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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第二章/最終試験の結末、星の馴れ初め
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18話/帝都歴10001年12月、一人の魔法使いが消えた日③

片や魔法使いを殺すために南部から、片や魔法使いを救うために中央から、同じ道を進んだ。次第に景色は移り変わっていく。賢者............魔女の力が強まっているせいなのか、10000年前に存在した四季が常に再現されている。

今の世界は四季を再現するほどの環境が存在しないため、季節の象徴である草木は皆消えてしまった。博物館で常に模型が飾られているが、誰もそれを再現したことはない。再現してみようと思ったことすら。彼らは魔法使いに頼りすぎた代償として、前に進む力を失ってしまった。そんな彼らにどう再現できようか?模型を見るだけで満足できる彼らに、本物をお出ししたところで何も変わらない。

おかげで今や誰にも再現不可能な景色。今や不老の魔法使いしか知らないもの。三人の魔法使いと一人の青年が出会うとき、その中心に魔女は立っている。魔女は男三人には目を向けず、男が背負う女だけに語りかける。


「............イザナミ。イザナミ?ああ、そこにいたのね。どうして憎き魔法使いと一緒にいるの?彼らはあなたを道具として扱うだけのクズども。その下半身も、奴らにやられたのは分かってるわ。」

「共にいた幻永たちのことは忘れたのか。」

「それ、誰?私はそんな人たちと関わった覚えがないのだけれど。............そういえば青年、彼からはあなたの魔力を少しだけ感じたの。どうして?」


魔女の様子は、誰が話を聞いても明らかにおかしい。ツキミだけならまだしも、良き元同居人、飲み仲間として彼らと仲良くしていたあの魔女が、ゲンエイたちを一切覚えていない。それを意に介さず、イザナミは二つだけ質問をさせてほしいと言う。


「目的は、魔法使いの殲滅だね。」

「そうよ?みんな殺してあげるの。殺すためにそれ以外の生物を利用する。最終的に全員死ぬんだからいいでしょ?で、もう一つは?」

「私も殺すの?」


ツキミが久しく会った彼女は、一年半も前より優しい様子だ。しかしその優しさが、ツキミではなく彼女自身が的確に突いてくる質問が、確かに魔女を動揺させた。右手に取り出したのはやはり杖ではなく、先程まで手にしていた拳銃。

震えていた手を握るように、拳銃を強く握りしめるところだけは見える。ツキミとセイラの視点では魔女の背中、下半身のないイザナミを背負うゲンエイの苦しそうな表情しか見えないのだが、何故か顔のない魔女の本音だけはハッキリ読み取れる。怒りなど負の側面が強くなっているだけで、まだ躊躇するほどの心は残っていることを。

それをイザナミも感じ取ったらしく、顔を歪めながらも何かを決意したようだ。


「............でも、魔法使いを全員殺すって決めた。言われた。あなたの子供から言われたのよ!?あの神がそう言ったのよ!?ならそうするしかないでしょう!あなたも殺さなくちゃいけないの!!!」

「そうなのね。幻永、やっぱり私が死ぬのは無しで。今から急いで下半身を修復させるから、私の自慢の教え子と馬鹿の三人で、あれを止めて。リッパーが関わっているのなら私は死ねないし、それにあなたの自慢の息子でもあるでしょう?なら大丈夫よ。」


死。一瞬その言葉に疑問をぶつけそうになるが、すぐに疑問を向けるその悪癖を捨てるように、拳に電気を纏う。背後からの攻撃なら魔女でも気付けないだろうと甘く見たのだが、それは間違いだ。

魔女がその場に立ち尽くしたまま、首をゴキッと嫌な音を立てながら180度曲げ、そこになかったはずの目でツキミら二名を睨み付ける。ツキミの攻撃の意思にたった一言、私に一人で挑む度胸だけは認めてやると。

______一人?

どうしても捨てきれない疑問をぶつける前に、隣にいる男を見る。男、セイラは何かを思い付いたようににやついた表情を浮かべているようだ。魔女を挟んだ向こうにいるゲンエイも似たような表情で、ゲンエイに背負ってもらっているイザナミは二人の男の思考を理解したのか、途端に笑顔になった。


「えっ、あの」

「僕は本当に天才だな!こういうガチの実戦を試験にすればよかったんだ!」

「お父様?」

「それは確かに。ツキミ、この馬鹿女を殺さずに止めてみろよ。俺たちは間違ってナーサリーを殺しそうだからさ、まあ時間稼ぎぐらいやれるだろ?」

「セイラさん?」

「それもそうね。ごめんね、ツキミ。私たち魔法使いってそういうところ厳しいから♡」

「おいクソ神様!?いっそのこと全員殺したいなぁ勢いで!!!」


まあ、魔法使いって人でなしの集まりだから。そんな言葉で納得できないような状況にまで追い詰められ、反論する時間すら与えられず、魔女は拳銃を片手に明らかにツキミだけを視界に収めつつ、その重い足を踏み出す。

