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88 目には目を、贖罪の機会は与える前の前菜を②






 心の中は醜い感情で支配される。


 どうやって苦しめようかとか、どうしたら一番の苦痛を与えられて二度とそんな考えに行きつかぬような制裁を下してやろうか。そんなことばかりが、駆け巡る。


 誘拐犯達は初犯では無いだろう。手際が良過ぎるからだ。余罪は沢山掘ればあるだろうし、法の抜け道や亡命先も下手したら確保しているだろう。


 こんな悪どい人間は前世も多くニュースで取り上げられ、苦虫を噛み潰してテレビを見詰めていた頃を不意に、思い出した。


(わたくしは……、腐っても悪役なのね)


 被害者の親族は泣き寝入りで、今も加害者は世に放たれている。


 それが社会構造の一部になっており、結果として被害者を増やすだけなのに、結局は金を積めばある程度の厄介事を片付けられると過信する連中がいる。


 ああ、やっぱりこのまま警邏隊に引き渡しては駄目だ。根本的な悪は根を絶てず、解決はしない。


 泣きながら地を這って逃げようとした女性を、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら痛ぶって弄んだのは目に見えている。


 目には目を、歯には歯を。ハンムラビ教典に見倣い、彼等には盛大に被害者の苦痛を今一度味わわせてやらなければ。


 過去の被害者親族達も浮かばれない。これは正義の名の下に行われる害虫駆除である。


「────正義とは、罪の無い哀れな民達が最期の時に等しく心に宿す、澄み渡る海原を揺蕩う光である。ベレヌス神は光を惑わし仇為す者を決して、深淵を覗かせるまで如何なることにも眼を閉じぬだろう」


「はあ? 聖職者みたいに説教説くんじゃあねえよ、箱入りお嬢さんが」


「ベレヌス神が説く正義の論証を、あまり理解されてらっしゃらないようですね?」


「俺を誰だと思って喧嘩売ってんだよてめえッ! てめえの家も家族も、友達も全員内臓ぶち撒けてぶっ殺してやる!!!!」


 最大出力で、徹底交戦をするつもりだ。ホラ吹き達が威勢良く負け犬の遠吠えをしている間に、魔力を込める。


 セルリアーナは一度も使おうとしなかった、特大魔法がある。範囲が狭い上に、特定の効果判定が限り無く「破壊行為」に近く、膨大な魔力が背を押してくれる圧倒的武力攻撃となるからだ。


「我が怒りを踏み鳴らす者、天から見下ろす逆光が迷い穿たれる先へ誘い、嘯く彼等の囁きに耳を傾けよう……」


「どうせハッタリ(ブラフ)よ! この王国内で大魔法が使える人間は、数人しかいないんだから有り得ない────」


「全てを凍て付く孤高の氷にて嘆きの唄を奏で打ち消さん────────特大魔法、無慈悲なる(インプロブス・)氷の輪廻(レインカルナティオ)


 頭上から円を描いて氷柱の如く、範囲内にいた者全てを囲い氷で覆い尽くす「無慈悲な攻撃」である。


 特大魔法は詠唱時間が長いのがデメリットだ。ゲーム内でも魔力出力において、戦闘時攻撃ターンを数回犠牲にしなければ発動出来ない代物である。


 しかし、此処はゲーム世界であっても生身の人間が歩き会話をし、生活をしている。


 人間相手に展開したのは幼少期に魔力を暴走しかけた時や、前セルリアーナが婚約者に纏わり付く令嬢達への嫌がらせに散々使っていたが。


 今は現セルリアーナの意思で発動させた。怒りの矛先が向かうと、誘拐犯達は大きな悲鳴を上げながらどんどん足先から登る冷気の恐怖に慄いた。


「うわあああああッ!! 俺の足がッ! 俺の足がぁああッ!!」


「助け、助けてえぇっ!! 許してッ、私が悪かったから!!」


「誰が計画したのかしら、こんな酷いことを。答えなさいな」


「こ、答えたら助けてくれるのか?!!!」


「証言の明瞭性によるわね。だって、信憑性が証明出来ねば無意味だから」


「わか、分かった!! 言う、言うからぁッ!!!!」


 じわじわと目頭が熱くなって行く。体温が沸騰しそうなくらい、熱い。


 セルリアーナは周囲が氷に包まれて行く最中、吐息が白いことなんかお構い無しに誘拐犯達に自白を促した。


「その口、飾りなのかしら。わたくし、気は長い方では無いわよ」


「あ、あのッ、貴族家の養女にしてやるって超良案を蹴っ飛ばした女だ!!」


 このまま口を割らなければ、凍死もしくは氷漬けにされた肢体は血流が途切れて最悪の場合は神経障害が起こるだろう。


「どなたのこと?」


 低体温症を起こしたのか、彼等は並びの悪い歯列をガチガチと鳴らしながら己の命のタイムリミットを噛み締めたようだ。


「いやああああああああああああああッ」


「早く話しなさい、加減を間違えてやらなくも、無いのに……」


 魔力過多の体は便利だ。枯渇しないからだ。魔力切れを起こせば助かる見込みがある、と踏んだ彼等の浅慮は儚く砕け散った。


 例えどんな魔導士だろうと、特大魔法を長時間発動継続させれば、いずれは魔力切れを起こして解除される。そんなところだろう。


 けれども、セルリアーナは湧き上がる憤怒と燃え滾る血液が訴え掛ける。


「ああ────、本当にわたくしを怒らせるのが上手いのね…………()()()()


 魔力が暴走しそうになって、殺意塗れのセルリアーナの眼を覆う者が「本物の救済者」なのだろう。





 人類は間違った選択ばかりして来たのに、彼だけは決して……生まれ持った純真さで、反旗を翻さないのだから。








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