【コミカライズ化】忘れられた第十皇女ですが、婚約者がいたようです!?
ハンアグア皇国の現皇帝の伴侶には皇后、そして5人の側妃がいる。子供は第一皇子から第十三皇女がいる。皇后の子供の第一皇子と第二皇女、第一側妃の子供の第三皇子と第四皇子と第五皇女、第二側妃の子供の第六皇子、第三側妃の子供の第七皇女と第八皇女と第九皇女、第四側妃の子供の第十皇女、第五側妃の子供の第十一皇子と第十二皇子と第十三皇女。
皇帝と皇后とは仲が良く、第一側妃は皇帝の寵愛を受け、第二側妃は内政面で皇帝を支え、第三側妃は外交
面で皇帝を支え、第五側妃は軍事力で皇帝を支えている。飛ばした第四側妃は? 第四側妃は子供を産んだと同時に他界し、今はいない。そもそも何かで皇帝を支えていたわけでもなく、皇后と他の側妃たちの中でムードメーカー的役割を持っていただけ。いなくなった今、皇后と他の側妃たちが仲が悪いわけでもないため、いなくなっても何ら問題がなかった。
ならその子供は? 第十皇女は、最初は母親を亡くした悲劇の子供だと言われていたが、年が経つにつれその印象も薄まり今ではいるのかいないかのか分からない存在になっていた。皇帝の誕生日に開催されるパーティーに出席していなくても気付かれないぐらいには。
そう、私――ラウレンティア・アデラ・ハルフォードは十七歳になったものの父親である皇帝の誕生日パーティーにさえ呼ばれていない。
生まれた時にはいた乳母も高齢で私が三歳の時に引退した。その後の引き継ぎがうまくいかなかったのか、私の元に訪れる使用人は数年後にはいなくなってしまった。お腹が空いて宮殿を彷徨っていたら、その時ちょうど新規使用人たちが雇用された時期だったらしく、間違われて私も下女として働くことになっていた。そのおかげで食事にありつけたから文句はない。
下女として働いている方が誰も来なくなった部屋で待つより、一緒に働いている子たちと同じ部屋で寝て暮らす方がよっぽど楽しいこととお金に困らないに気付き帰らなくなった。が、10年経った今でも気付かれていないから、多分私が部屋に帰らなくなったことにみんな気付いていない。
「ラウラ、今日第十三皇女殿下の婚約者が発表されるらしいって聞いた?」
「聞いた聞いた。第十三皇女殿下って今年で十七歳でしょ? 他の方に比べると慎重に嫁ぎ先を決めたよね」
「そーなの。でも、末っ子で皇帝陛下が一番可愛がってるて考えるとおかしなことじゃないよね」
「ね。パーティー中見れたらいいなぁ」
「見たいねぇ。仕事忙しくて見れない可能性大だけど」
昼食中、仕事仲間のアメリーと雑談をする。働き始めた頃から一緒で、休みの日は一緒に遊びに行くことがあるぐらいには仲がいい。一番話せる相手。
第十三皇女は私と同じ歳で、皇帝の子供の中で一番可愛い。美女は第五皇女様。婚約者候補から選別まで時間がかかって、ようやく婚約者決定までやってきた。婚約者候補は第十三皇女が三歳の頃からいたから、長い時間がかかったなあと感慨深くなる。
昼食を終え、パーティーの準備に追われ、ようやくパーティーが始まった。呼ばれたことのないパーティーを使用人の立場で見るのはこれで十二回目。最初は呼ばれたい気持ちもあったけど、使用人の立場で皇子皇女の様子を見てるとこのままの方が自分は幸せだなと思った。教育を受けられることは羨ましいけど、使用人の立場でもある程度の教育は受けられるし何より皇子皇女たちが負わなければいけない責任を私が負える気がしなかった。今では忘れてくれてありがとうさえ思っている。
パーティーも中盤に差し掛かり、皇帝がついに会場にいた人たちが気にしていたことについて話題を上げた。
「ここで皆に第十三皇女であるリリーの婚約者について、この場で発表したいと思う」
来たーーッッ、これを楽しみにしてたの
「ウル・インガル・ヴァレンタイン卿、前へ」
ほうほう、あの人が。
名前を呼ばれた男性が会場の真ん中、皇帝と横並びで立っている第十三皇女の前に出る。宮殿の中でたまに見かけることがあった人だけど、あの人が第十三皇女の婚約者。第三側妃と第五側妃の宮殿に出入りしているのを見たから、外交面か軍事面での人なんだろうとは思ってたけど、外交面の人だったのか。第五側妃の宮殿に出入りしていたのか、第十三皇女のためだったんだろう。
「陛下、僭越ながら発表前に一言よろしいでしょうか」
「申してみよ」
一体何を言うんだろう。婚約発表の場はいつ立ち会ってもドキドキする。
「私は第十皇女殿下の婚約者として、初めて陛下にお会いしました」
そうなの!?
