も。

 レイモンドは思わず息を呑む。

 道を挟んだ距離だとしても、それが銃である事は分かる。

 当然、銃が危険な物である事も分かる。

 ならばあれは強盗だとも、命の危険があるものであると、すぐに気が付いた。


「あれ、どうしよう……け、警察に通報しなくちゃ……!」


 だからこそ、震える手でポケットから携帯を取り出そうとして取り落とす事も無理はない。

 他人とはいえ命の危機を目の当たりにし、一般的な感性を持つレイモンドは恐怖したのだ。

 そして慌てて屈んで携帯を拾おうとして──背中に重みを感じてしまった。


「……僕が」


 感じてしまって、そこに選択肢がある事を認めてしまった。

 

「僕が、ヒーローに」


 一度脳裏に浮かんだ考えを完全に振り払うのは難しい。

 ましてそれが刺激的であるならば。

 

「僕が、人を、救う」


 噛み締めるようにして発したその言葉が持つ魔力は絶大だ。

 誰しも特別な存在になりたいと願うだろう、だが同時に人としての道を逸れてまで特別になりたいとは思わない。

 有名になりたいという言葉に、犯罪者としてニュースに出たいという意味を含まないように。

 だが、レイモンドはどうだろう?


「僕は、僕は僕は僕はっ!」


 レイモンドには消えない傷がある。


「──良い子になるんだ」


 レイモンドは迷いなく路地裏に飛び込んだ。

 周囲に人が居ない事を確認し、リュックサックの中に手を突っ込んで薬と注射器を取り出すと、ひと呼吸置く間もなくパーカーの袖を捲って腕を出す。

 細く、白い腕はこれから行おうとする英雄的行いとは正反対で、その不健康さはこれから行う非人間的行為に近しいものだ。


「これって静脈注射?血管見えやすくて良かった」


 青く輝く液体を注射器で吸い上げ、空気抜きをして準備は完了。

 レイモンドは針を肘の内側、青く透けた静脈に向けて差し込んだ。


「これで本当に……本当に?」


 青白い液体はレイモンドの血管に流れ込み、皮膚を照らしながら間もなく脳に到達する。

 

