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85 何一人だけ自由になっちゃってんの? おいコラ、モブにも人権あるんだぞ





 古い建築物だからか、劣化しているようだ。壁に小さな穴が空いており、大きな声で泣くキーパーソンと情報共有をしなければならない。


 監禁されてマイカの方が数時間長くいるだろう。見張りの人数や現在地の目測、見聞きした物があればセルリアーナは情報を聞き出す必要性があった。


 ゲームではマイカの安全と生存しか描かれていない。


 残った被害者達はスチルでも描かれぬくらいだ。正ヒロインが好感度を高められるイベントが、こんな物騒な事件に早変わりである。


 なんたって、ヒロインだけに都合が良いストーリーだ。


「チャンベラさん、御無事ですか?」


「こんな、こんな怖い思いをするなんて……ッなんでよ、私はアルベルノの寵愛を一身に受けているはずなのに!? どうしてこんな、酷い扱いするのよッうえええええーん!!!!」


「気を確かに。助けは来ます、まずは冷静に────」


「これが冷静になれるって言うわけ?! こんなのイベントじゃ叩かれたり乱暴な扱いされなかったのに!!!!」


(え? イベント?)


 セルリアーナは耳を疑った。

 イベントなんて言葉が出るのは、つまりセルリアーナと同様に彼女もまた転生者であること。


 確かに悪役令嬢セルリアーナの評判を落とす行為に対しては、出来うる限りの回避はしてきたつもりだ。

 その度にマイカは上手くイベントに誘導されたり、大衆心理を使ってセルリアーナを悪女の印象を植え付けた。


 黒の点と点が、一本の線に繋がり掛けた。

 それならば的確な選択をして逆ハーレムルートに円滑に進めたのも頷ける。


 逆ハーレムルートは一つでも選択肢を誤れば、正規ルートの攻略者一人との恋愛になる。攻略者のほぼ全員と親密度がマックスになった上で、王太子妃になるなんて製作者側の強欲さが滲み出ているだろう。


「チャ、チャンベラさん、何を仰ってるのか分かりかねますが、とにかくパニックを起こしては元も子もないです」


「はあ? このイベントを通じて、皆んなが憧れる英知なる座に着くんだから!!」


 光魔法は単なる珍しいから王家がヘラヘラと媚び諂う代物では無い。ベレヌス神はグランドル王国の唯一神で、光魔法は祈祷や教会側の勢力や援助に基づいて成長の兆しが生まれる。


「私はね!! こんなしょぼいイベントでもやっと……やっと、デイヴィスも落とせたのに!!」


 本来ならばゲーム上でも聖地巡礼や教会での奉仕活動に、貧民街に住まう人達への炊き出しもボーナス点に含まれるのだ。


 しかしこのマイカ・チャンベラはあれ程警告をしたにも関わらず信仰心を仇で返しているようである。


 これは推測だが、ベレヌス神への信仰心や神が望んだ人類への幸福に繋がる奉仕をすることで力は増すのだろう。


 マイカは信仰心なんて持ち合わせていない。王家が囲っている現状で、未だに自分本位な堕落的生活を送って逆ハーレムルートへ進もうとしている。


 欲深い女だな、と認定せざるを得ない。


「この毛穴一つ無く愛くるしい完璧な、誰からも愛されるべく生まれた私の幸福ライフを……! 邪魔する奴はマジで誰であろうと殺す。────死んでもらうんだから」


 まさか悪役令嬢に大きな独り言が聞こえており、且つ意味も理解していないと思っている愚かなマイカはそれからもブツブツと吃った声で続けた。


 どんなに自分自身が愛されるべく人間であることを。


 セルリアーナは己のことしか考えぬヒロインに、かける言葉なんてもう無かった。いや、要らないと思ったのだ。


 好きな人に生きて会いたいのならば、今は耐え忍ぶしかない。どうせ遅かれ早かれヒロインは無事に救出されるのだから。


「────おい、どうなってる?」


「くそッ、警邏隊の奴等なんで此処が……っ!」


「武装しろ! 裏手から逃げるぞ!!」


 何やら外が慌ただしくなって来た。一晩固い床で過ごすのかと思いきや、ゲームのご都合主義が立派に発動したのだろう。


 純粋無垢なヒロインが一晩も無頼漢と過ごすなど、乙女ゲームでは有り得ないのだから。


「ど、どうなるの私達……ッ」


「武器とか、聞こえたよね……? ま、まさか殺される……とか」


「嘘?! そんなの嫌よ!!」


「……ああ、ベレヌス神よ……罪無き迷える子羊達を御導き下さい」


「家に帰らせて……ッパパとママに、朝酷いことを言ってしまったことを後悔しているの。まだ謝れていないのよ私……嫌よ……」


 騒々しく足音が聞こえて、被害者達は皆が肩を震わせて怯えていた。武装され、万が一港から船で輸送されて仕舞えば一巻の終わりだ。


 ベレヌス神は平等に現れてやくれやしない。


 ヒロインのマイカ・チャンベラへ今世稀代の光魔法を授けたも同然である。神に祈ろうが、所詮は気休めにしかならない。


 窮地では、隣人だろうと助けてはくれないのだ。では誰が助けてくれるのか。そう、自分しかいない。


「皆さん、此処で蹲って助けを待つのか、証拠隠滅で命を落とさぬ可能性に賭けるか、それとも────立ち上がるのかお選び下さい」


 魔力封じの腕輪は外部から別の魔力を当てなければ解除出来ぬ魔道具である。

 ただセルリアーナはすくりと、立ち上がった。


「足音や声から推測して、見張り番と監視役十人が今一箇所に集まる中。逃げ出す好機がやっと、生まれました」


「で、ですが!! 此処で警邏隊や行方不明者として捜索願いを出してくれているはずの両親達等、救助を待つべきでは?!」


「彼等の焦った上擦る声音や、武装する環境的背景を鑑みて救助を待つのはリスクを背負うことも同然です」


「リスク…………?」


「誘拐犯が証拠隠滅にわたくし達を処分しかねないのですから」


「ヒッ……!! しょ、処分って、!!」


「こ、殺されるってことですか?! そんなのあんまりです!!!!」


「報酬に目が眩んで散々悪事を働いた人達に、前科はあるのだから捕まれば一発KO。つまり死を意味しますから……、捕まるのだけは避けますよね?」


 そう、マイカが先に見付かり救助されれば乱戦や逃走に発展する。武力行使を選べば、人質や人間盾に使われるのも有り得る。


「一人殺めたら、二人も三人も同じでしょう?」


 また、マイカ捜索より前に逃走経路確保を選択したら。潜伏先である軟禁場所と証拠は隠滅に、セルリアーナ達商品は容赦無く命を奪われ、火を放ち死を免れないだろう。


 どちらにしても彼女達を早く動かす必要がある。







「罪悪感を感じぬ輩に、運命を委ねて……果たして良い結果が生まれると思いますか?」









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