え? 私に婚約者いたんだ。知らない間に婚約者いたし、知らない間に婚約解消されてるしで混乱する。でも、今は第十三皇女の婚約者なわけで今更前に出て、私の婚約者です! 認めません! なんてことは考えてない。お幸せにの気持ちなので、あまりお気にせず。と心の中で第十三皇女の婚約者に声をかけた。
「当の婚約者とは今まで一度もお会いしたことがありません」
うん、ないね。
「そのため、一度だけでもお会いすることはできないでしょうか」
えっ?
「一度も役割を務めたことがないため、このままですと第十三皇女殿下も一抹の不安を持つことになるとおもいます。潰せる不安は先に潰しておくべきかと」
いやいやいやいや
そんな律儀なこと言わなくていいから! あなたの目の前にいる皇帝の顔見て! ポカンとしてる!
「陛下、いかがでしょうか」
「ご、ごほん。ヴァレンタイン卿の心意気しかと受け取った。私が気にするべきことに対しての配慮、ますます気に入った。今すぐ第十皇女をこの場へ!」
さすがにこの場に私を呼んでいないことは気付いていたか。……って、そんな暢気なこと考えてる場合じゃない!
ざわつく会場、ばたつく使用人、慌てる私。
今第十皇女の部屋に行かれたら、いないことがバレる。ここ数年帰ってすらないから埃をかぶっていて、人が住んでいないことが分かる。
使用人の間で第十皇女の居場所がわからず、混乱している様子を見て時間が稼げると悟った。
「私が第十皇女殿下を連れてまいります。掃除の担当区域が第十皇女殿下の宮殿のため」
「そう、お願いね」
侍女長に許可をもらい、私以外が行かせないようにして向かう。さて、どうする? ドレスなんて持ってないし、こんな健康体の状態で出て行ったら不審がられるし。顔であなたが第十皇女だったの!? とはならない。なぜなら皇族の証である青色の髪を普段は、染めていて違う色にしている。髪色がガラッと変わって化粧をすれば顔が同じでもそう簡単にバレはしない。
問題は髪を染めているから、この染めている髪をどう戻すか。すぐに色を戻せるわけないし、ど、どうする? 呼んでくるとは言って、時間稼いだだけで何にも案が思い浮かんでいない。
数年ぶりに宮殿とは言えない、古びれた建物に帰ってきた。ここは廃墟と使用人たちの間では言われていて、まともに掃除すらされていない。誰も住んでいないんだからそりゃそうだし、なんだったら古くて床なども傷んでるから壊してくれていいし。
自分の部屋に入って、あまりの埃くささに咳が出る。慌てて窓を開けて換気をし、さてどうすると冷静になる。
体調不良を理由に今日は部屋から出て来れない。だが、二人の幸せを祈っていると伝言をもらったと侍女長に告げて、それをパーティーの場で発表してもらうのが姿も表さずにこの場を乗り越えられる手なんじゃないか。ただ、一番の問題は第十皇女がいたと言うことがあの場でバラされたため暢気な生活が出来なくなってしまったこと。
はあ、余計なことしてくれちゃって……。でも、責務も何も果たさず暮らしてたんだから、それが帰ってきただけか。先のことなんて分からないし、今はこの場を乗り越える方が先決。
よしっ、戻るか。
久しぶりに自分の部屋に帰ってきたものの、懐かしさも何もないため休憩ぐらいにしか思えない。戻ろうと窓を閉めたところで、扉の外から床が軋む音が聞こえることに気づいた。単に軋んだだけかと思ったが、にしては一定のリズムを刻んでいる。
誰か歩いている!?
