幕間/帝都歴10000年5月、三つの国が滅んだ日
からからと、頭の中で乾いた何かが転がる音。ぐうぐうと、獣が神の腹の中で鳴いていた。お腹が空いた、今度はお肉を食べたいと、胃の中のものと一緒に口からぼてっ、と現れる可愛い子。
お腹が空いたのなら仕方ありませんと、神は空を闊歩する。ふわふわなお空の上で、舞踏会を開いては獣とワルツを踊る。今日という日がこんなにも気持ちいいものになるとは思わなかったのか、神はついつい羽目を外しそうになる。でも冷静になって、落ち着いて。国を殺すだけならまだしも、家族を殺そうとした人たちを皆殺しにする必要があるのです。
人々が空を見上げると、空にはワルツを踊る聖書にも書かれた神の姿。白い雲の上で、赤いローブ・ヴォラントを着た神が、
どん、どん、どん!
と、地鳴りを起こす。子供たちは泣き喚いて、女性は体が震え上がって、男は自己のために動いて、家族がいるなら家族を庇うように。それでも神は地鳴りをやめない、ワルツを踊り続ける。
どん、どん、どん、どん、どん!
回数を重ねるごとに、揺れは増していく。神だろうと我が国を滅ぼさんとする存在は許さないと、国の駒に成り下がった魔法使いが現れる。しかし空の上までは魔法は届かず、誰も彼もお手上げ状態。
であれば他国に助けを求めなければ。でもどこに電話をしても、揺れなんて起きてないと言う。いつも通りの空、赤いものなんてどこにもないと。助けを求めた人々がもう一度空を見上げる。雲からは赤い液体がどろどろと溢れ落ちてくる。
氷柱のように雲から垂れ下がるだけに留まり、かと思えば液体からは神の形をした獣が姿を現した。現してしまった。
きゃーきゃー、ぶちぶち、ばきばき、もぐもぐ。
三つの国から奏でられる素敵なハーモニー!人々の悲鳴と獣の咀嚼音は、神の気分を高揚させていく!
ワルツはいよいよ終盤、優雅に踊り、いつもよりも穏やかな気持ちで断罪の刃を振り落としてしまいましょう。例え民に罪がなくとも、国に罪があるので御愁傷様。家族は見逃してくれと言われても、連帯責任なので知ったことではない。今まで築いたものを全部捧げるなんて言われましても、神はそんなものに興味無し。
その日、世界から三つの国が消えた。崩壊した都市、何かに食われた多くの身元不明の死体、神に祈りを捧げる敬愛な使徒から、家族を庇ったのに無駄死にした人間まで。
もぐもぐ、ごっくん。
目の前に並べられた獣の死体を、神は美味しそうに頬張る。懐かしい人の味に美味しい魔力まで!これでもう何百年かは体が灰にならずに済むと喜び、獣の栄養をたくさん蓄えた神は、再び空を闊歩する。帝都中央の和風の屋敷に着陸し、口元の汚れも舐め取って、ある部屋を訪ねた。
「幻永っ。ふふっ、ようやく記憶も修復されてきた。やっぱりあなたにはいつもより砕けた口調じゃないとね。」
「僕のお星様は今日もご機嫌だね。でも悪食はよくないよ?もし言ってくれたなら、僕がもっと美味しく調理してあげたのに。」
「幻永のためならなんでも頑張れちゃうからいいの。............ねえ、今夜は朝まで大丈夫?」
部屋の主はもちろんと返事をして、神と深い口付けを交わしながら暖かな敷布団へと二人で倒れ込む。従順な駒にならなかった三つの国を滅ぼしたご褒美と称して、久しぶりにたくさん愛してあげると甘く囁かれ、神はご満悦のようだ。
彼らに刃を向ける愚か者は、今日のところはみんな消えてくれた。それを祝福するように二人は翌朝まで深く愛し合って、同日夜まで深い眠りについたのだった。