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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第一章/出会いと再会、青年の始まり
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5話/帝都歴10000年5月、戦争の幕開け

緊急招集。如何なる用があろうと、皇帝の命を優先すべし。帝都にて待つ。

久しぶりの父からの手紙かと思えば、なんとも悪趣味なものだ。本来であれば真っ昼間から午後のティータイムを楽しんでいたところ、帝国を攻め落とさんとする三ヶ国が手を組んだという。

様々な要因で滅んだ人種、滅び行く遺伝子、種としての戦を勝ち残った者たちは、今度は武力での戦を求める。なんとも哀れな話だが、彼らを慰めてやる必要はなし。

つまるところ、あれだ。今回も三ヶ国より攻めてくる軍隊を殺すだけの、簡単なお仕事だと帝国は言いたいらしい。

一般人には一切の攻撃魔法を与えず、なんて法を作ったにも関わらず、これまでの人生を一般人として過ごしてきた自分に何をしろと言いたいのか。深く考えるツキミだが、こればかりは考えても答えの一つも見つからないと諦め、帝都の中心に建設された、近代と西洋に囲まれたなんとも不似合いすぎる和風の屋敷へ立ち入る。


「............そろそろ年齢を19にしとこうかな。だいたい一年ぐらい経過したし。本当、この国はみんな誕生日というものに興味が無さすぎる。誰もその一切を記録しないなんて、寂しいよな。」


そんな独り言を淡々と呟きながら、誰もいない廊下を歩く。

ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、ギシ。音の響き方の問題なのか、自分以外の誰かがこの長ったらしい廊下を歩いているような気がして、幼い頃から誰かと一緒じゃなければ、一人で歩くことすらなかった。

ちなみにこの屋敷の不要すぎるほどの広さと部屋の数は、万が一侵入者にここまで来られてしまったときの対策らしい。常日頃から魔法でちょっとした対策をしているとも言っており、ここがこうだから気を付けろと、以前もツキミに伝えられていたようだ。だがこの男はもちろん、そんなことは覚えているどころか聞いてすらいないことがほとんどだ。

今回はかつての忠告を思い出したが、時既に遅し。


「廊下長くね!?」


本来なら三分程度で目的の部屋に辿り着くところだというのに、歩き始めてから倍の三十分。さっきから同じような光景ばかりが永遠と映し出され、先の道は暗闇に染められている。

これも魔法の一種魔法だ。誰もがそんな光景を思い浮かべてしまえば、簡単に再現できる一般魔法。日常よりも遊園地のお化け屋敷で使われる傾向が多く、あらかじめ何度ループするかを使用者が設定することにより、半永久的に化物に追われる機関が完成される。単純な魔法で魔力消費はかなり少ないのだが、これを永遠にやるとなれば魔力消費に回復が追い付かない。

これを皇帝は一人で成し遂げているのだ。期限のない永遠の長廊下、突破したいなら諦めて餓死してしまえ、なんてありえない幻聴が聞こえ始めた以上、ツキミも慌てて駆け出す。

ループ魔法には致命的な欠陥がある。それは単純で、案外誰も気付けないものだ。言ってしまえば綻び探しで、亀裂が入った空間を探し出せば迷い混んだ獲物の勝利。しかしそれはただの希望的観測に過ぎない。あの皇帝は、そんな下手を打つことはないと知っているためだ。


「本当、なんでッ、走らなきゃ............!クソジジイも見てるなら助けろよ!?俺が日常でも魔法を使わないことなんて知ってるだろ!?おかげで知識も何もねぇんだよクソ野郎!!!」

「僕にそんな大口叩くほど帝都に貢献したっけ?ツキミ。」

「あ」


無我夢中で叫び、気付けば魔法の使用者本人と廊下の突き当たりでばったりと出会ってしまった。魔法は向こうが一時的に解除してくれたようだが、むしろ永遠にあの廊下にいた方がいいんじゃないかと思わせるほどの圧と狂気。


「そんなことが言えてしまうほど、僕の愛情を受け止めれてないのかな。やっぱり彼女みたいに痣でもつくる?僕は構わないよ。その人が泣いて謝ろうが、僕が君を愛してるんだよって証明できるなら、いくらでも」

「いいから会議室に行きますよ、お父様。あなたの重い愛を受け止められるのは、イザナミ様だけだって教わりました。私のような小心者に、あなたの最大の愛など受け止めれるわけがないので。というか受け止めれません。」


一番の常識人と称される皇帝・ゲンエイも、歪んだ愛情を矯正しないままその人生を過ごした人だ。両親の虐待と愛、兄が暴力によって誰かを従える姿、その二つが彼の人格を形成させた。