私だけだと思ったのに、なんで来ちゃったのかな。ていうか私の居場所知っている人いたんだ。まあいいや、だったらその人に伝言しちゃおう。誰が伝えてもいいわけだし。
――コン、コン、コン
扉がノックされ、深呼吸をし呼吸を整える。皇女として話したことなんてほぼなくて緊張する。
「ラウレンティア殿下、いらっしゃいますか?」
なんで……!?
女の人だと思ったのに男の声で驚いたのに、更に驚いたのはさきほど皇帝に名前を呼ばれて会場の真ん中に立ち、律儀なことを言った人の声は扉の向こう側から聞こえたことだった。
来ちゃったの? パーティーから抜け出して? 皇帝は連れてこいって言ってたんだから待っててよ。て言うか知ってたんだ、ここに住んでるって。誰も知らないと思ってたのに。
まあまあ、本人が来てくれたんなら伝言なんてせず本人に直接言っちゃえばいいんだから。会いたいって言ってた人が会いに来たんだから。
「……誰ですか?」
思ったよりか細い声が出せて、自分を褒めたい。
「ウル・インガル・ヴァレンタインと申します。辺境伯家の長男で、あなたの婚約者です」
「私に婚約者……?」
私の婚約者じゃなくて、第十三皇女の婚約者でしょ。あっもしかして婚約解消この場で伝えに来たのかな? いいよ、受けて立つ。受けるだけだから何にもしないけど。
「今まで会いにくることができず申し訳ございません。言い訳をさせていただくと幼い頃は外国で過ごし、今から三年前に帰国しすぐにでもお会いしたかったのですが中々準備が整わず、現在に至ってしまいました」
そうなんだ。いたこと自体知らないから、言い訳とかそんなの気にしなくていいんだけど。
「そうですか……それで、何の用ですか?」
「本日、皇帝陛下の誕生を祝うため、パーティーが開催されています。その場に私の婚約者として一緒に参加していただきたいのです」
えっ?
第十三皇女の婚約者なんだよね? で、それを発表するために名前呼ばれてたよね? なのに、その場に私を連れて行くの? 婚約解消をこの場で言いに来たと思ったのに、まさかあの場で言う気なの!? なんて残酷な人なんだろう。
「私が? どうして?」
声が震える。辱めを受けさせられることへの怒りか。
「私の婚約者として参加者に発表したいのです」
「私ですらあなたの存在を知らなかったのに? それでいて陛下を祝う場で私を婚約者として発表? 面白くない冗談ですね」
冗談だって言って、本気なら本当にどうにかなってしまいそう。
「待って下さい。私が婚約者だと知らなかったのですか?」
「ええ」
「だから、今までお返事をいただけなかったのでしょうか?」
「……どう言う意味ですか?」
流れが何か変わった気がする。私が怒っていたはずなのに、なぜかあっちが怒っている気がする。声色や話し方が変わったわけでもないけれど、なんとなく。
「私は殿下に何度もお手紙を送らせていただきました。ですが、殿下から一度もお返事をいただいたことはありませんでした」
「手紙……?」
私宛の手紙なんて聞いたことがない。送られてきたらさすがに連絡が来る。だって私がここの担当区域だから、手紙が来てたら私に渡されてここに届けに来るのも仕事だから。でも、そんな手紙一度だって受け取ったことがない。
何かの手違いで誰かのところ行ってたのかな。まあいいか。そんなに大事なことではないし。
「……そうですか、私の手紙を受け取ったことはないのですね……」
あれ? 何にも返事してないのになんで私が手紙受け取ったことないって知ってるの? 口に出てた?
