表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1章 影と命の間

霞が関の空は薄く曇っていた。


永田町と外務省庁舎をつなぐ道路を、自動運転の省庁用車両が無音で滑っていく。

建物の外も中も整いすぎていて、逆に何かが破綻する前の静けさを思わせた。


氷室拓也、46歳。

外務省総合外交政策局・国際安全保障政策室の室長補佐。

今や東アジア安保の最前線にいる一人だ。


執務室のモニターには、EASO(東亜安全保障機構)の条約草案と付帯文書が次々に表示されていた。

日中同盟を軸にしたこの軍事協定は、もはや発足の秒読み段階にある。

日本政府はアメリカとの安保条約を維持しながら、EASOにも深く関与するという“多軸安全保障”を選んだ。

その現場責任者の一人が、氷室だった。


EASOは2031年に中国主導で設立され、すでに13カ国が加盟している。

中国、ロシアを中心に、タイ、ベトナム、マレーシア、ラオス、カンボジアといったASEAN主要国の半数以上が加わっていた。

“アジアの安全保障はアジアで”という大義は、既成事実として現れ始めている。


ただし、朝鮮半島だけは別だった。


韓国も北朝鮮も、いずれも未加盟のまま。

数年前、北朝鮮の最高指導者が急死し、世襲は回避された。

暫定体制として成立した集団指導体制は、表向きには合議制を装いながら、依然として一党独裁に近い。


一方の韓国は、南北融和を最優先とする政権が微妙なバランスの上に立っている。

国内では保守派の反発を受けながら、外圧を避けるためにEASO参加を先延ばしにしてきた。


現在、「統一コリア」構想の下、連邦制による統一を目指す漸進的プロセスが動いている。

その中で、“まだ存在しない国家”を将来的に迎え入れるための条文が必要とされた。

氷室が調整しているのは、その受け皿となる補足条項だった。


「将来的に国家統一過程にある地域体の加盟について、

加盟国による個別協議をもって、柔軟な判断を行うことができる」


誰もがそれが統一朝鮮を指していると知っていた。だが、あえて明記しない。

それが、外交という言語のルールだった。


周囲には「理論派」「実務家」と呼ばれながら、別の呼び方もある。


——“危険人物”。


表向きは温厚で冷静だが、その言葉の奥に熱を隠そうとしない。

彼の本質は“選び取る者”であり、“従属しない者”だった。

そして、アメリカに対してだけは、彼の言葉は常に鋭く冷たい。


部屋の片隅に置かれた写真立て。

そこには、3人の笑顔が写っている。妻の千尋、娘の紬、そして氷室自身。

背景は、メリーランド州郊外の静かな官舎の裏庭。季節は秋、空が青く、落ち葉が風に舞っていた。


氷室が在米大使館で政務官として働いていた当時のものだ。


だが、もうこの世にはいない。


2032年、全米を揺るがせた政変——“三月危機”。

左右の政治分断はついに制度を突き破り、州政府が中央政府の正統性を否認する事態へと発展。

民兵と武装市民が暴徒化し、都市部では一時的な戒厳令が敷かれた。


その中で、外国人の避難は「余力があれば対応する」という指針に後退した。

館内に詰めていた氷室に、軍の連絡が届いたのは、すでに暴動の波が官舎に達した後だった。


千尋と紬は、誰からも守られずに取り残され、消息を絶った。


氷室は静かに椅子に座り、モニターから目を離した。

朝の空気の中にコーヒーの香りはない。ただ、無機質な空調音だけが響いている。


「法に従った結果だと? 公平に扱ったと?

 じゃあ俺の家族は、“不平等に生きていた”のか?」


呟きは誰にも届かない。

もう怒りは炎ではない。ただ、残り火のように静かに燃えているだけだった。


そのとき、デスクの端末が低く電子音を鳴らした。

省内のAIアシスタントが、機密指定の通知を告げる。


「機密レベル3。送信者:ジェニファー・スコット。メッセージ内容、暗号化済」


氷室の眼差しが鋭くなる。


ジェニファー——米国務省のアジア局特別政策顧問。

元CIA出身の戦略分析官であり、氷室とは在米時代に幾度も意見を交わしてきた“最も手強い相手”だった。


メッセージを開く。英語で、簡潔に、冷たい言葉が並んでいた。


Takuya, you still have time.

拓也、まだ間に合うわ。


If Japan signs the treaty, we’ll reconsider everything — bases, trade, intelligence.

日本がこの条約に署名すれば、私たちはあらゆることを見直す。

米軍基地、貿易協定、情報共有——すべて。


Don’t let old ghosts make decisions for you.

過去の亡霊に、あなたの決断を委ねないで。


—J.S.


氷室はメッセージを黙って読み終えると、ゆっくりと画面を閉じた。


「その“ゴースト”が俺のすべてだ」


声は低く、誰にも聞こえない。

だがその言葉の重さは、自分自身に深く刺さった。


スーツケースを開く。北京への出張は翌朝。

薄く折りたたまれたシャツの横に、何の装飾もない小さなカードを忍ばせた。


紬が10歳の誕生日にくれた、手書きのメッセージだ。

震えるような字で、ただこう書かれている。


「せかいがへいわになりますように。」


平和。

何百人の官僚が積み上げた文書より、何百機の無人機より、

娘のその言葉は、今も氷室の中で重く、強く、残っていた。


「アジアの安全保障を、アジアの手に戻す。

 そのために俺が燃え尽きても、それでいい」


それは決意というより、確信だった。

そしてすでに、外交官という職業の枠を超えていた。


明日から、北京。

世界の秩序を再構成する最後の協議が始まる。


氷室拓也は、写真立てをスーツケースには入れなかった。

それは、もはや荷物ではない。ただの、彼自身の一部だった。

ChatGPTの勉強のために、ChatGPTに指示して書かせたものです。丸投げしているのではなく、アイデアだしや設定などをChatGPTと議論して出力しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