「これ、本当に書いてた薬だよね?もし全然違う薬だったら──ッ!?」


 脳裏に浮かんだ疑問は、ドラッグが脳に到達した痛みで掻き消される。

 それがどのように効果を発揮するのか、レイモンドは知らない。

 知らないが、全身に広がる痛みから何処に効果が発揮されているのかが理解出来た。

 皮膚から、脂肪から、筋肉から、血管から、骨から、神経から……全てが溶かされ再構築される痛み。

 倒れ伏した視界に青い光が飛び回り、広がる知覚がより鮮明に痛みを受け取る。

 叫ぶ余裕すらなく微かに呻めき、ゆっくりと肺の空気が搾り出された頃、ようやく痛みは治った。


「何……!?こんなの、間違えた……!?」


 まともに言葉を紡げるようになった口を動かすと、レイモンドは違和感を覚える。

 それは風邪を引いた時のような、声を出した実感の湧かない感覚。

 しかし声が掠れているのではなく、むしろ逆。


「これ、これ……?僕の声、変。なんか高くて……」


 頭蓋を揺らす瑞々しい声に困惑し、喉に手を当てようと上げた指の繊細さ。

 捲り上げたパーカーの袖から見える、少し前とは明らかに性質の違う、細く白い腕。

 驚いて立ち上がった時にズボンがずり落ち、フィットタイプのトランクスだけが腰に残った。


「あっ……ん?えっ、あれ!?」


 股の間を風が通り、違和感に気付く。

 密着する下着の感触が違う。


「なんか……これ、無くなった?」


 股間に手を当てればなだらかに曲線を描き、胸に手を当てれば服とは明らかに違う柔らかさに指が沈み込む。

 そしてそれらの感覚を手だけではなく、触れられている当事者として受け取っている。


「もしかして女の子になって──」


 口にしたその事実に眩暈がして、レイモンドはふらついた。

 ずり落ちたズボンに引っ掛かって転びかけ、反射的にバランスを取ろうとして……視界が大きく動く。


「──あっぶなかっ……た?」


 ごう、と大きな風の音が路地裏に響き、レイモンドは自分を取り巻く状況に頭をフリーズさせる。

 レイモンドの主観では視界が一瞬で切り替わった。

 瞬きの間に景色が大きく動いて、困惑している。

 だがそれを客観的に見るならば……


「テレポート?した、のかも?」


 レイモンド自身も気付いて、疑いつつも口に出したその能力に、高揚を隠せずもう一度。


「──ッ!」


 再び風が鳴り、レイモンドの姿は路地裏の更に奥へ。

 ブカブカの靴と足首で溜まったズボンが鬱陶しく思いながらも、レイモンドは思わず跳ねるほどに喜んだ。


「やった……!やった!これが、僕の能力!」


 路地裏の隅に出来た水溜まりに、跳ね回る少女の姿が写り込む。

 それに気が付いたレイモンドは、思わずそれに視線を奪われる。

 レイモンドが跳ね回るのを止めれば、当然ながら水溜まりの少女も跳ねるのを止め、手を振れば同時に振り返す。

 首を傾げれば、肩口まで伸びたブラウンの髪が滑らかに揺れる。

 そんな当たり前を確認して、レイモンドは今起きている事を噛み締めた。


「本当に僕は……」


 湧き上がる実感で、水溜りに写る少女の顔が喜色に満ちてゆく。

 大きな目を輝かせ、表情筋で唇が薄く引き伸ばされる。

 その表情の変化のひとつひとつが鮮やかで、レイモンドは変わったのだと強く噛み締めるのだ。


「ズボンどうしよう……ベルト、無いし。いや、背縮んだしパーカーの丈で大丈夫かな……?」


 レイモンドの身に起きた変化は、何も良いものばかりではない。

 例えば身体は小さくなった。

 元々同年代の男子としては小柄なレイモンドだが、おおよそその基準のまま女子の体格に変換したような形。

 当然ウエストはズボンが簡単にずり落ちる程に余裕が出来てしまったし、サイズが合わない靴は足踏みする度にカタカタ揺れる。

 