「殿下、私はあなたの婚約者として意識して今まで過ごしてきました。それが私の中で一つの道標でした」
私が混乱している間に話が進む。そうなんだ、私とは反対だ。
「殿下に人前で私のことを婚約者だと、自慢できる婚約者だと話していただけるよう今まで務めてきました。そのため、私は本日の陛下を祝う場にあなたと立ちたいのです」
ちょっと照れくさいな。第十皇女としてこんなに人と話したことないし、嘘を言っているとは思えない熱量で話しかけてくる。それがもし本当だとして、だったら尚更私はこの人と婚約を解消しなければいけないと思えた。
「そうですか。ですがあなたは私の婚約者と言うより第十三皇女の婚約者として人々に認知されているのでは?」
「私は認めたことはありませんし、噂に過ぎません」
「ならその噂を放置しすぎましたね、今更私が婚約者だと発表したところで誰も信じません。何より陛下がそれを認めないでしょう」
第十三皇女が望んだ婚約者。私が先に婚約者の位置に立っていたとして、誰が私を婚約者として祝福する? この後見えているのは、婚約解消をして第十三皇女と婚約を結ぶことだろう。
それに中々良い人そうだし、忘れ去られた第十皇女の婚約者なんて勿体無い。もっと出世欲出していかないと、飲み込まれちゃうよ。その波を私は防いであげることはできない。でも、第十三皇女ならそれができる。
「いいえ、陛下は私の言うことを無視できません」
「どうして言い切れるのですか?」
「私はあなたに自慢の婚約者だと話してもらえるよう努力しました。その結果として、国境沿いの紛争を終結させました。これにより外交面で大きな利益をもたらしました」
新聞で読んだ。数十年にわたって続いていた紛争を武力ではなく、話し合いの場で終結させたのが次期辺境伯と。それがこの人だったんだ、すごい。
「紛争を終結させたことを報告した場で、陛下は私に一つ望みを叶えると仰いました。その権限を行使します」
私との婚約継続で!? 絶対もっと違うことに使った方がいいって!
「……あなたがなぜそこまで私に拘るのかが分かりません。私には何の後ろ盾もなく、あなたにもたらすことはないのですよ?」
考え直した方がいいってと暗に伝える。
「私は殿下にただ一言、褒めていただければ。それ以外は私が殿下にもたらします」
う、うーん、なんで私に褒めて欲しいんだろう。ここで褒めて、私のこと諦めて第十三皇女を婚約者にした方がいいと言ってもこの人は諦めないだろう。
私のこと辱めたいわけでもないと言うのはわかったし、私に対して好意的だってことも分かった。だから、その点についてはもう誤解してないけど、諦めてもらう手としてはこれが一番かも。
「あなたは今の私の姿を見たことがありますか?」
「……いいえ」
「では、一つ賭けをしましょう。あなたがその賭けに勝てば私はあなたの婚約者として隣に立ちあなたのことを褒めましょう。ですが、私が勝った時は私のことを忘れてください。受けますか?」
「もちろん。私は賭け事には強いんですよ?」
「私も中々ですよ。内容は、私のことをパーティーの中で見つけること。あなたがこの場を離れたら私もパーティーに向かいます。いかがですか?」
「ええ、問題ありません」
「期限は本日中、いいですね?」
「はい。必ず見つけます、殿下」
その自信はどこから来るんだ。私のこと見たことないでしょ。
失礼しますと言って足音が遠ざかる。ホッと一息ついて、さてここからが正念場だと気合を入れる。第十皇女を連れて来いに対しては彼がどうにかしてくれるだろう。私はただパーティーにいればいい。見つかるわけない、だって使用人だし。
さっさと諦めて第十三皇女と婚約することだね!
わーはっはっはと心の中で笑って、そろそろ戻らないと怒られると時間的にも彼はいなくなっていそうだったため部屋から出て会場に戻った。
会場は何事もなかったようにパーティーが続いており、ホッとしつつ仕事に戻る。第十皇女と彼が話しているのを見て、行け第十三皇女! 押せ! と応援する。
仕事は山積みのため、会場の裏側を駆けずり回る。会場の中にはいるし嘘はついていない。が、外にゴミ捨てに行ってと言われたため会場を後にする。
重い! 腕引きちぎれる!
