82 絶対なる必要悪(きゅるん)誘拐イベント①
「た、大変です! セルリアーナ様ッ!!」
これはセルリアーナが悪事を働いたと思われるイベントの一つだ。避けねばならない。
好感度を上げ損ねたプレイヤーにボーナスイベント「ヒロインの誘拐イベント」が終盤で発生する最後の砦だった。
このイベントはプレイヤーが操作するヒロインは暴漢に襲われ突如誘拐されてしまう。
(しかも、特に大事なのは逆ハーレムエンドにおいて絶対必要なイベントだってこと……)
イベント前のフラグ立てには、お忍びデートで出掛けるはずが待合先で現れぬヒロインに、危機迫る予感を攻略者が感じて火蓋を切る。
救出に来てくれるのは、好感度を一番上げたい攻略者内の一名限定。救出手立ても分岐点が幾つかあり、選択肢を間違えれば負傷したり、逆に稀だが好感度を下げてしまうこともある。
しかし此処である仕掛けを施していれば、逆ハーレムエンドに王手が掛かる。
「チャンベラさんが誘拐?」
この誘拐事件は悪役令嬢セルリアーナがヒロイン誘拐に一つ噛んでおり、暴漢に襲わせた暴行罪と重罪に当たる誘拐罪も終幕で断罪時使えるネタになるのだ。
セルリアーナは実際、この件は関与していない。
取り巻き連中が策略し、自白した際にセルリアーナに圧力を掛けられ従わざるを得なかったと、まんまと罪を擦り付ける。
そして悪役令嬢は断罪され、ヒロインは攻略者とハッピーエンドを迎えるのだ。
「アジトは?」
「それが……まだ、尻尾を掴めず」
まだ手付かずの令嬢を攫い、隣国や好事家等に売り飛ばし、大金に換金する。
また上位貴族家ならば世間体を気にして、多額の身代金を要求出来るのでグランドル王国でも首謀者捕縛に手を焼いて居たようだ。
「王家との繋がりを確固たる物にしたく第二王子の婚約者でもある肩書を使わぬ手はありませんこと? 人質に一番適しておりませんか」
「何を悠長なことを言っているんだ、早くマイカを探しに行かねば!!」
「アルベルノ殿下、此処は我々に……ッ」
「これが落ち着いていられる状況か?!!!」
「殿下。恐れ入りますが貴方様がジタバタとしても解決には至りません」
それに、男爵家養女として迎え入れる話が浮上したがマイカ自身が断ったらしい。正ヒロインは平民で市井出身者であるステータスを、意図的に変えれば状況がどう転ずるか予測不可能になるからか。
もしかして、マイカは転生者なのかもしれない。
その疑問が今になって、セルリアーナを核心の一歩手前まで近付けさせた。マイカが仕組んだ際どいイジメ騒動や攻略者をほぼ百%落とす方法を熟知しているのならば説明が付く。
「貴族令嬢だろうと、か弱き乙女達を誘拐する愚弄者を野放しにする等、グランドル王国の威信にも関わりますわ」
「……しかし、手掛かりが少な過ぎて」
それならば攻略者の誰かが置き手紙を持ってそろそろ現れる頃だ。マイカが誘拐された証拠が得られれば、警邏隊や王立学院の教員達に応援要請することも可能である。
けれども、事態は全く想定外の展開になるとは。
(どうしてこうなったわけ?)
シナリオ通りには行かず、まさかセルリアーナも誘拐されるとは。
警邏隊に魔力残債の痕跡を探しに、市井で歩き回っていた。流石に公の場で堂々と一市民の為に私的に動いたとなると、アルベルノ殿下の対面は保てなくなる。
よってセルリアーナが糸を手繰り寄せる様にして、マイカが残した手紙を頼りに探していた。
マイカの手紙を持って来たのは、王宮直属の騎士団長ブライアント侯爵家の父親を持つ、デイヴィス・ブライアントだ。すっかりセルリアーナも適当にあしらっていたが、一応攻略対象者の一人である。
あの片眼鏡は親密度がマックスに近いので、残るデイヴィスを重点に親密度を上げに行ったのだろう。
(誤算だったわ。わたくしも、お決まりコースに転がったのは些か都合が良いけれど)
ふわりと香る、眠りを誘引する「甘い眠り」が使われたのか。耐え難い眠気にセルリアーナが意識を失い目覚めた時には、固い床に寝転ばされていた。
セルリアーナが爆睡をしていたのは、拗れたラルシュとの関係性が尾鰭を引いていたからだ。
普段ならば魔力耐性がある。膨大な魔力はセルリアーナの体内を循環しており、エスメラルディ侯爵家は例外でも無く魅力魔法や幻惑魔法等は全く効かない。