「他はもう邪魔かな。どうせテレポート出来るんだ。裸足で良いって」


 邪魔な下衣を脱ぎ捨てて、裸足でアスファルトを踏み締めたレイモンドはペタペタと足裏で湿り気を感じながら表通りに顔を出す。

 建物の陰から車道を挟んだ向こう側を覗き見れば、やはり2人組の強盗が銃を突き付けて強盗に及んでいる光景が。


「よし、よし……大丈夫。この薬は本物だ、僕だってヒーローになれる──筈!」


 一瞬にしてレイモンドの姿が消える。

 残るのは、テレポートによってポッカリと空いた真空を埋める空気の音。

 窪みを埋めるように流れた空気、それと真逆の動きが通りの反対側の店内で起こった。

 破裂音に似た、人ひとり分の体積が一瞬にして空気を押し出した音。


「早く金を出──」

「ひぃい!?」


 そんな音が強盗中の店内で突如響いたとなれば、店員は撃たれたと思うし、強盗は相棒が発砲したのかと思う。

 目出し帽越しに互いに顔を見合わせて、ただ発砲とは違う音に首を傾げていると、その背後から少女の声が掛かる。


「悪い……事を止めてくだ、えー……止めろ!」


 そんな気の抜けた言葉に振り返れば、明らかに及び腰な小娘が居たとなれば、強盗も緊張の前振り分笑ってしまうのも無理はない。


「ぷっ……ハハ!ヒーローごっこかお嬢ちゃん?」

「オイオイ嘘だろ?最近のガキはバカだって聞くけど、まさか銃持った相手に啖呵切るかよ?」

「あ、遊びじゃない……!僕は本気だから、や、やめるんだ!」


 当然と言うべきか、元が内向的な少年だ。

 例え超能力を得て、それによる高揚感を含めたとしても、他人に強く出る事自体がレイモンドの選択肢に無い。

 無理して上位者ぶって、強盗相手に蛮行の停止を求めてみても、声は震えるし言葉にも詰まる。

 そんな相手を警戒する必要は無いと、強盗は嘲りと共に銃をレイモンドへ向けた。


「悪りぃけど、オレ達は強盗ごっこじゃないんだ」

「──っ」


 銃口から覗く深い暗闇が、深い恐怖を呼び起こす。

 銃社会で生きていれば反射的に身を竦ませるそれが、レイモンドの身にも起こった。


「は?消えた?透明人間とかか?」

「横だバカ!」


 起こりはしたが、ただその場で身を竦ませるだけでなく、その場からの消失という現象をも伴う。

 視界の外に消えたと思い込んだ強盗は銃を下げ、その腕にレイモンドの細腕が伸びる。

 視界の外へのテレポートから、銃を取り上げるべく奇襲に成功した形。

 しかし成人男性と少女では、体格から筋肉まで圧倒的な差があるものだ。

 到底銃を奪い合う、などの競り合いに発展しそうもない光景。


「銃を離せ!」

「このガキ──」


 だがしかし、今のレイモンドは超能力を持つヒーローと同等の存在だ。

 そのような存在が常人の基準通りに、見た目のままであるものか。


「そんな悪いもの!」


 レイモンドは強盗の手首を強く握り締めただけ。

 ただそれだけでも成人男性の発揮する握力と同等かそれ以上、更には捻り上げようとしたのなら、制圧としては十二分で悲鳴が上がる。


「があぁ!?骨っ、折れてっ!?」


 無理矢理な動作の為、パキパキと砕けるくぐもった音が鳴りはしたものの、銃が床に転がった事でレイモンドは少しばかり気が大きくなった。


「お前はそれ以上の事をするところだったんだぞ!」


 不恰好に拳を握り、振りかぶる。

 これはレイモンドの人生で初めて人を殴る瞬間だった。

 殴り方も知らないレイモンドのそれはともすれば殴った方が手首を痛めるようなやり方だったが、レイモンドを今この場所に立たせているドラッグが身体能力を向上させていた事で、強盗の顎を殴って1発ノックアウトというビギナーズラックを引き寄せる形となった。


「人殴るってこんな感じなんだ……」

「テメッ──ふざけやがって!」

「またテレポートで!」

「消えっ!?ズルだろこんなの!」


 向けられた銃口を再びのテレポートで回避して、レイモンドが出現したのは強盗の背後、そして少し上。


「色気のねぇパンツ」

「はぁっ!?」


 レイモンドは自分の無防備な下半身に羞恥を抱き、強盗の無防備な背中に向けて蹴りを撃つ。

 強かに身体を打ち付けた強盗は床に這いつくばって呻いているが、未だ銃は手の中に。


「早く銃を離すんだって!」


 倒れ伏した強盗の背にテレポートして、レイモンドが取ったのは乱暴な手段だった。

 制圧する方法など知らない上に、精神面でも冷静さとはかけ離れている。

 強盗の頭を両手で掴み、床に向けて小刻みに振り下ろす。

 脳が揺さぶられれば気絶はするが、額からの出血が床を赤く濡らす。

 

「はあ、はあ、はぁ……よし、これでおしまい」


 多少乱暴ではあったものの強盗2人は倒れ伏し、しばらくの間目覚めそうもない。

 ひとりは顎が歪む程の力で殴られて、もうひとりは額からとはいえ出血もしている。

 こうもこっぴどくやられれば、多少は懲りる効果も期待が出来るかもしれない。

 レイモンドは強盗2人を見下ろして、自分の手で解決した確かな満足感を胸に息を吐く。

 

「ふぅ、ちょっと大変だったけど。これで僕もヒーローみたいに……」


 いつの間にか額をじっとりと濡らしていた汗を拭い、レイモンドは店員へと振り返る。

 無事だろうかと思って見れば、携帯を手に慌てて通報をしようとしているところだった。

 目が合って、困惑と緊張が交わされる。


「通報して、良いんだよな?」

「あっ!えっと僕は……通りすがりだから!悪い人じゃないから!そのまま通報して!貴方が無事なら良かった!」


 スマートに解決とは終始いかなかったが、レイモンドは能力を使って一瞬にしてその場を去った。

 残されるのはごう、という風の鳴る音。

 移動という過程が無ければ、警察も足取りが掴めないだろう。

 レイモンドはドラッグを使用した裏路地──変身(・・)したその場所で荷物を回収し、能力を思うままに使って街を跳び回る。

 

「やった……やった!」


 ビルの谷間、屋上、空中へと。

 自在な能力はレイモンドをあらゆる束縛から解放する。

 一歩踏み出すその脚が次に踏み締めるのは遥か先。

 自由を噛み締めて、胸の内から湧き上がるものを声にして叫ぶ。


「僕は──良い子(ヒーロー)だ!」


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