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ホルス襲来する(後)

第6話 ホルス襲来する(後)

「べスティアって‥‥あのめったに表に出てこないっていう第一王女じゃねぇか!そんな奴が出てくるってことは‥」

ホルスは肯く。

「かなり王宮側も焦っておるということじゃろう」

麗しき、処紅の乙女。

このギベルディア聖王国の主が、目に入れても痛くないとい程溺愛しているという王女。

そこまで追いつめられているということか‥。

(一般にまで募集をかけるってことは‥‥かなり手の内つまってんな。王女まで出して、これに願をかけているのか)

クリソべリルの聖血とは、ある唯一の品を指す言葉ではない。

この国内で年中に作られた品で、その質・造り共に最高級であると認められたものが、その年の聖血として選ばれるのだ。王宮は聖地の選定には、昨年の祭典が終わった頃にはすでに始めている。その頃から一年かけて、その年で一番出来のいいものを王宮付きの鑑定士たちが決定するのだ。

問題なのは、その質といつ作られたかで、その品が何であるかというのはあまり関係はない。

聖誕祭は再来月なのだから、もう件の首飾りで今年は決められていたはずだ。

それがなくなったということは、国にとっては一大事だ。

代わりの品を、急遽見つけなければならない。

ウィレムは気が高ぶってくるのを抑えなければならなかった。

盗まれたという首飾りが今年の聖血であったというのなら、それは国中の―王宮に推薦されてきた品から地方の貴族の宝庫まで―名品という名品があるところを探った後だ。

聖血に選ばれた品の出品者と職人―勿論誰がいつ、作ったかということがはっきりしていなければならない―には褒美と名誉が与えられるので、この弱肉強食な国で国挙げての探索に協力しない貴族なぞまずいない。

そこで集められて、王宮が鑑定してレベルをつけてしまった物を、後から使うと言うことは出来ないのだろう。

(予備というものをプライド高いこの国は用意してない。それに首飾りは取り戻したとしても、もはや賊の手に触れた物を使おうとしないだろう。)

「‥その話はかなり広まってるのか」

「聖血を盗まれた、という話なら殆ど知る者はおらぬだろう。せいぜい議会の長老共ぐらいじゃろう。‥‥だが、公に募集するということは」

今度はウィレムが頷いた。

「優勝した品物が聖血に使われるという事が、鋭い奴なら分かるだろうな。恐らく次の聖血に使うだとかべスティア姫の誕生祝いに送るだとか、説明は一応できるが。儀式に出れるのは他国の司祭たちに長老たる大臣たちだけだからな。形だけ首飾りを納めたと言えばいい」

「恐らく今年の元出品者と職人にはそれですますつもりだろうの」

それだけ国も本気だということだ。

だからこその、第一王女の名代。

破格の褒美。

「だろうな。‥その盗賊が誰の手の物か分かってないのか?」

「今のところめぼしい奴は誰も動いておらぬ。特に利点のあるとも思わぬしな。今回はその賊の独断だろうよ」

考え込む青年に、ホルスは心地いい背もたれに、その無骨な黒いマントに覆われた身体をもたれさせて言った。

「この私がいうのだ――間違いはないぞ」

ウィレムは俯かせていた顔を素早く上げた。

珍しいことに、その目は軽く見開かれている。

が、すぐに、だが《ウィレム》ではない顔で笑った。

「そうだった。アンタの情報だったな。わりぃわりぃ。」

フン、とホルスは鼻で笑った。

「どうする」

ニヤッとウィレムは笑った。

「褒美をとらせる、と言ったんだな」

「正しくは、願いを一つ叶えるだったかの」

彼の目には、溢れる程の意志と、秘められた強さだけがあった。

「その選定会ってのは、いつだ――?」

***

ごとん、ごとんと馬車は揺れる。

ホルスは一人、去っていった若者に思いを馳せていた。

おもしろいと思う。

久方ぶりに彼女の目に適う、それだけの者だと。

(しかし―いまだ、儂でさえ奴をはかれん)

彼が、他の者に見せないようにしている面を自分に見せている、という自覚はあった。

いつしか、彼に問いかけたことがあった。

「――げに不思議な奴じゃ。その姿をあの娘や町の皆に見せてみたいところだのぅ」

青年は、おもしろそうに笑った。

「ありえねぇよ。あの子たちは何も知らねぇ。今までも、これからもな――」

(あの子、といった)

ウィレムにとっては、己の妻や恩師もただの道具なのだろうか。

そうなら、それは彼らの信頼を裏切る行為だろう。

この小さな町の皆は彼を信じている。それだけの時間を彼らは過ごしてきたし、彼が町で暴漢を捕らえたことや、よく人助けをしているのは人の知るところだ。

普段のウィレムは、どこかひねた飄々とした所があるが、本当に好青年なのだ。

芯の強さを感じる、それは分かる。

しかし、それは彼らに都合のいいものとは限らないのではないか。

ホルスはそう思った。

あれは、擬態だと。

(あの目‥‥あの瞳の奥に、えもしれぬ炎が見えた気がした)

ホルスは、ふと笑う。

それがどうしたのだと。

彼が何者であろうと、何を企てていようと、関係がないことだと。

自分にとって、敵か味方か。

利用できるか、否か。それだけだ。

「ふふ、その炎で儂を利用してみせよ。手のひらの上から落ちるには、まだ早いだろう‥‥‥?」

ホルスは笑う。

彼女にしか理解できぬ理由で。

その瞳は、夜の闇に向いていた。

遠ざかる街の明かりに、何かを思い出しながら。

(^_^;)

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