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五人の魔法使いと見習い青年  作者: 維申
第一章/出会いと再会、青年の始まり
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1話/10000前の天地創造、目覚めの創造神

ああ、なんでこんなことに。

神に相見えるための資格ならあった。強さもあった。予定よりも百年は早かったが、全員が力をつけてここまで辿り着いた。


「なのに、本ッ当に嫌になる......!」


私を苦しませたのは、神獣より資格を得たはずの四人が、神にすら近付けなかったこと。神獣を宿した自分だけが、復讐神と呼ばれる今にも断罪の刃を振り下ろさんとする怪物と対面することが許された。

にしてもだ。彼らよりも三十年程度遅く魔法というものを学び始め、ただ神獣を宿しただけで特別扱いされてきた自分が、これに敵うはずもなく。怪物が地鳴りを起こす度に、生命が崩壊する音が聞こえてくる。人類の生活圏のみならず、このまますべての命まで奪われてしまえば、身勝手な話ではあるが、私は大切なものまで忘れてしまうことになる。

それだけは避けねばと必死に魔法を繰り出すも、怪物には傷一つ付かない。


「これは、倒せないな。」


諦めのため息、そして決意。杖を力強く握り締めた私は、おそらく身体中から血が噴き出していたことだろう。

口から、目から、鼻から、耳から。あらゆる皮膚が剥け、肉も骨も臓物も、あらゆるすべてが限界まで削がれた状態で、最後に神獣に犠牲になることを命じた。かの獣は私の命令ならばと犠牲を受け入れ、その身を以て神の封印に成功する。

しかし時は遅かった。私の決断はあまりにも遅すぎた。地球上の酸素は徐々に限られ、私の四肢は指先から崩れていく。ただの石像と化したそれに近付くのに、最早資格すらいらなかったのか、四人の魔法使いは私に生きろと叫んだ。

叫んだのを、覚えている。


「勝手に死ぬな!僕が今、君を助けるから......!」

「______ごめん。」


後は断片的な記憶だけが、私の中にある。

最初の記憶は暗い洞窟のような、綺麗に整えられた祭壇のような場所で、見知った顔が私の中から外まで修復しようと試みていたというもの。必死すぎて笑えるな、なんてからかった覚えもある。

次に私がなんて言ったか、たぶんこうだ。人類の生存のために、私の命を使えと言ったのだろう。だがそこは"彼"が特別だと言ってくれたのか、私の深い眠りを代償に、人類の生存確率を大幅に上げるための強固な世界を築くと約束した。そんな遠い未来の世界でも私を受け入れるために、あらゆる準備を整えるとも。

こんなにも愛されて、私は幸せ者と言うべきだろう。だが眠る前まで気掛かりだったことが一つだけ。

私と幻永の子は、あのまま封印されてしまうのだろうか。そんな不安が過りながらも、私は深い眠りについた。


そんな長い語りもここまで。そんな感じで眠りについた私は、帝都歴10000年と呼ばれる世界で、人生で二度目の運命的な出会いを経験する。当時は10000年なんて途方もない時間を過ごし続けたのか、何故か周囲に張り巡らされた魔法障壁のせいで誰も体の手入れすらできなかったのか。決戦の日に着たお気に入りの服は見る影もない。

環境のせい、手入れも行き届いてない。そも服自体が虫に食われてしまったので、今の私は知らない男には見せたくもないような酷い姿をしている。ただ嬉しかったのは、あの日まで毎日のように夫につけてもらった"相の証"が刻まれていること。目覚めたあの日彼の愛はどれだけ年月が経っても消えないものだと知って嬉しくなった。

そんな私を目覚めさせたのは、私を創造神様と呼ぶ一人の青年だ。隣には懐かしい顔も見えるが、まあそれはさておき。


「この障壁、触るだけで消えてしまいそうだ。」

「えっ!?この障壁は始まりの四人の魔法使いが築いた、今の人類にさえ破れない強固な結界なんですよ!?」

「私を創造神と呼ぶなら、不可能さえも可能にすると覚えておくのが吉だ。悪いな、真島。これ壊すぞ。」


つん、と軽く小突くだけで、私を守り続けてきた障壁はいとも簡単に砕け散った。真島と呼ばれた青年は分かりきったような、呆れたような様子で。神と呼んだ青年はただ呆然としていた。

幻永より頼りなさそうな、しかし懐かしい匂いのする青年。事情は後で聞くとして、私は祭壇から降り立ち、虫に食われてしまった当時の私服を記憶の断片を頼りに修復を始める。人の血を浴びても色合い的には問題のない、18世紀初頭の西洋の人が着ていたような赤いローブ・ヴォラント。

夫以外では親しい男性にしか見せない、朝の女性のドレス。寝起きにはちょうどいい着心地だと思いながら、私を目覚めさせた青年と改めて向き合う。


「......幻永という男を知らないか?」


ひとまず幻永という男の所在を調べなければ。真島が何らかの理由で喋らないと仮定し、しばらくはこの青年との交流だけを考えようというものだったが、案外答えは簡単に得られた。


「ゲンエイ様......皇帝ですかね。僕の父に何か用ですか?」

「あ?それ、私以外の女に子を孕ませたって言いたいのか?そうかそうか。お前がそう言うなら、目覚めの一発で皇帝殺しといこうじゃないか。」

「ち、違います!!あの方は母を失い父もいない僕を引き取ってくれた、とても優しいお方なのです!」


まず青年の認識が正しければの話だが、青年は私の夫が引き取った子供だということ。その当の本人は、年に一度しかこちらの様子を見に来ない薄情者になったこと。もう一人の愛人、幻永の兄である星羅は様子すら見に来ず、一週間に一度なんてハイペースで会いに来るのは、賢者なんて称号をもらった魔女ぐらいだということ。

温泉のように湧き出る怒りをおおらかな心で抑えつつ、不安そうにする青年を無視して真島と向き合う。これから皇帝とやらに会いに行くと言えば、私の我儘には慣れっこだと言いつつ真島にかつての杖を投げ渡された。


「よし、新たな世界を見に行くならこれぐらいないとな。ああ、青年。」

「はい!?」

「名前を教えろ。」

「......ツキミ、ですけど。」


自分たちの名を持つ青年。度胸はないが、しかし覚悟さえ決めればあらゆる困難を乗り越えられるであろう。勘ではあるが、数奇な運命を辿ることになると思われる。そんな彼にある程度恩を売っていいだろうという邪な考えを持ちつつ、私は二人と共に祠と呼ばれる場所から出口へと向かう。

私を向かえてくれたのは、鳥たちもさえずるファンタジーにしか出てこないような、見渡す限り緑しか見当たらない心地のよい草原と、暖かな太陽だった。

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