70 継承されるカリュプスの遍歴
途中、過去のカリュプスの器の壮絶な死にも対面した。
「死ね死ね死ね死ね、死ねよお前なんか────! 穀潰しめ、その眼を抉ってやる! あたしを見るその眼が! 気味悪いんだよ!!」
ある子供は縄で縛られて、黒眼を錆びたペンチで抉られる。強烈な痛みで絶叫して、眼球が照明の下で鮮血に反射してからか、キラキラと輝きを放っている。
まるで、恐怖をそのままくり抜いたように。
またある場面では、埃臭い陽の光が当たらぬ場所で、骨と皮だけの痩せた女性は吐血している。
「げほ、ゲホゲホッ!! なんで私がこんな目に遭うの?」
咄嗟に覆った掌には赤黒い血が付着して、怒りなのか悲しみなのか、身体が小刻みと戦慄いていた。
ある者は一家全員を断頭台に立たされている。幼い子供が目の前にギロチンの前に跪かせられ、血塗れの薄汚れた盤には赤黒い物が底に溜まっている。
「王家へ離反した反逆者────名を、斬首刑に処す」
「わ、私は何もしておりません! どうか、ギャァアッ!!!!」
男性は必死で懇願した。幼きラルシュのように。
家族が次々と処刑される光景を、見せ付けられる。己の罪が周囲に伝染する様にまざまざと。
「む、娘には何ら罪は無いのです! こんなに小さな子を処刑するのはあんまりだ!!」
「黙れ罪人。お前は王家に盾付き、あろうことか簒奪を目論み力を誇示した」
「────王に反旗を翻す者、即ち弑逆に値する」
カリュプスはその代を終えれば、別の器に行く。だから例え不適切な器がいても、その命が落ちればリセットされるのだ。
「そうだ、カリュプス!! 俺の魂をやる! だから、娘だけは……ッ」
返事は無かった。カリュプスは継承者の誕生が世の理に決定付いた瞬間、器を移るからだ。
抜け殻となった単なる容れ物には再び舞い戻ることはない。
「……ひび割れた器には、もう用無しってことか。お前が一番、罪深いなカリュプス。俺は未来永劫、恨んで恨んでその身が闇に溶け朽ちるまで呪ってやる」
その傍ら、ある貴族家では拍手喝采の嵐であった。
「カリュプスの誕生だ! これで王家に連なる者として────公爵家は大きくなるぞ!!」
欲望渦巻く数百年の歴史の渦に飲み込まれて、セルリアーナは段々と闇の眷属カリュプスを目の当たりにして行く。
気が狂いそうだった。だが、やめてと喚き散らす権利は無い。実際に命を落とした器の末裔達はこうやって尊厳を強奪され、孤独に死んで行ったのだから。
吐き気すら催して、セルリアーナは胃がひっくり返りそうだった。胸焼けの様な症状が永遠と続き、今にも消化し切れぬ物が逆流してもおかしくはない。
(こうやって、伝承されて行くのね…………)
覚めない悪夢を永遠と見させられては、巻き戻しを繰り返す。現実世界ならば嘔吐し過ぎて胃液しか出ないくらいの、ショックが大きかった。
どうしてこんなひどいことができるの?
理想と現実には遠からず聳える壁がある。幸福度は個人の物差しで指標は様々だが、最低限度の物があるだろう。
その全てを強奪して、子供一人の尊厳を失墜させるのは摂理を捻じ曲げるよりも簡単だと神が嘲笑っている様に見えた。
「カリュプス」
成熟し切れぬ、けれども大人びた面持ちの少年はカリュプスと対話する。
『……なんだあ?』
「俺は要らないだろう?」
『要らないかどうかは、俺様が決めることじゃあないんでね』
カリュプスは素っ気無く答えた。誰にも邪魔されず、嘘も建前も無く正真正銘の殺戮者の威厳たる姿を隠したまま。
「……弾かれ者同士、卒無く今世は俺に留まっていれば良い。どうせ俺は長くはないが」




