17話/帝都歴10001年12月、一人の魔法使いが消えた日②
同日同時刻、帝都中央の二等地にある館にて。魔法使いの死体と獣の死体を掻き分け、下半身のない女が床を這っている。B級どころかA級ホラー映画に出てもおかしくないようなクオリティだが、残念ながら現実だ。
女は息を荒げながらも、牢をこじ開けようとする一人の男に、一つだけ頼み事をする。当然男はそれを断ろうとするが、女はもう覚悟はできていると言った。
「............嫌だ。今度こそ本当のお別れになるのは嫌だ!!!とにかくイザナミ、下がれるか!?牢は魔法で破壊する!!」
「それは構わないが、私を必ずナーサリーのところに連れていけ。頼むから............もう私に、大切な人を失わせないでくれ。」
その言葉の重さを男は知っている。その瞳を男は知っている。あの日、あの封印戦で彼女だけが知った悲劇も。二人の間に産まれた子供が死んだ日も。あの日の出来事を全て覚えている魔法使いだかるこそ、彼女の頼みを完全には断れなかった。
もしこれを承諾してしまえば、男は一生をかけても癒えない傷を負うことになるだろう。同時にこれを受け入れなければ、彼女からの信頼も、今日まで築いた絆も、昔の記憶も、すべては泡沫に消えていく。
今朝、息子を帝都の端へ追いやってからすぐのことだ。彼はすぐに写真の場所の特定を開始し、外国にはあるはずのない帝国の紋章が刻まれた獣の首輪から、この場所へやって来た。すでに血溜まりと化していた牢獄で、下半身の再生さえままならない女は、ただ静かに微笑む。
「我儘なお星様には、慣れっこでしょ?」
男勝りでもなんでもなかった、かつての普通の女性であった彼女のように。
この事態を招いたのはすぐにイザナミを追いかけなかったゲンエイ、無断で森に侵入したナーサリーのせいでもある。その罪を償いたいなら、という意味合いの提案。彼は言葉にせずとも、態度でその意思を示した。
彼女を背負っての行く先は、屋敷ではなく帝都中央から少し離れた南部への道。その間、彼らに一切の会話はないものと思われたが、これから死にに行く女とそれを黙って見るだけの男とは思えないような。
例えるなら、そう。ただの夫婦のような微笑ましい会話があったのだとか。それを他の誰が知るわけもなく、彼らだけの最後の思い出となった。