一人で行っているため、誰の手伝いも得られない。みんな忙しいしアメリーも見当たらなかった。
はぁ、今日は疲れたしもうゆっくり行こう。急いだって早く着くわけじゃないし。こんな重いもの持って、急げるわけない。
「レディ、お手伝いしましょうか?」
宮殿内だけど、夜に外で後ろから人に声をかけられビックリした。思わずゴミ袋を落とす。瓶とか入ってなくてよかった、入ってたら割れてた。
「お気遣いありがとうございます、ですが高貴な方にそのようなことは」
話し方からして使用人じゃないとわかった。顔が上げられない。だって、数時間前まで扉一枚越しに押し問答をした相手がそこにいるのだから。心臓がバクバク言っている。バレてないよね?
「私のことをそのように言っていただけるとは嬉しい限りです。ですが、女性一人だけでは重たいでしょう?」
「あっ……」
落としたゴミ袋を奪われる。そして目線でゴミ捨て場へ案内してと言われる。バレてるわけじゃないし、変なことしようと考えているわけでもなさそうだし、いいか?
「レディ、私の話を聞いていただけませんか?」
「私でよければ」
「ありがとうございます。私は幼い頃に親に連れられてこの宮殿にやってきました。そして、そこで第十三皇女と出会いました」
ほうほう、そんな前から。
「ですが、どうも話が合わず隙を見て逃げ出しました。その先で皇后陛下にお会いしました」
へえ、そりゃすごい。
「皇后陛下に声を立てず近づくよう手招きをされ、近づくと陛下は何かを見ていました。私もその先を見るとそこには新しくやってきた使用人たちが研修を受けていました」
ほぉ、皇后てそんなところまで陰から見てたんだ。
「その場を離れ、陛下になぜ見ていたのかを告げると陛下は言いました。『あの中に私たちの可愛い娘がいるの』と」
……
「そして、こうも言いました。『あなたはリリーとは相性が悪そうね、誰なら気兼ねなく話せるのかしら。きっとあの子ならあなたと相性が良いでしょうけど、あの子はあなたのことを必要とせず自分で進んでいるわ。今のあなたには行動力と予測力が足りないわね』」
こんなに静かな道だっただろうか。彼の声がよく聞こえる。
「私は最初誰の話をしているのか分かりませんでした。けれど、数ヶ月後に宮殿に来た時、自分と同じくらいの歳の使用人を見かけました。その人は帽子をかぶっていましたが、暑かったのか人目につかないところで外していました。太陽の光の下で、青く輝く髪を見たのです。その時に、私は皇后陛下が誰の話をしているのか気づきました」
今は気をつけているけれど、髪染めたところで色を暗くすることが出来るだけで太陽の光などの明るい場所に行くと元の髪色が目立つ。
「その後、父親の仕事について行った時に第三側妃殿下に会い、陛下の話とこの話をし他言無用という条件で教えてもらいました。第四側妃には一人娘がいて、皇后陛下と自分を含めた側妃たちは娘を見守っていたが使用人たちの怠慢により世話をしていない状態だったと。使用人たちを解雇し、新規雇用し、第十皇女がいるはずの宮殿に行くとおらず、探せばその新規雇用の使用人たちの研修に参加していたと。それに気付き、陛下と側妃たちは話し合いをしこのまま彼女を見守ることに決めたと。なぜなら、楽しそうに過ごしていたことと彼女の母親は生前娘がしたいことはなんでもやらせたい。と言っていたことを思い出したからと」
……最初はしたいわけじゃなくて、ただお腹が空いただけだったけど。その後も元の場所には戻らず参加し続けたのは、確かにやりたかったからかも。誰かが来ているのは気付いていたけれど、使用人の方がいいと思った。だから第十皇女の話は出るたびに息を潜めて、知らないふりをしてきた。
「私は彼女が楽しそうに働く姿を見て、思いました。誰かを恨んでもいいはずなのにそれはせずただ前を向いて進んでいる、それがとても羨ましく同時に欲しいと」
楽しそうか、楽しかったけど辛いこともあった。でも、結局辞めずにいたのはなんだかんだ楽しかったんだ。
