77 だったらその持ち前の権力で、身分くらい買って差し上げなさい?
「だけれども、運良く生き延びました。日頃の行いでしょうか、それともベレヌス神に祈りが届いたからでしょうか……。何れにしてもわたくし達は皆が生きている。その事実には、感謝しかありませんわ」
王家が用意したヒルダの守護石は、婚約者のセルリアーナへ渡すのが流儀。それを逸早く破ってくれた男に忠義も、愛情も喪失する。
なのに原作ではどんなに惨めな扱いを受けても、縋り涙を落とす悪女に同情している。
こんな王家が取り決めた婚姻政策の意図を忘れる浮気野郎に、一途になる必要はない。
「何処かの誰かさんは、仮に危険が訪れても勇敢な盾と守護石をお持ちでしょうから……。そんな心配の種は微塵も無かったでしょうけれど」
セルリアーナはチラリと一瞥すると、マイカは猿の一つ覚えの殿下の背後に隠れる術を見事に使った。正面から真っ向と言い任されると男の庇護を求める姑息手段が心底憎らしい。
「────殿下。臣下として、光魔法の担い手であるマイカ・チャンベラを何故放逐なさってるのでしょうか」
「…………は? ほ、ほうち、放逐……? 貴様、獣だと言うのか?! この選ばれし光魔法の使い手を!?」
アルベルノの驚愕からの怒声を混じる言葉に対し「力の扱い方を知らぬ物は愚か者以下。
つまり躾が行き届かぬ野生の獣同然では?」と努力をした形跡の無いマイカへ、セルリアーナはド正論を突き付ける。
せめて足しげなく教会で祈りを捧げる神聖な姿を、古代魔法の一つとして他者の外貌をミラージュし投影することが可能な擬態魔法の様な、実績作りが上手い人間を見繕えば良かったものの。
いや、古代魔法がそもそも模倣出来るのならば、それこそ稀代の魔力持ち認定され、グランドル王国は囲いに囲ってくるだろうが。
マイカを取り巻く攻略対象者が、あの甘い声音と庇護欲の塊なる低身長に大きな瞳に陥落している以上。倫理観もズタボロであろう。
誰も彼女が為すべきことを導いてやらず、甘やかす現状について諭すべきだ。
「普段から親しくされてらっしゃるのならば、王家からの支援金と援助で王立学院で学ぶ権限を与えられた子女へ、礼節や神力を高める御作法を伝授されてらっしゃらないのは如何なものかと思いますが」
「そんなもの…………ッ」
「あら、王国唯一神であられるベレヌス神をグランドル王国王位継承権第二位の高潔なる御方が否定すると」
「な…………っ私は、ただ……………」
「その様に物事を捉える者もおりますことを、御理解の上わたくしは数ある臣下として、言葉を添えております」
畳み掛けるのならば今しかない。
臣下は指咥えて黙っているのならば、相応しい立ち振る舞いをしないのは職務怠慢でもある。
今後第二王子殿下の側近候補と名高いのであれば、それなりの忠誠心を表明してもらう必要があるのだ。
運命の女性と、臣下としての忠誠心を天秤に掛けてくれないと王家転覆もそれこそ夢物語ではない。光魔法の担い手は稀少であり、他国でも重宝されるのだから。
「また、臣下の者達は仕える主君が誤った行いをしているのならば諌めるのも役目です。腰巾着になっていらっしゃったら、職務怠慢と王家へ意見書の提出をしなければなりません」
「う…………それ、は………………」
「王家に仕え、殿下の暫定では御座いますが婚約者として進言致します。それが義務ですから」
セルリアーナは場の空気を掌握したことを、周囲の顔色や反応から読み取った。
そして「難癖」を付けた程度に留めてやるのも、中立的立場のエスメラルディ侯爵家としての優しさとして敢えて立ち振る舞う。
疲労で体が鉛の様に重たいのに、野営地に戻れば散々な言われようだった。もう侯爵家に回収願いを出して、過保護な両親の狙い通り早退を申し出るのが得策かもしれない。
「……で、もし不服な様でしたらチャンベラさんには、王家の懇意で何処かの貴族家の養女にし、社会的地位を獲得なさった方が、宜しいかと」
マイカ・チャンベラは正規ヒロインであるが、恋愛シュミレーションゲームで大多数の男爵家や子爵家の隠し子、所謂下位貴族家の庶子設定が多い。
けれども『光の先に続く真愛』ではマイカは市井出身の正真正銘の平民だ。設定上致し方無いが、王立学院は身分関係無く平等に学べると言っても、所詮は小さな貴族社会。
(マイカの為に作られた世界で、とばっちり喰らう側になってみなさいよ!!)
此処で侮辱に当たる言動は、徹底的に貴族家は潰せるだけの権力は奮えるのが実情である。
だからセルリアーナは敢えて助言した。マイカを何処ぞの貴族家の養女にさせ、同じ土俵に上げれば良い。アルベルノが本気ならば、尚更早くやるべき下拵えだろう。




