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91 もしも魔力が暴走したらあなたに×××を頼みたい






「もし、わたくしの魔力が暴走したら、止めてくださいますか? 王家の威信に関わりますし、侯爵家の名誉の為にも……」


「コントロールは問題ないだろう?」


「万が一の時に、貴方の魔装で無力化をして欲しいのです」


「どうしてだ?」


 魔力過多で循環が追い付かず、理性で抑え付けている魔力は暴発すると肌に紋章が出る。

 魔力が一旦暴走すれば、相殺する為にはそれ以上の魔力量をぶつけなければ消失しない。


 歩く暴力兵器ともなり得るセルリアーナを、謀反を企て王家転覆を目論む大罪者。


 そうゲーム内では、悪役令嬢が断罪された先で野次がそう飛ばしたのを記憶している。

 だから目の奥がチリチリとまだ熱が残存しているのが、彷彿する体内の熱量性とは裏腹に頭は妙に冷静だった。


「見て下さい」


「おい、女が無闇矢鱈に肌を露出するのは────」


「わたくし、感情が暴発したらこうなるのです」


 腕の破れた裾を上まで捲り上げると、古代文字が複雑に絡み合い柔い肌へ刻まれていた。じんわりと鈍い疼痛と、そして熱がセルリアーナの高騰した魔力に反応しているのだ。


「今は抑えられていますが、人を傷付けたら、家紋に傷が付く。御父様達が守って来た由緒正しい王家との不可侵条約にも侵害する」


 いつかゲーム設定上にある魔力暴発が起これば、セルリアーナだけで無くエスメラルディ侯爵家や多くの人々を巻き込む形になる。


 魔女呼ばわりされ、討伐対象になったら即座に侯爵家は爵位剥奪。そして侯爵領は火の手が上がるだろう。


 魔力過多の生きる兵器が治める領土へ住まう領民達も下手したら「不穏因子」として口減しをされるはずだ。


 そう素人目線でも分かる深刻で不利な立場のセルリアーナはせめて、その危険な芽だけは摘んでおかねばならないと思った。


「どうして俺に見せる?」


「もしも何かあったら、魔装でわたくしを撃ち抜いて欲しいから」


 それがエンドロールなのである。避けられない、プレイヤーへに贈るハッピーエンドの手向け。


 悪役令嬢セルリアーナはどんな状況下だろうとも、命綱無しの綱渡りである。今にも解けそうな一本の縄の上を歩く様な状態で、一つの選択を間違えれば奈落の底に転落する。


 それが他者から突き飛ばされても、真っ逆さまに堕ちる。宿命とも言えよう。


「……俺に見知ったお前を貫いて、残る傷を付けろと言うのか。随分と虫が良いな」


「王家を守った功績と、わたくしは誰とも婚姻出来ぬ足枷を得られますので。大人しく遠方の領地で細々と暮らせますし、箔がつきますことよ?」


 しかも、殿下ルートを着実に進む主人公が無事、恋を成就させると必ず断罪イベントへ発展する。セルリアーナを公式の場で追放し、事故死として見せ掛けるシナリオが描かれる。


 泣きじゃくって、どうしてと引き摺られ連行されると、呆気なく頭を貫かれて絨毯を赤く染めるのだ。

 終わりを告げる推しと出会い、なんて冷血で的確な射撃のスキルがあるのに、名前すら語られないのだろう。


 だが、今はこんな汚れ仕事を最愛の推しであるラルシュにさせたくはない。


「十八の女が……未来を簡単に語るな」


「だって、それが決まっているのですから。運命に逆らうほど、わたくしは出来た令嬢ではないもの」


「ふざけるな。俺がそうですか分かったと引き受けるとも?」


「──わたくし、当て馬ですもの」


「当て馬? お前はさっきから間違っている! 他人を貶め蜜の味を啜る人間に尊厳を踏み躙られて……それで、良いのか? 本当に、諦めてしまうのか?」


「本来ならば、わたくしは王家を揺るがす謀略を企てた叛逆罪として……此処で疑わざる者は排除するとして、殺されるのが筋書き通りと申し上げましょう」


 ラルシュに実は暗殺されるシーンはゲーム内で多い。


 だが今此処で命を落とせば、ラルシュがこれから先迎える「決められた死」に抗うことが出来なくなる。


 魔装展開はされたままだ。けれども、解除される。黒い霧は燦々と散って行き、ラルシュは前髪を乱雑に掻き上げてこう言い放った。


「……やめた、やめだ……馬鹿らしい」


「────え?」


「お前を殺せるわけないだろう」


「あら、殺した方が……例え殺したフリでも上手く事が進みますよ。お父様から蔑まれて、暗躍を押し付けられて功績をあげたら祝福されます」


「お前から、この俺が何もかも奪えと?」


「そこまでは申し上げませんけれど……あの、怒ってらしてます?」


「はあ? 怒りたいのを抑えてるに決まっているだろう! 俺はお前だから躊躇っているのに、お前は勝手に己の末路を決めやがって……少しは生き延びる未来を考えてくれ」








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