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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第一章/出会いと再会、青年の始まり
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6話/帝都歴10000年5月、刻まれることのない生きた証

この星に海はない。各地に点在する人工的に作られた美しい湖だけが、彼らの命を繋ぐ唯一の水だ。かつての海は人体に害を及ぼす魔力によって汚染されていたため、世界を作り替える際に海はこの世から消えてしまい、地上だけが創造されたという。

後に作られた湖は、四人の魔法使いが毒と塩分を除去した海水から生み出されたもの。わざわざ蒸留や濾過をせずとも、誰でもすぐに飲めるようになった。

水はどれだけ飲んでもなくならず、魔法使いが込めた魔力が水源となって一定の水量を保ち続けることも可能。しかしその後の始末までは誰の手にも負えない。ゴミを捨てれば水は濁り、用を足せばさらに濁るためだ。

それが影響して国ごとに湖が管理されるようになった。人類の生命線を決して絶やしてはならないと、この時だけは敵味方問わず一致団結したらしい。

それが今は悲しいことに、三ヶ国はかつて美しい湖を作った魔法使いたちの国を滅ぼさんがために、敵国の湖で休憩を挟みながら侵攻を続ける。彼らが遠き地からここまで歩めたのは、今から滅ぼさんとする帝国の助力あってのことだというのに、彼らはより豊かな生活を求めて魔法使いさえも殺してしまおうと声を上げた。


「分かりやすく言えば恩知らずね。恩を仇で返す不届き者は、全員私が殺してあげる。」

「............何か見えるんですか?」


軍隊の頭上には、七匹の鴉が一つの群れとなって空を羽ばたいている。

ある迷信によれば、鴉は人間が亡くなるとき、その人の家の屋根で鳴くことがあるのだそう。そんな迷信は帝都歴へと移り変わっても語り継がれていた。鴉が一度鳴けば一人死ぬ、二度鳴けば二人死ぬ、三度鳴けば............そんな根も葉もない迷信が今日、真実へと変わる。

鴉の群れが何度鳴いたことか。長く歩き続けた疲れから、鴉の鳴き声が鬱陶しく思った一人の兵士が、鴉を撃ち落とす。


「カァァァ!!カァァァ!!」


鴉の鳴き声はより強いものへ。どうせなら戦が終わったら、鴉の鍋でも食べようと一人が提案したことにより、兵士たちは一斉に鴉に銃口を向け______ナーサリーの眼が消える。だがナーサリーは至って余裕な様子だ。


「気付いたのか、それともただの馬鹿なのか。どちらにせよもう手遅れよ。」

「え?なんで!?」

「まとめて処理するところ、見たいでしょ。なら黙ってなさい。」

「......可能なら、まぁ。」


ナーサリーがアリスという女性らしい名前を呼ぶと、何もない場所から小さな鏡が現れ、ナーサリーの手元にストンと落ちる。女性が化粧の時に使うような手のひらサイズの鏡を、ナーサリーが指で小突くと、今度は正門前の空に巨大な鏡が出現し、鏡からはこちらに侵攻していた軍隊がわんさかと降り注いでくるのだ。

このまま地に叩きつけて殺すのかと思いきや、今度は地上に雲が現れ、落ちてくる軍隊すべてを受け止める。兵士たちが何事かと周囲を見渡せば、目の前にはこれから攻めんとした都と見慣れない青年、そしてこれから三ヶ国の軍隊を滅ぼさんとする一人の賢者が立っている。この国最強の門番と知られる男ではないと知り、これを勝機と見た一人の兵士が声をあげた。


「自ら敵を招き入れるとは............しかも女!戦場は男の舞台であるぞ!!!」

「あら、女だから甘く見てるのかしら?魔女様のおとぎ話を知った上でその発言なら、あなたたち敵を見誤りすぎよ。だから私に蹂躙される。」

「なんだと............!」


しかし賢者の挑発に乗り、兵士は先行して銃口を賢者に向けた______のだが、一瞬だけ目を逸らしている間に、音もなく静かに、巨大な七つの柱時計が軍隊を囲む。その柱時計は帝都城壁と同じぐらいの高さを誇る立派なもので複数の兵士が太陽の光で反射して見えない柱時計の中を、ゆっくりと覗き見る。