後にイザナミの説教で"暴力はこんなことに使われるものじゃない"と認識したが、家族に対しての暴力ならただの愛情表現だと、これもまた違った認識を持つことになる。それから10000年、イザナミも目覚めてからは彼の暴力を否定せず、むしろ嬉々として受け入れるため、彼の認識違いは加速する一方。

だがツキミのように「まだ受け止めるための度量を持ち合わせていない」と言えば、不満そうにしながらも手は引いてくれる。ツキミもまた、これも父の個性ということで受け入れてしまった節がある。それを誰も咎めることはなく、二人はいつもよりも静かに会議室へと足を運んだ。

普段は電話で話したり、二人になることがあれば雑談することも多いが、帝都の屋敷では一切言葉を交わすことはない。気まずいというわけでもなく、言葉を交わす必要性がないのだ。仕方あるまい。互いに互いを「どこか欠落した異常者」と認識している以上、あまり関わりたくないのは人としても当然の思考だろう。

しばらく廊下を歩けば、目的の部屋の前に辿り着く。襖を開くとすでに二人の魔法使いと一人の賢者が揃っており、そこにツキミも加わったことで、この前の同窓会メンバーに近い形となった。

否、正確にはこれから全員揃う。先程歩いてきた廊下の先から、鬼の形相で走ってくる女性が一人。心当たりがあったのか、気付かれる前にと部屋に入り、ゲンエイがそっと襖を閉める。


「さて、会議を始めようか。イザナミは放っといていいよ。たぶん誤解を招いた。」

「なんの誤解ですか?お父様。」

「外国の馬鹿が、僕を独身だと思い込んで娘を寄越してきたんだよ。娘があなたに一目惚れしたとか、変なことばかり言いやがって............この国を乗っ取る計算なのは目に見えてんだよ。まあ、イザナミが女を処理してくれるだろうからいいけどね。」


今日の物騒な発言ノルマも達成。早速三ヶ国について話し合いをしようと座り、さっさと本題に入ってしまおうということでナーサリーから話が始まる。


「あなたたちも知っての通り、レーガン、ジュニー、コロッサ。この三ヶ国が我が国だけでは帝国最大首都を攻め落とせないと諦めたのか、みんな仲良くお手々を繋ぎましたっていうのが状況ね。えっと......」

「マジマでいいですよ。」

「一つの国ならマジマだけに任せてしまえばよかったのだけれど、今回は各国本気みたい。鴉の眼で確認してみたところ、今回は手練れの魔法使いもいる。マジマによる殲滅に時間がかかればかかるほど、首都の犠牲は増えるかもしれない。だって彼ら、城壁と簡易的な防御結界を壊して民を殺すのが上手でしょ?質も数に押し潰される、ってね。」


あなたの魔法も完璧だったらよかったのに、と言葉で指されながらも、ゲンエイは今回も簡単な掃除だと言った。これのどこが掃除なのか分からなかったが、どうやらここにいる全員が人として致命的な何かが欠落しているらしい。国が攻め滅ぼされるか否かの状況を、簡単なゲームだと思っている。

こんな場所に連れてこられたツキミも気の毒だ。ストレスで痛む胸を擦りながら早く帰りたいと祈るだけの時間、それを察することなく話し合いは淡々と進む。

正門はナーサリー、東門はゲンエイ、北門はマジマ、西門はセイラ。正門以外は数で簡単に押し潰される門のため、軽い守りに入る必要があった。

対して帝都正門は数と質がなければ突破できないのだが、敵は間違いなくここを中心に攻めると断言。今も偵察中のナーサリーの鴉が、正門を攻め落とさんとする三ヶ国トップの話を盗聴しているため、話し合いはスムーズに終わった。何故かナーサリーの案で、ツキミも正面の守りを担当することになるというのも決まってしまった。

ツキミはこれを否定しなかったが、同時に疑問も抱き、会議室から出ていこうとするナーサリーに問いかける。


「ナーサリーさん。」

「あら、どうしたの?」

「どうして私のような者が、あなたの魔法を見学する資格を与えられたのでしょうか?」

「............そりゃあ気まぐれだけど。強いて言うなら、イザナミのためかな。あの子が選んだ人間なら、少しぐらいは知識を身に付けてほしいと思うのは当然でしょう?それじゃ、明日は早起きだからよろしくね~♡」


未熟な彼を戦場に出す理由は、ただの自己満足に近いものだった。創造神のためとは言いつつ、どこか自分が満足できる物語になればいいと考えているような。

これ以上深く考えたところで決定は覆らない。ツキミは自身の家に戻ることなく、客間の座布団を布団代わりに眠ることにした。すっかり暗くなってしまった世界、未だ屋敷内に響く神の怒声。耳栓をしていても聞こえる声量に頭を痛めながらも、ツキミはいつの間にか眠りについていた。

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