8話/帝都歴10000年5月、青年は魔法の道を選ぶ
灰色のような人生を歩んできた者は多い。皇帝の目が届かない場所で生活を奪われ、自殺の道を選ぶ者が大勢存在した区域が存在した。彼らがいた場所には電気も水道も閉ざされた場所で、子供たちも十を迎える前には餓死する酷い環境だ。
かつてその環境を目にしたツキミは、父にはこんな光景を見せられないと思い、魔法で電気と水の道を開いた。こんなことで喜ぶ彼らを哀れに思い、略奪者の首を持ったセイラが現れるまでは、何度か足を運んだらしい。誰にもこんな姿を見られたくないという人々の願いを叶えようと努力した、彼の優しさは確かに存在した。
その時の光景と一致していたのだ。電気がつくだけでも喜び、ありがとうと礼を言う彼らの姿を思い出し、殺しにも使えないような、日常ですら使うことのない魔法でも誰かを救うことができるんだと自覚する。その様子を見て、イザナミも満足そうにしていた。
「学びたい魔法は見つかったか?」
「見つかった。」
そう。その人が使えるか分からない魔法を無理やりに教えるのではなく、その人に合った魔法を探す。それがイザナミなりのやり方だった。
自分が得意とする魔法かつ、学びたい魔法を改めて理解したツキミは、イザナミと向き合い、学びたい魔法とその目的を言う。
「僕は、電気魔法を学びたい。あなたの持つ知識で僕を育ててほしい。」
「その目的は?」
「後付けでもいいだろ?」
「後付け............そうだな。そんな目的があってもいい。」
彼の言葉に納得のいったイザナミは、我が子を愛でるように優しく撫でる。その手付きはゲンエイに撫でられたときと同じようなものを感じさせた。心の底からその人を愛する、信頼の証そのものとも捉えられる。
だとすれば、何故この神様はここまで自分を愛することができるのだろうか。その無償の愛はどこから来るものなのかと聞こうとしたツキミ。彼の質問を察したのか、はたまた昔を思い出したのか、イザナミは独り言のように呟く。
「私の子供たちにそっくりだ。どんなに心が汚染されても、魔法への憧れだけは誰にも止められなかった。」
子供たち。おそらく、というより確実にはるか昔に死んでしまったのであろう存在。彼らに捧げれなかった分の愛情をツキミに注いでいるのか、それに加えて誰かと自分を重ねているのか。彼にはまだそこまで聞く勇気は持ち合わせていなかった。