星が降る夜
星はどうしようもなく輝いていて、それに自然と涙した。
いつからだろう。星を見上げなくなったのは。
いつからだろう。呼吸がしにくくなったのは。
いつからだろう。死にたいと思うようになったのは。
「またミスしてる。ここ、やり直しね。」
「すみません…」
「謝ってる暇あったらすぐ修正してくれる?」
「はい…」
また今日も怒られる。両親の反対を無視してこの仕事についたときは夢と希望で溢れていた。この会社で働けることが決まったときは胸が踊るようだった。
なのに今は…今は…
いつものように会社を出て帰路につく。
ここ最近まともに寝れない。明日がくるのが嫌でしょうがない。
「もう、死にたい…!」
生きる意味がわからなかった。誰からも必要とされてない気がして、ただひたすらに虚しいという気持ちだけが私の心を支配していた。
無意識だった。帰り道にある公園の大きな池。
吸い込まれるように何かを求めるように、、気がついたら靴は水で濡れていて冬には厳しい冷たさが体を襲う。
こんなことして無駄だ。早く家へ帰って靴を乾かしてお風呂に、
そう、思っていたときだった。
池の真ん中で光る『それ』があった。
それが何なのかわからない。けれど何故か惹かれた。
頭ではこれ以上池に入るなと警告音がなっている。しかし体は止まらない。
ざぶん!
急に深くなった池に驚き、思わず水を飲んでしまう。
(苦しい…)
あぁこのまま死ぬのだろうか。
頭はひどく冷静で、体は鉛のように重たかった。
私の人生っていったい何だったの?
そう、誰かに問いかけたくなった。
そういえば私が惹かれたあの光は何だったのだろうか。
重いまぶたを開けて見てみる。
(石…?いや、これは星…)
星だ。確証なんてない。けれど自然とそう思った。
金平糖みたいな形でまばゆい光を放つ星は私にはあまりにも眩しくて綺麗だった。
(暖かい)
触ってみると星は暖かく、水で冷えた私の体を温めてくれるようだった。
そんな星を抱いて私は今日死ぬ。
なんてつまらない人生だろう。
そんなことを思いながら星に触った。
その時、私は星の記憶を見た。
星は知っていた。
家族を失い、友を失い、一人泣く少女の祈りを。
星は知っていた。
戦場へ赴く青年の望郷を。
星は知っていた。
明日を嫌う私の嘆きを。
それでも星は降る。誰かの想いを背負って星は降る。
どこかで泣いている君を探して星は降る。
(あぁだから君はこんなにも暖かいんだね)
「お前さん!大丈夫かい!」
ざぶん
どうやら死ねなかったらしい。私は誰かに助けられていた。
「しっかりしろ!今救急車呼んだからな!」
どうしてこの人は見ず知らずの人にこんなにも優しくできるのだろうか。
どうしてこんなにもこの人が輝いて見えるのだろうか。
星は問いかけた。
「まだ、必要?」
私の答えは決まっていた。
(もう大丈夫。ありがとう。)
私はきっともう大丈夫。
(あ、流れ星)
久々に眺めた空はこんなにも綺麗だった。
いつも下を向いていた私は知らなかった。
泣いていた少女は、戦場に向かった青年は、この空を見たのだろうか。
(もう少しだけ頑張ってみよう)
そう。もう少しだけ。
私は、まだ死ねない。
だってこんなにも星は輝いているのだから。