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ウィレム独白する(後)【序章閉幕】

第8話 ウィレム独白する(後)

「はぁ‥‥もう寝るか」

背中をぐぐと伸ばしてから、光を消して、工房の奥にある部屋、自室へと行く。

明かりの灯っていない部屋は、薄暗かった。

その暗さは、どこか心地いい。

ベットに腰掛けると、力が抜けてどっと疲れた感じがした。

(今日はあんまり進まなかったな。明日は要るもん注文して、ギルドに行って‥‥あぁ、でもやっぱもうちょっとデザイン考えて‥‥)

しばらくぼうっと天井を見るでもなく考えていたが、手に何か硬い物が触れたのを感じた。

(‥‥光水球か)

手のひらで包める程度のそれは、持ち運び出来る小さなサイズだ。

拾い上げてみると、静かに水が動いていくのが見えた。

(‥‥‥)

その球体を握ったまま、自分の中にうち寄せてくる波を探した。

もう馴染んだこの感覚を掴むのは、たやすい。

「光よ」

水が、きらめいた。

突如として、薄暮れの中に、青白い光が現れる。

光水球が、輝いていた。

青い光をまとった球体が、光水球の中に現れ、それは水を反射させて光り輝いていた。

球を揺らすと、青い光に水の音が、海を連想させた。

「浮け」

手首をスナップさせて放る。

それはそのまま落ちることはなく、回転しながら天井付近を浮遊する。

そして、それから球体はクルクルと回りながら、円周運動を始めた。

グルグル、ジグザグと俺の思う通りに動く。こんなことは、口に出すまでもなく、意識すれば出来ることだった。

クルクル回るソレは、月のように見えないこともない。

(何やってんだか)

手を伸ばすと、それは吸い込まれるように、手のひらに収まる。

ふと、ベットの左側にある窓を見た。

そこには、球体の光に照らされて映る、明るい金髪に、茶色い目をした青年がいた。

肌は白人並にかなり白いが、おうとつのない顔に金髪は可笑しな感じがする。だが、ブリーチでない金は、元からそうであったかのように自然だし、着ている服もタイムスリップしたかのようだ。

自分ではないソイツを、自分だと認識するのに慣れるくらいには、時間は流れていた。

そういえば、身体の色が変化していることに気付いたのはいつだったか。

‥いや、この世界で俺が異質なのだと、はっきり理解させられたのはいつだったか。

あのときは何がなんやらで気付かなかったが、気付けば身体から色素が抜け落ちていた。

もとから茶色かった地毛は明るい金髪に、焦げ茶の目は薄い茶色に変わっていた。

おまけに、この世界で過ごしているうちに、どんどん肌から色素が抜けていった。焼けていた肌は今では真っ白だ。

あの日―オレがこの世界に来た日、あれから今日まで、陳腐な言葉だが驚きの連続だった。

目を閉じる。

瞼裏には、これまでの日々。

振り返れば、すぐ昨日のことのようだった。

自分が本当にイレギュラーなのだと痛感したのは、文化や宗教、言葉や文字といったことではなかった。

この世界自体が俺を拒絶していた。いや、無視しているといった方が正しいか。

この世界に来たとき、俺の身体はいろいろと変化していた。この世界に適応しようとした結果だろうソレは、劣化といってもいい。

この劣化が、いいことなのか悪いことなのかは分からない。

便利なこともあれば、死にそうな程にツライこともあったからだ。

まず、ここに来て耳が聞こえなくなった。

といっても、全ての音が聞こえなくなったわけではない。例えば、自然界における風の音とか、風で揺れる木々の音とか、音楽、誰かの話し声‥‥なんてのは聞こえない。かろうじて自分の声とか、自分がたてた物音などは聞こえる。つまり他人の足音は聞こえないが、自分の足音は聞こえた。まぁ殆ど聞こえなかったってことだ。

それから鼻が機能しなくなった。これは文字通り、匂いを感じ取れなくなったということだ。

あと目がイカレた。

そのことに気付いたのは、俺が見る世界と他の奴が見る世界とに差違があるということを理解してからだった。

俺はこの世界に暗闇というものはないと思ってた。

確かに、朝も昼も夕方もあるが、真夜中になっても一向に暗くならないからだ。

俺はこの薄暗さが、この世界での夜なのだと思っていた。

だが、それにしては周りの反応が違った。夕方のような暗さで、人々はライトを用意して、まるで周囲が見えないとでもいうように歩いた。

人々の目には、夜は夜として映っていた。

ただ俺の目がおかしかっただけだ。例えるなら、ホワイトバランスを無茶苦茶に上げたデジカメか。

ついでに言えば、太陽の熱や寒さといったものも感じなくなっていた。

医者じゃないからわからないが、変わらなかったのは触覚や味覚、痛覚ぐらいか。

失ったものの分、これらの感覚は鋭くなっていた。

だが、失ったものを埋めるように、新たな力を手に入れた。

魔法の力だ。

現実を掴むのが難しくなってから、俺は周りの全てに敏感になった。

あるとき、自分に干渉しようとしてくるこの変な違和感を感じてからは、必死でそれを途切れさせないように毎日毎日一日中気を張っていた。

いつからか気を払わなくともそれを感じ取れるようになり、いつしか目を凝らせば見えるようになった。

タイラーに教わるまで、それが魔力というものだということには気付かなかったが。

俺には、空気中に波が漂っているように見える。それはどこからか流れてきて、自然物には吸収されるが、人や動物には打ち寄せている。誰もそれには気付かないが、音も匂いも熱もろくに感じない異物である俺は、世界が干渉してきているのに気付くことができた。

俺はそれを魔力波と名付けた。

その波動を身体に通すようにすると、身体の奥に力が満ち溢れ、その力の一部を操ることができた。

俺はその力を使って、自分の周囲に膜をはることにした。原理はよく分からないが、魔力で作った膜なので、魔力波を遮ることはない。

その膜の範囲内であれば、人の声も聞こえるようになった。相変わらず他の音は聞こえないが―恐らく魔力どうこうではなく、俺という異物ではそこまでしか干渉できない―それでも気の狂うような世界からは抜け出せた。

後から聞けば、知覚魔法というものの超応用らしい。

俺は他の奴からしたらあり得ないほどの、魔法の力を手に入れていた。

昔にはなかった力だ。

あの頃憧れた力だ。

人を殺せる力だ。

世界とか、失ったものの代わりに手に入れた力だ。

この金髪の男の、持つ力だ。

(‥‥なに考えてんだ。

なんでこんなこと考え出したんだったか?

今日はちょっと、頑張りすぎた)

もう、考えるな。

(   )

少女が、ワラウ‥

(本当は、)

(本当は、今となっては、音が聞こえないとか熱を感じないとかそんなこと、どうでもいいんだ。

ただのハンデだ。

どうでもいい。

ただ、この力を手に入れて一番戸惑っているのは、この俺だ)

手に持っていた水球からも、光が消える。

夕方みたいな薄暗い天井。

静寂。

静寂。

窓にはもう、誰も映っていなかった。



テストから生還しました\(^o^)/

しばらくお待たせしてすみません;

自分的にはやっとここまで着たなぁという感じです。

ホルスの話とウィレム独白は大事なとこなのでゆっくりやりました。けどやっぱ長いですかね(^_^;)


ここまで書けたのは、読んで下さっている方がいるからです。本当に感謝V(^-^)Vよろしければお付き合い下さい。

感想くださった方、こんな感じでどうでしょうか、、?(汗

またよければコメント下さい;

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