「彼女の婚約者にして欲しいと伝えると、皇后陛下に呼ばれ自分が前に話したことを覚えているかと聞かれました。それを手に入れられたら、結婚を認めますと言われ内定はしました。が、決定ではなかったため外国へ行き経験を積み、帰国して成果を出しました。そして、陛下に言われました。彼女が認めれば、私たちは何も言いませんと」
「……その割には第十三皇女の婚約者になってましたけど?」
「ええ、だから本当に驚き第五側妃に聞けば娘が私の功績と姿を見て皇帝陛下におねだりしたらしく、もう私たちでは止められないところまで来てしまった。あなたに出す最後の試練ね、と」
いつの間にかゴミ捨て場に着いていて、彼はゴミを捨てる。身軽になり、私の前に立つ。
「殿下、私はあなたを見つけました。賭けは私の勝ちですね」
「……ええ、よく私を見つけました。すごいですね」
「ありがとうございます。……あなたの意思とは関係なく、婚約者になったことお詫びします。ですが聞かせて下さい。私はあなたの隣に立ちたいと昔も今も思っています。あなたはどうでしょうか? あなたが私の隣に立ちたくないと思うのであれば、もっともっと功績を上げます」
「……ふふっ、何ですかそれは。諦めると言うところなんじゃないんですか?」
「すみません、諦めることはできません。あなたがどうしても欲しいのです」
「……賭けはあなたの勝ちです。言ったことは守ります。そして、今まで目を逸らしてきたことに対しても目を向ける時が来たようですね。でも、あなたが隣にいてくれたら私は頑張れそうです」
彼の顔がパッと明るくなる。
「殿下、抱きしめていいですか?」
「……ゴミ袋を触った後なのに?」
「殿下」
意地悪なこと言わないでくださいと顔に書いてある。それが面白くて笑えば、抱きかかえられた。月が近くなる。
「この時を夢に見てきました。でもまさかそれがゴミ捨て場の前だとは思いませんでしたが」
「予測力が足りませんね」
顔を見合わせて笑う。私も思わなかった。まさか今日はこんな日になるなんて。
その後、私は第十皇女として人前に立つことになった。皇后と側妃たちに、今まで見守ってくれたことを感謝すると、当たり前だと言われた。どうやら母は皇后と側妃たちのムードメーカーで愛されていたらしい。それは母が彼女たちを愛していたからでもあるらしいけれど。兄弟たちも私の存在は知っていたけれど何も言わなかったのだと。よくお菓子を皇子や皇女たちからこっそりもらうと思っていたけれど、まさかそれが理由だったとは。案外私が気づいていなかっただけで、家族は私のことを見守ってくれていたし愛してくれていたらしい。皇帝と第十三皇女には謝罪をもらった。皇帝は私のことを忘れていたことに関して。第十三皇女は彼が私の婚約者だとは母から聞いていたけれどどうしても欲しくて、第十皇女もいないに等しいのだからと皇帝にねだったと。そして手紙も自分が届かないようにしていたと。私はその謝罪を受け入れた。気にしなかった自分も悪いし、そういうこともあるよぐらいに考えていたから。その後は皇女としての教育に追われることになった。そして、数ヶ月後。
「あなたがここから去ってしまうのは寂しいけれど、寂しくなったらいつでも帰ってきていいからね」
彼の元へ行く日、皇后陛下や側妃たち、そして兄弟たちが見送りに来てくれた。なんだかちょっと照れくさい。
「ありがとうございます。その心遣いが嬉しいです、……お母様」
照れながら抱きついて皇后陛下に言えば、頭を撫でてくれた。そして側妃たちにもお母様と抱きしめて、兄弟たちにもお兄様お姉様と抱きしめて別れを悲しんだ。
馬車に乗り、彼の元に向かう。
「もっといても良かったんじゃないの?」
アメリーに言われ、そうだねでももっといたら行けなくなっちゃいそうでと伝えた。アメリーは私の専属の侍女になった。なんでも最初から知っていたらしく、皇后陛下の手先だったらしい。の割には気安いと言えば、友達でしょと言われ笑い合った。
馬車で一週間かけて辺境伯までやって来た。
屋敷の前に着き、扉が開くと彼がいた。
「ラウレンティア、手を」
「ありがとう、ウル」
私はここで今日から生きていく。少し不安だけど、彼がウルが隣にいてくれたらやって行けそうだと思えた。どうなるかは分からないけど、先のことなんて考えたって仕方ない。ウルとこの先を生きていく。