たった一人で、世界最強の魔法使いを越えるとされる賢者を止める。止めれずとも時間稼ぎぐらいなら余裕だろう。そんな馬鹿なことを言った三人の魔法使いを、後で二千は殺したいほどの焦りを感じていた。確かに彼は魔法使いとして認められはしたが、それはゲンエイの温情あってのこと。温情なのか、ただ適当なのかは別として。まだ見習いレベルの実力しかない彼では、時間稼ぎにすらならないことを皆は知っているはずだ。

これは意地悪の度を越えた試験。それも一歩間違えれば、帝都壊滅確定の。どうしてこんなものを、ほんの少し前まで一般人扱いだった自分に押し付けるのか。疑問よりも怒りと恐怖が込み上げているのだろう。それでもと拳を構えると、魔女は馬鹿みたいと言いながら、次のように語り出す。


「ところで近年の作品をご存知かしら?昔と変わらず、人気を博した作品はその栄光に縋るための手段として、敵との戦闘を長続きさせることがあるの。中には見るに値しないものまであるわ。私の好きな物語はね、より早く完結し、完成されたものなの。」

「何が言いたいんですか............?」

「私は馬鹿みたいに戦闘を長続きさせないと、そう言っているの。もう勝負は終わってるって、まだ分からないの?」


途端に自分の心臓を、何かが貫いた。身体の再生を試そうにも、自分を貫いた何かに妨害されているのか、魔力が上手く流れず。貫いた何かの正体を探ろうにも、魔力の代わりに身体に流れるそれは彼の人としての機能を低下させていく。

さすがに早かったか、と残念そうにするセイラ。まだ立てると自分に言い聞かせるが、ツキミの身体は抵抗できるわけもなく地に倒れ伏せた。引き抜かれたものは魔女の左手に、もう片方の手に握られた拳銃はツキミに狙いを定める。


「歌う骨という童話があるの。危険な猪を退治した人は、王女を嫁にすることができる。野心家の兄と優しい弟は、それぞれ西の東の森へ入っていくことになるの。そこで弟が出会ったのは小人さん。弟に渡された槍は、猪を安全に殺すと言われる槍だった。これはその槍を再現したものでね、どんなに注意深い人でもイチコロ、ってやつ?ちょっと古い言葉かしら。そこの二人の男みたいな実力者なら効果はなかったけど、あなた、弱いものね?」

「が、ッ」

「だからこんな簡単に死ぬの。その場にいる誰にも庇われず、誰からも見捨てられ、この子はタイミングが悪かったんだなって。ただそれだけの理由で、あなたの人生は終わりなの。死にたくなかったら、私の童話のカラクリの一つや二つは見破ってみたら?無能なお馬鹿さん。」


喉は焼けるように熱く、声は出ない。刺された箇所からはどくどくと赤いものが流れ、地面だけを見ていた頭をなんとか上げることはできた。どうせ彼らからは失望やらなんやらと、勝手な目で見られているのだろうが。

しかし先程まで残念そうにしていたセイラ、ただ黙って見ているだけのゲンエイとイザナミが、ツキミを________正確にはツキミではない何かの存在に気付き、目を丸くして驚いている。その視線は彼の上、いや後ろ、いや。正面に。音もなく、それは再び現れる。

人の形をしている血濡れた何か。どろどろ、どろどろと全身は溶けていくが、溶ける度にその形を保つように修復される。最初は魔女かと思ったが、魔女は未だ拳銃を構え、同じくその何かを睨んでいる。

それはツキミを黙って見下ろし、イザナミに助言するように言葉を発する。


「勝者の兄に王女が与えられ、敗者の弟には死を。それは不公平だな。本来の勝者は弟なのに。理愛子。」

「私の............名前?」

「君の目に狂いはない。確かにこの子に実力はある、だがステージに上がるのが早すぎたんだ。なら一時的でもその力を得る許可を与えたらどうだろうか。私に許可さえ与えれば、私はこの子に力を貸せる。私はそのために、今日までずっと耐えてきたのだ。」


理愛子。ツキミにとっては聞き慣れない、イザナミにとっては捨てたはずの名前。その正体をなんとなく察したのか、イザナミはそれに許可を与えた。

許可を与えられたそれは徐々に、溶けるように消えていく。血がツキミの心臓を代わりに修復していくように、その傷を塞いでいくように。消える間際、それは繰り返しツキミに囁いた。


「彼らの判断は間違っていない。あれは魔法の使い方を忘れた、初心の魔法使い。ゲンエイはいつだって、お前でも簡単にクリアできる試練しか与えてこなかっただろう?」

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