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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第三章/人類と神の決戦、その前日譚
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23話/帝都歴10005年8月、キメラと妖精の国へ

彼は皆の知る通り、誰かに責任を押し付けたがるような性格だ。自分の責任さえも誰かの責任にしたがる。彼が口にした言葉がイザナミ、もとい理愛子を何度傷つけたかは、彼自身も覚えていない。

彼の名誉のために言うと、もし神と青年が出会わなければ、彼は普通の人間として生活できた可能性が高い。理由を説明するには西暦の魔法使いを少しだけ語る必要がある。

西暦から帝都歴に至るまで、魔法使いが一般人も関わるのは危険なことだと言われていた。もうすぐで■■歴5000年を越える某国も、自分達で国を築いた当初は魔法使いの入国の一切を禁じるほど。魔法使いとは基本人間としての大事な何かを捧げた者の名称でもあるため、彼らに関われば優しい人さえも冷酷な人間に成り下がってしまうのだ。例外なく、必ず。

現在の青年を説明するなら、まさにそういうことだ。家族、元同居人以外はどうでもよく、関わるとしてもただの暇潰しとして扱われてきた青年は、あまり他と関わらせたくないような性格へと変貌した。数年後にはステージを上がる度に、人の命を犠牲にするような醜い人間になることだろう。

その鈍いから逃れるための、彼の言い訳の象徴とも言える行動。それが今回の世界旅行だ。理愛子の世話を放棄するようで最初は気が引けたものの、あれを救えないのならこれ以上関わる意味も無しと判断。世界を見て、人の心を取り戻しながら強くなった方が効率的。


「お前が旅行に行ってくれるならちょうどよかった!俺も理愛子を一人占めしたかったからな~♡ゲンエイが目覚める前に、完全に俺色に染めてみるか?」

「キッショ............パスポートはありがたく受け取っておく。旅先で人の心をこじ開けるような都合のいい魔法が見つかれば、連絡するよ。それまでは一切の連絡を取らない。君たちと関わっていると、僕の心が蝕まれていきそうだ。」


すべての考えを述べた上での最後の会話。彼はセイラとの対話を最後に、すぐに帝都南部の門から他国へ旅立つつもりだと言う。

門の先は未知の世界だ。帝都歴という帝国内でしか扱われなかった紀年法も、門の向こうでは全く知らない言葉として扱われる。その国限定の紀年法、同じ食材なのに名前が違うなんてこともありえる。文化から歴史まで異なる他国なら、自分が探してきたものも見つかるかもしれないと、微かに期待を抱いていた。

セイラはそんな純粋な願いを嘲笑った。


「理愛子がお前の顔を見るのも嫌になるってさ。ずっと屋敷の客室で泣いている。たった一人の女を泣かせるほど、お前は人の心を理解できなくなっている。そのお前が旅先で人の心を取り戻すって、冗談だろ?」


何かが軋む。それを心と認識できないほどに、彼は人としての大事なものを捨てすぎたのだろう。その証に彼は立派な魔法使いになった。それでも彼が見習いなのは、まだ他者の命を蔑む程度には至っていないため。

セイラの嘲笑を無視して、彼は屋敷を発つ。玄関先で理愛子が不安そうにツキミを見ていたが、ツキミは彼女に目をくれることもなく。電話で呼び出したタクシーを外で待ち続けた。中で待っても刺さるような視線を向けられるだけなのだからと、彼は暑さを耐えしのぐようにペットボトルの中身をごくり、と一気に飲み干す。

この炎天下なら水が最高なのだが、生憎今日の水は少しだけ質の落ちたもの。度の前に美味しいものを一口ぐらいは口にしたかったと、愚痴を吐く。


「............喧嘩別れ、って例えた方がいいのか。あんな別れ方をした以上、あまりここに長居したくないからな。我慢するか。」

「何を我慢するんですか?」


炎天下、帝都中央の屋敷前。多くの車体や通行人が交差する中、確かに彼に語りかける声が一つだけ。先ほど彼を不安そうに見ていた理愛子その人だ。

客室で泣いていたと聞かされていたのだが、その人がどうして自分に話しかけてきたのか。そも屋敷を出て今の状態を知られれば、帝国の戦力は崩れ落ちているとバレてしまう。そんな彼の気持ちも知らず、彼女は何度も聞いてくる。その手には水の入ったペットボトルが握られていた。


