87 目には目を、贖罪の機会は与える前の前菜を①
「ちょっと計画と違うじゃない! それに失敗だなんて────様になんて報告すれば!!」
どうしてこんな酷い計画を立てた首謀者達に、捕縛された一人の女性もいるのか?
怒号と共に、耳を疑いたい悪行に手を染めた連中の戯言がセルリアーナの中にあった怒りを彷彿させた。
「ふざけんなよ!! 魔力封じの腕輪をしたのに、どうしてあんなに動けるだなんて報告になかったぞ?!」
聞きたく無い、答え合わせだ。何やら揉めている。
セルリアーナは武術も習得していたのは、誤算だったらしい。
「あんな女、さっさと傷物にしちゃえば良かったのに。王太子殿下の婚約者なら、汚してしまえばその地位は失うんだから」
「悪女は見知らぬ暴漢に襲われて、痛い目に遭って生涯表舞台に出て来なければ良いのよ」
馬鹿馬鹿しい、そうセルリアーナは全てを悟った。
「前金だけじゃ悠々自適な生活とは程遠いじゃねーか」
「計画が遂行されなければ、残りの金貨貰えないじゃない! ああもう! アンタ達が鈍間だからよ、とっととやれば良かったのにさ!!」
「俺達の所為じゃねえよ! それにお前だってあの化け物召喚されて、物の回収せずのこのこ逃げて来やがって!!」
「はあ?! アタシはちゃんと────ッ!!」
傷物になれば、貴族社会からも消える。つまりセルリアーナは男の手垢が付いたと、社交界から評判は駄々下りになり「不貞」同然のレッテルを貼られるのだ。
そして家門を結果として汚して、生涯その汚点と共に惨めに生きる貴族令嬢としての死を負うことになる。
野放しにすれば、二次被害は拡大するだろう。新たな被害者も出て、彼等は売った金で美味しいご飯に酒、そして欲を発散させる。
他人の不幸で飲む酒ほど、美味しい物は無いと酔いどれの中でほざくのだ。
なんで、こんな下衆を生かしてやらなければならないの?
「……はは、…………ッあはははははは!」
(これは全て、悪役令嬢セルリアーナを貶める謀略だったのね……)
セルリアーナは腹を抱えて笑った。必死になって、全員が救助されることだけを考えて行動した自身の、他者を疑わぬ残った善良な心が滑稽だと卑下した。
こうやって他人の善意に漬け込み、気に食わぬ相手ならば死んだって構わない。無頼漢に乱暴にされて傷物になってくれたって、同性であろうとも心が痛まないのだ。
根っからの、意地悪で醜悪な人間は他人の痛みなんてこれっぽっちも響かぬ様設計されているんだと。
セルリアーナは汗を袖で乱雑に拭って、侮蔑を滲ませた双眸で誘拐犯と共犯者の女性を睨み付けた。
「あーやっぱりそうなるのよね。どんなに善行をしようと過去の悪行は無視出来ないって?」
己の醜悪さを思い知らせてやらなければならない。鉄槌を下すのは、理不尽な一方的な暴力でも無いのだ。
先に拳を奮ったのは、彼等なのだから。
「わたくしのことそんなに疎ましいなら、とっとと何処かの貴族とのコネ使って養女養子にしておけば良かったのに……。これも何かのご縁、わたくしがご紹介しましょうか? 貴族の仲間入りになりたかった道、貴女自身が潰したのよお馬鹿さん?」
「底辺出身のアタシ達がハイそうですかお願いしますって頭下げたって、生まれた時から負け犬には変わりないのよ!!」
「知られちゃあ、俺達も朝日を拝めないんでね。此処でくたばってもらおうか」
「だから御貴族様だけが裕福に生活する根源を絶ってやろうと思ったのよ。それに、アンタみたいな高慢卑劣な女悪女が、王族との婚約なんて相応しく無い」
「他人の優しさでご飯食べて、尊厳を奪って蹴落として王子様の恋心を掴んだあの方? 馬鹿じゃないの?」
「はあ?!!! アンタにあの方の苦しみが理解出来ないわよッ!!!!」
「どんなに相手が嫌おうと暴漢に犯されて娼婦として売り飛ばされろなんて思わないわよ? 同性としても心底軽蔑するわよ」
「その魔封じの腕輪があれば、アンタが太刀打ち出来る訳────」
双頭の狗の膨大な魔力余波で、魔力封じの腕輪は亀裂が入っていた。二流が作った模倣品であったから、外部からの魔力余波に耐え切れぬ構造だったようだ。
(こんな模倣品でも、魔力持ちは形勢逆転されるのは考えようね…………。でも、今は可愛い飼い犬ちゃんに感謝しかないわ)
ばきりと砕け落ちて、自由になった両腕を見せてやると、彼等は直ぐに戦闘態勢に入った。短刀やナックルを装備して、武力行使を試みる様だ。
くすりとセルリアーナは不敵に笑みを作った。
「まずはわたくしを乱暴に扱った罪よ、汚い手で触るんじゃないわこの腐れ野郎が」