「た、たいちょ、あれ、や、山羊っ」

「なんだ!?」

「子山羊の死体が詰められています!!!なんであんなものがいつの間に現れたんですか!?」

「............どういうことだ?」


頼りない兵士たちを守るように、魔法使いたちが彼らの周囲を囲む。しかしどんな陣形を組んだところで、賢者の魔法は彼らを食わないという選択肢はとらない。

目の前のありえない光景に戸惑う兵士たちが、柱時計に向かって発砲する。同時に魔法使いたちも一斉に攻撃魔法を射出するのだが、彼らの攻撃が何度柱時計を破壊しようが一瞬のうちに修復が行われ、柱時計には徐々に血の海が溜まっていく。気味の悪いことに血の海から言葉が発された。


「お母さん、助けて」「たくさん撃たれた」「たくさん死んだ」「僕だけがここで生きている」「死にたくないよ!」「だから」

「この狼たちも全員、川に沈めちゃおうか!」


突如柱時計が開かれ、溜められた血が放出される。ある者は溺れ死に、ある者は何かに引きずり込まれるように、ある者は精神が壊れ自らの額に鉛玉を撃ち込む。そうして生き残ったのは軍隊の四割だ。

改めて説明するが、この軍隊は三ヶ国の兵士、魔法使い、兵器のすべてを投入した強大な軍隊である。その数はかつてこの地に存在した東京の一区、それと同じ広さを誇る帝都の三割が埋め尽くされるほどのものだった。

その軍隊の半分以上が削られた。由々しき事態、連絡手段はない。おまけに賢者の攻撃はこれだけでは終わらず、見えない何かが兵士たちの腹を裂いていく。


「お前たち!!何にやられ、」


裂かれた腹には大量の石が詰め込まれていた。見えない何かは邪魔な臓物をすべて引きずり出し、息のある兵士には口内から直接石を。

逃げ出す兵士も例外なくその命を奪われ、いつしか悲鳴を響かせていた正門前には血の湖が出来上がった。かと思えば、その海は創造神イザナミの登場と共に霧のように消える。まさかあの量の血を飲んでしまったのか、彼女は答えを示すように口元の血を拭っていた。


「おかげでお腹が満たせたよ。ありがとう、ナーサリー。」

「どういたしまして♡他の三つの門は?」

「ああ、男どもが遅いから私が食ってきた。あいつらは一人一人の苦しむ顔を眺めながら、ゆっくりと殺しを楽しむタイプだからな。おかげで私の餌場になってしまったよ。」

「............化物。」


正真正銘の化物。この神は三つの門を攻めていた軍隊を食ったと言うのだ。神であれば人ぐらい食うものかと呑気に考えていた青年にとっても、彼女らの行動には鳥肌が立つ。

兵士たちの中には助けを求める者までいたというのに、その声をろくに聞くことなくまとめて処理する冷酷さ。そこまでして心を殺さなければ、魔法使いとして成長できないのかと問うと、神は嬉しそうに答えた。


「魔法使いに興味を持ってるな、お前。なら喜んで教えてやる。本物の魔法使いになる条件というのはな、人としての何かを捨てることだ。」

「え............?」

「西暦に存在した魔法使いは、後継者のために夫妻関係なく多くの人間を誘拐し、子を作らされた。特に私みたいに特別なものを封印された女は特別でなぁ、昼夜問わず人間ではない何かを産まされたものだよ。魔法使いはそういうものだ。力の継続、後継者、技術の進化、あらゆるもののために非常識を手に取る。だがお前に目指してほしい魔法使いは、また違うものだ。」

「何に、なってほしいと」

「さあな。」


ツキミは神より語られる魔法使いとしての最悪な形を聞かされ、改め血の海があった場所に目を向ける。

兵士たちがそこにいたと証明できるものは、どこにもなかった。

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