「何のつもりかな。」

「魔法で移動しないんですか?」

「現代の便利さに気付かされたから、それを利用するだけの話だ。今のタクシーは中にエアコン三機もあるのかってぐらい涼しいし。君こそ、どうして僕に話しかける?僕が嫌いなんだろ。」

「あなたの目的は私の治療のためと聞きましたので。............何度合意しても、私の治療は成功しなかった。それは私の心が原因なんですよね?どうして見ず知らずの私のために、そこまで」

「君のためじゃない。」


彼女のペットボトルを奪い取り、それもごくりと飲み干した。理愛子は表情の一切を変えないものの、まだ何かを言いたそうにしている。

嫌な予感はしていたのだ。電話をかけたあの日から、彼女がせっせと荷物をまとめている様子を見てから。最初はしばらく別の場所に預けられることを察したのだろうと思っていたが、にしては無駄に荷物を積めている。遠出覚悟しているのかってぐらいだ。

この水も取引材料の一つ。小さい恩でも一度売ってしまえば、そうしてくれると信じきっているのだろう。この馬鹿女は。それを払い除けず、頭を痛めながらも連れていってしまうのが、ツキミに残された最後の優しさだ。


「タクシーが来ても、最低で三十分は待ってくれるらしい。最小限の荷物で来い。僕の杖に収納しといてやるから。」

「ほ、本当ですか!?」

「多すぎたら僕の杖も重くなるから、それぐらいは気遣ってくれよ。それから他国では一般人を装え。帝国から訪れた魔法使いってのは印象が悪いんだからな。」


彼の優しさに感動を覚えながらも、理愛子はその嬉しさを抑えて急ぎ屋敷へと駆け戻る。ちょうど到着したタクシーの運転手には上手いこと言い訳を通し、待つこと二十分と少し。十年間も旅をするのかってぐらい積めていたはずの荷物は、ほんの数日程度しか旅行しませんってぐらいの荷物に留められた。

それはそれで少なすぎるのではないかと思いつつ、彼女の僅かな荷物を杖の中へ収納する魔法を使用し、長らく待たせてしまった運転手にチップを弾むと約束を取り付けつつ、彼らはしばらく長くなるだろう旅路へと踏み出した。

目的なんぞ、旅をしていればいくらでも変わる。どんな魔法使いになるべきかの答え探しも、人の心に土足で踏み込むことができる魔法探しも、いつかは優先順位が低くなるのだろう。彼らの旅先で、彼らの選択肢次第で、常に目的は生まれ落ちる。常に順位は取り替えられる。

もしかすると、この旅は。


「こんなことは無意味かもな。」


思っていたことがつい口に出る。車に揺られながら、理愛子は反論するようにこんなことを言い出した。


「............でも、ただあの屋敷にいるだけじゃ、ダメだったと思います。」

「引きこもっていたら運動不足になるもんな。」

「えっと............そうじゃないというか。そもそも、目的は後付けでいいと思うんです。物語の作家が結末を自由に変えるように、私たちも好きに旅をしたらいいと思うんです。世界が恐れているものから逃げるためとか、立ち向かうためとか、好きなときに自分で決めて生きていく。人に左右されない人生が、一番いいと言いますか。語彙力、足りなくてごめんなさい。」


その言葉はいつか、どこかで聞いたようなものだった。それをどこで聞いたかはすぐに思い出せた。

あれは五年前、自分がどんな魔法を学びたいかを決めた日のこと。彼女にどうして魔法を学びたいのか目的を聞かれたとき、自分が答えたものだ。


「後付け............そうだね。そんな目的があってもいい。でも、こんなあやふやな目的だと君の心も治せないと思うけど。」

「それは私が自力で見つけるので、ご心配なく!だから、その。」

「ん?」

「断罪の神、というものから逃げてしまいましょう。目の前のことから逃げ出しても、最後に悔いのない生き方だったと笑えるなら、私たちはそれでいいと思うんです。」


ずいぶんと適当で、世間から見れば間違いなく批判されるような生き方。こんな無様な生き方も、無様な人間も、誰も見たことがない。

しかしツキミはそんな生き方が性に合うかもなと笑う。誰にも左右されず、何度も死ぬことのない平穏な人生を、ただゆっくり過ごすだけ。そんな生き方が彼の最適解なのだろう。

旅先の運命からは逃れられぬとは知らずに、ツキミは帝都中央から南部へと繋がる門の到着まで、しばしその目を閉じた。

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