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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第五章/最も穏やかな学校生活
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33話/帝都歴10006年4月、一撃の決着

何千年前か、とある研究者が人生を捧げて復活させた植物がある。

それは桜だ。その植物は日本の象徴、日本の美なんて言われていたが、実際は桜の傍らには嘔吐物を散らす成人した人間しかいなかった。なので現実を見ている大人諸君なら分かる通り、桜とはたいして愛でるものでもなし。花見とは共に酒を呑み交わすための言い訳に過ぎない。

大人に対して子供たちの認識といえば、桜の傍らで告白なんてシチュエーションは憧れの的そのものだろう。しかしこの高校に通う生徒は度胸も運もないし、興味もないのが大半を占める。一部は玉砕した屍の集団だ。

一説によるとフジの国の学生たちは、誰も桜の傍らで告白を成功させたことはないらしい。

かつての研究者も、自分が復活させた植物が如何様なものとは考えもしなかっただろう。


「それで、殺し合いは校庭の桜の樹木でいいんですね?観客ありでもいいですよ。」

「吾は殺し合うつもりはない。一方的に、君を殺すだけの話だよ。話したいというのも嘘じゃない。吾の国には特に問題はないが、吾の家族は死ぬ理由がなかったと考えている。その理由を死ぬ前に話してもらえるかな。」


まさか殺し合いの舞台として選ばれるとは、この国の民は誰も予想しなかっただろう。

ツキミと理愛子の自宅にて、茶会はほんの一時間程度で終わった。それらしい話もなく、藤崎は切り出そうにも勇気がなかったらしい。結局話すより命を奪った方が早いという結論に落ち着き、もちろん学校側は嫌々ながらも受け入れた。

藤崎は死なない。理愛子も死なない。これは学生同士の戯れである。皇帝の妻という地位が上手いこと効いたようで、誰も反論はしなかった。それはそれでどうかと思うのだが。


「私は杖を使いません。杖を使うのは、強者相手のみ。ツキミさんより教わった初歩的なことです。」

「こうも教わらなかったか?同格相手にも油断せず戦うべきだ、と。」


まあこればかりは教職者も英断と言っていい。特に藤崎碧から漏れ出す殺意の前には、誰も止めれるはずがない。身内の仇を前にして落ち着けるはずもない、男子生徒を止めようとしたなら、その者はとっくにあの世逝きだ。

だがその生徒には一つの弱点がある。子供らしい、未熟な弱点だ。並の魔法使い相手なら簡単に殺せるものを、彼は以前より弱体化したと思われる神を前に恐れなかった。

それを勇者と例えるなら聞こえはいいが、正しくは戦況を正しく見極めれない未熟者だ。彼が片手に持つ珈琲の入ったペットボトルは、彼だけの特別魔法を示唆している。

それを前にして、理愛子は言い放った。


「後で下半身、元通りにしてあげます。」


この世で最も物騒な女子生徒の言葉。

腹をぐうぐうと空かせた理愛子は、いただきますと言葉と共に、何かを咀嚼するように口の中でもぐもぐと。舌でごろごろと転がして。最後にごっくん。

いつも通りご飯を食べるように、美味しい卵焼きを味わうように、肉塊を最大限まで味わった。


「止血魔法はここに来るまでの間に使いましたよ。でも、声が出ないほど辛いですよね。泣きたくなりますよね。昔はこうして敵に自害を求めたこともありました。それで?その程度の力で、どうやって私に復讐するんですか?」


上半身は打つ伏せに倒れ、腕はピクピクと動いている。何が起こったか分からないらしい藤崎は、感覚どころか姿もない下半身を必死になって動かそうとした。

理愛子は煽るように、しかし悪意なく藤崎に問う。


「私も聞きたかったんです。どうして創造神イザナミの罪を、私が背負わなくてはいけないのでしょうか。ツキミさんはイザナミと理愛子を別のものとして扱い、他の皆さんは同一人物として扱いながらも、その心は別人のものとして優しく接してくれるんです。そんな私がどうして、あなたに復讐されなくてはいけないのですか?」


本気で言っているのかと、藤崎は睨むように訴える。


「本気ですよ。あなたの復讐は否定しませんが、どうかその力は、創造神イザナミが再びこの世に現れたときに使いなさい。今の私は月見理愛子なんです。どうか、私をただの学友として迎えてくれませんか?」


理愛子は変わらず冷静だ。自分の立場を理解しているがゆえに、彼女はどこかずれているような気もする。

イザナミの責任は自分にない。だがいつか理愛子とイザナミは一つとなり、同じ人間として再び蘇る。その日が来ても困ってしまわないように、理愛子としての人生に何一つ問題がないように生きたい。

そんな彼女の願いは一見して普通のように思えるが、何かが違うようにも感じ取れた。

こうして攻撃の時間も与えられず、下半身を食べられてしまった藤崎は、暫しの間死んだように眠ることとなる。その間はもちろん、理愛子が常に再生の魔法を施し続けた。

余談になるが、この報せを受けたツキミは転移魔法の存在すら忘れるほど、焦り倒していたという。現場を目撃したのも教職者だけなのが、彼にとっての唯一の救いだろう。

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