11話/帝都歴10001年11月、一人の魔法使いが誕生した③
これは本人の名誉のため、あえて深い記述は避けるものとするが、例の電話の一件からしばらくして、ツキミは大衆の前で大恥をかいた。大人は彼の舞台は素晴らしいものだったと評価し、子供は不可能を可能にすることは魔法じゃなくてもできるんだと学んだ。
確かにこの舞台は彼らの認識を改めさせた、のだが。大恥をかいたことはこの際捨て置いて、彼が一番許せなかったのは一つだけ。
「あの流れだと僕がヒーローでしたよね。」
「怪人が似合うよ、ツキミは。ヒーローは僕かイザナミだけで十分さ。皇帝より優れた人間とか実際いらないし。」
「この独裁男!人でなし!!死ね!!!なんで独裁のくせにこの国も平和なんだよ!?」
彼の小さなプライドをズタボロに引き裂いた、皇帝の悪戯だった。
時は変わらず10001年の11月、これまで多くのショーが行われてきた帝都劇場。安すぎる入場料の割には倍以上のクオリティで行われる舞台が多いと有名な場所だ。このような場所を貸し切りにしたにも関わらず、誰にも言いたくない恥をタネに脅され、戦隊物をやらされると思えばまさかの怪人役と来た。
何はともあれ、親子で仲良く(?)行われた舞台は、歴史に刻まれることもなく密かに終わりを迎えた。ツキミが演じた怪人は人体にも害を及ぼす電流使いという設定で、ヒーローはそんな電流にも屈しない超すごい皇帝という雑な役である。そんな舞台でも子供たちが喜んだのなら、万々歳というものだ。
ツキミの認識改善という目的も達成したのだからとゲンエイがなだめ、彼もツキミ仕方なく引き下がったものの、いつか最低でも五回は殺すと小さく呟く。殺せるのなら殺してみろ、なんて言葉はあえて口にせず。
「早速電気魔法を使ったらどうだ?全身に帯電させたところで、僕に三撃入れるのは無理だろうけど。」
案の定自分のやりたいことを見抜かれているツキミは顔をしかめつつも、今まで拳にしか帯電できなかった電気が、全身に行き渡るようイメージする。
どうやら人々の認識が思ったより早く浸透してきているのか、以前よりも成功率は高まっているようだ。維持する時間はまだまだというところではあるが、ゲンエイも自分の目に狂いはなかったと満足そうに微笑む。最初はあんなにも弱く、勝手に進路を決められた反抗期息子だったというのに、今では自ら行く道を定めることのできる立派な社会人なのだ。これで喜ばない親がいないはずはない............と、思う。
少なくともゲンエイにとって、息子の成長は非常に喜ばしいものだ。例え彼を駒として扱うことになろうとも、いつか妻と息子の二人を愛せる日が来るのなら。今だけは素直に、心の底から彼の成長を祝おうと、未だ幼さのある青年を撫でる。
「なんですか、お父様。」
「............そういえばツキミ、さっきリハーサルにないはずの行動をしてきたよな。この僕を三度も殴った。」
「そりゃあ、ストレス溜まってたんで。」
「舞台とはいえ、この僕に三撃入れたことだし?成長した褒美と成人祝いとして、最終試験は合格ということにしよう。外で思う存分、自分の無力さを痛感してきなさい。」
「やっぱり殺していいか?お前」
本日二度目のしかめっ面。撫でていた手を叩かれ、すぐに舞台から立ち去るツキミ。今外を出ても、皇帝に倒された生意気な怪人としていじられるだけなのだが、それもあえて口にせず。外からは息子の怒声と子供たちの笑い声が響いてくる。
そんないつも通りの日常が終わる日は、その日の晩に訪れた。舞台終わりの着替えで休憩しているとき、皇帝にある手紙が届く。外国のある魔法使い一家から、必ず皇帝に伝えろと写真も同封されていたようだ。
「なんだ、セイラ。そんな険しい顔をして。」
「............イザナミが」
「彼女がどうかしたのか?」
その手紙をなかなか渡そうとしないセイラから、無理やり手紙を奪い取って文章を読み上げる。
内容はイザナミの身柄を預かったというもの。昔のように殺し合いを始めようと、こちらを煽るような文章付きだ。同封された写真に写っていたのは、躾もなっていないような化物に肉まで食いちぎられたイザナミ本人。
________今日までギリギリのラインで保たれていたゲンエイの糸が、あまりにも簡単にぷつんと切れてしまった瞬間だった。




