10話/帝都歴10001年11月、一人の魔法使いが誕生した②
青年はあらゆる努力をした。自身の体も惜しまず、常に下級魔法の研究を続けた。
電気魔法、それは光魔法の下位互換。光は無条件で周囲を照らす魔法に対し、電気魔法は条件が満たされなければ使えない。要は想像力が最も必要とされる、下級にして最も使いづらい魔法というのが、電気魔法の正しい見方だろう。
電気魔法の使用条件とは、電気を灯す物体が存在すること。例えば電球が一つ存在するだけで、電線も必要とせずすぐに光を灯すことができる。子供でも分かる簡単な仕組みだ。電球は光るものという簡単な認識が、電気魔法を魔法として確立させているのだ。
電気が流れているからこそ、無人の浄水場も常に稼働を可能としている。おかげで水道も「電気魔法のおかげで流れている」という、半ば間違っているような認識になってしまったのだが。
長い長い話になったが、青年はこの"認識問題"を改善したかった。自身の両手に帯電させるまではいったが、依然として威力は上がらず、原因はもちろん、人々の認識の進化が止まってしまったこと。
「............昔の人は、ただ生きたいと願った。目の前の未知の技術も受け入れて、そこに自分達が持っている知識も掛け合わせて、元の生活を取り戻した。必死すぎたからむしろ、考えることをやめたんだろう。」
ツキミが読む歴史書の通り、魔法にどうこう言うほどの余裕なんてなかった。自分達を救ってくれるかもしれない存在を突き放せば、地球の酸素は潰えて仲良くご臨終。その結末を避けるために、あらゆる不可能から目を逸らした。
逸らしすぎたのだ。自分たちにこれはできない、再現できない、そんな理由であらゆる不可能を魔法使いたちに託したせいで、自分達には何ができるかなんて想像力の進化が途中で止まってしまった。今の帝国はその名残の象徴とも言えるだろう。人々が自ら何かをしようと考えないせいで、門番もマジマ一人に託されていたのだから。マジマがいない今でさえも、現役を引退したはずのセイラが門番を担当している。
まず彼らの意識を変化させるための革命紛いのことでも起こすべきかと考えたが、ツキミ自身にそのようなことが可能なのか。
「........................いや、方法はある。僕には武器があるんだ。卑怯かもしれないが、僕は外の世界へ行くためにあらゆる努力をするって決めた............決めたはずだ。」
やけに苦悶に満ちた顔だったが、これは今日まで何度も繰り返してきたことで、それが大衆の目に晒されるだけだと自分に言い聞かせる。
電球に光が灯されるのと同じように、蛇口から水が流れるのと同じように。人体に電気を宿すことも可能だと、はるか昔に忘れ去られた知識を人々に与えるだけ。そんな簡単な話。ツキミはすぐに私室からロビーへと向かい、受話器を手に取ってダイヤルを回す。数秒の後に電話に出た相手に、ツキミは自分でも嫌になるような交渉をした。
「もしもし、お父様。人を殺したいのですが。」
相手はそれを真っ向から否定することなく、何故と冷静に聞き返す。
「人の認識を根本から変えるためです。自分を強くするためなら、僕はあらゆる努力を惜しまない。権力でも何でも利用します。それに民は僕を恐れませんよ?だって僕、優しい人って認識なんでしょう?人をどう殺したところで、彼らは人の死のバリエーションを学ぶだけに留まります。」
電話相手はしばらく考えながらも、その提案を許可した。その代わり、自分達はツキミの考えに一切関与することなく。例えツキミが不利になる事態が起きたとしても、容赦なく犯罪者の一人として扱うと。
それでもと、ツキミは交渉を続けた。ただ自分が強くなるために、人々に恐怖を与えてでも根本の全てを上書きすると、電話の相手に強く発言する。
『うん、そうか。君の覚悟と愚かさは理解したよ。』
「愚か......?」
『民に恐怖を与えるより、楽しいものを見せてあげようじゃないか。例えば戦隊物なんてどう?』
「............」
唐突な皇帝による提案。
戦隊物であれば、まだ純粋な子供たちは人体には電気が宿るものと認識するだろう。加えて子供は自分が見たものを身内に話したがる性質を持つ。より高学歴な人間であれば、人体に電気を宿すことも可能なのかと新たな気付きを得ることができるだろう。
そういう意味合いで皇帝は提案したのだが、たった一つだけ誤算があった。
「戦隊って、どうしてそんな意味の分からないものをやるんですか。」
『は?』
「いえ、意味は知ってますよ。男の子が大好きなものでしょう。ヒーローが怪人を倒すだけの単調なもので、人々のイメージを塗り替えれるんですか?」
どうしてか2次元文化、2.5次元文化に否定的すぎた弊害が生じてしまったことだ。
内容も結末も分かりきったもので、どう人の認識を変えれるのか。その意見こそツキミが困っている"認識機能の退化"そのものなのだが、本人がそれを自覚するのは翌日のことだった。




