74 危険手当が出ても、罰当たらないと思いません?
「エスメラルディ侯爵令嬢! これは一体どう言うことか、説明義務がありますよ!」
「生徒を脅威に晒して、己の力を過信し振る舞った悪行は示し付きませんよね」
「そもそも避難信号も出ていないし、単にその山頂以上の高いプライドで無理な戦闘を強いたのでは?」
「やりかねないわ。だって、エスメラルディ侯爵令嬢って、もう王子殿下の婚約者としては落魄れているっていうか…………」
「真の愛に出会ってしまったのだから」
野営地へ覚束ぬ足取りで戻ったセルリアーナは、非難轟々の嵐に見舞われた。
マイカの肩を抱いて、わなわなと怒りに身悶える殿下は殺意を滲ませた視線でセルリアーナを射抜く。
どうだって良い。どうせ、誤解だと身の潔白を説明しようがゲーム上の忌まわしき強制補正によってマイカが優位になる仕組みである。
弁明なんてそれこそ、無駄な時間だ。
肩を小刻みに震わせて、潤んだ真ん丸い瞳から雫が落ちる。それも神聖さを妙に演出するのも、気味が悪い。
ああなんて残酷なゲーム世界だ。滑稽なくらい、心底軽蔑をしたくなる仕様である。
セルリアーナは淡々と次の台詞をどう切り出そうか、先程まで荒波な心情が急に静けさを取り戻して冷静に待つ。
まるで心が死んでいるかの様に、氷花の令嬢に逆行した気分に陥った。
「私、怖くて……。セルリアーナ様が魔獣の群れの中で、私に言ったんです。使えないって…………」
「マイカが無事に帰って来れて良かった。班が戻って来ないことを教員に報告して、皆んなで捜索したんだぞ」
「心配したんだよ。こんな危ない目に遭って、さぞ怖い思いをしたんだね」
「怪我した生徒達を光魔法で癒したんだって? とても緊迫した状況下で出来ることじゃないぞ」
「チャンベラさんは出来ることをしたんだから、胸を張って良いんですよ。それに比べて────」
コネ作り、群集心理の対策が上手いマイカは女優並みの高い演技力なのか。
大粒の涙を真ん丸な瞳から、柔らかな薄紅色の頬から伝う涙が溢れる。きゅるるんと可愛く。流石はゲームのヒロインと言うところか。
見目の可愛さを最大限利用して、悪役令嬢である冷酷で傲慢な振る舞いをする、元性悪なセルリアーナを徹底的に悪者に仕立て上げる。
人生最大の推しであり、大切なラルシュに避けられた事実の方がショックの重きが大きく、セルリアーナは機械的に答えて行く。取り巻き連中が声を荒げて、至近距離で詰ろうと全く恐怖に駆り立てられない。
あんなにも死を間近にした恐怖体験の後、セルリアーナを身を挺して守り助けに来てくれた人へどう弁明すれば良いのか。
もう一度、また他愛も無い話をしたり、一緒に食事をしてくれるだろうか。
そればかり頭の中を占めている。
もしも二度目の拒絶をされたら、なんてグルグルと嫌な思考が脳内を駆け巡って、セルリアーナへ詰め寄ったオースティンが正面で口火を切った。
「エスメラルディ侯爵令嬢? 何か言ったらどうなんだ?!」
その片眼鏡を叩き割ってやりたい。そんな衝動を己で諌め、セルリアーナは淡々と冷ややかな双眸で瞬き一つせず前を見据えた。
「わたくしからは、ただ怪我人と獰猛な害獣を一番に引き離すことで死者を出さぬことだけを考えたまでの行動だった……。と言うことだけは申し上げられます」
「死者?! 怪我人を率先して出しておいて、そんな訳無いだろう!! 貴様がどうせ仕組んだシナリオじゃ無いのか?!!」
「動けぬ怪我人を救出し、援護しながらの退却は現実的ではありませんでしたが」
「じゃあ何故回復させ、共闘して倒さなかったのですか? 一人で害獣の群れを引き付けるのは容易では無いこと」
「ポーションを使い、何とか止血した後に移動を決行しました。害獣を足止めさせる必要がありましたので、殿を務めたまでです」
すると、援護射撃と言わんばかりにデイヴィスがセルリアーナに訓練時に支給された武器とは別に、自前の磨かれた剣を向けた。
確かこれはマイカが別ルートでブライアント侯爵家に招待された時に、デイヴィスの自室で光魔法の付与を施した特殊な剣であったはずだ。
(と言うことは、もう親密度はマックスに近いってことね……。親密度で攻略対象者の行動が変わるから、客室では無く自室に通された時のみに出現するイベントだもの)
逆ハーレムルートに欠かせぬ、特別感を抱かせる必須イベントである。危険な実地訓練で安全を祈願したとかなんとか。
これらのことから推測するに、攻略対象者のデイヴィスは親密度がかなり高いことが実証されたのである。




