24話/帝都歴10005年8月、キメラと妖精の国へ②
同い年ぐらいの体格、しかし互いに歳は見た目からかけ離れている。彼はもうすぐ三十を迎えるかなと自分の年齢にあやふやらしく、対して理愛子は10000年の時を過ごす前から自分の年齢など覚えていなかった。
ハッキリしない、霞がかかったような記憶。一つだけ分かるのは、自分が記憶を思い出せないのは何かから逃げてしまったからということ。ツキミには逃げていいと言ったものの、彼女自身はこれから起こるすべてを受け入れるつもりでいた。
それは自分たち魔法使いが引き起こしてしまったものであり、彼女だけの力で止める必要のあるもの。断罪の神の復活の予兆が能えた世界への影響を、少しでも正さなければという使命感を抱いている。
行き先はキメラと妖精の国。かつては栄えた国の一つと言われた残骸で、そこに踏み入った人間は必ず民に殺される。名も法律もない殺戮の国。そこにはまだ誰にも見つかっていない宝があるらしい。今だけはその宝に興味を逸らし、本来の目的を忘れるように、彼女も目を閉じようとした。しかしちょうど目的地に到着したらしく、理愛子は不満そうに車体から降りる。
「着いたか。理愛子、ここからは南部から外へ繋がる門まで歩きだ。途中で馬車があるようなら借りる。」
「この門の先は車は通れないんですか?」
「そもそも帝都外は自然を大事にした世界ってコンセプトから、必要な時以外は一切手もつけていない。車のタイヤはよくパンクするわ、野獣に襲われるわで誰も通ろうとしない。」
「............怖いですね。」
「だから外に赴く人間ってのは、大抵は戦うための魔法を身に付けているもんだ。帝都は悪い意味で自分を大事にする人間だし、ここからは自分の力のみを信じる旅になる。気を付けろよ。」
目の前に立ちはだかるは、鉄の門。鉄の門は朝昼問わず開かれているが、夜だけは出入りが制限された厳しい境界線。二人はその境界線を越え、自然の大地が広がる草原を歩き始める。
あらかた整えられた道、行き交う商人たち。野獣なんて滅多に遭遇するもんじゃないと油断しているのか、誰一人として護衛も戦う術も身に付けていないらしい。そこまで警戒するものじゃないのだろうと思ったが、ツキミだけは周囲を見渡す。
何かを見つけたのか、ツキミは理愛子の手を掴んでその道を走り出した。道中でお似合いのカップルだと微笑ましく見られ、理愛子もつい嫌になってその目を閉じる。
............しばらくして、背後からは商人たちの悲鳴が響いてくる。
「(何かに襲われて............)」
「他人のために魔法を使うな。とにかく走れ、理愛子。魔法は人を救うために存在するものじゃないんだ。」
「............それもそうでしたね。」
彼女はずっと、その悲鳴が聞こえなくなるまで目を閉じた。私は何も見ていないと言い聞かせるように。私は何も間違ってないと正すように。
ほんの少しだけだが、心が軋む音がした。




