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64 闇の眷属カリュプスとラルシュ





「こっそりわたくしを見守って下さるだけで、それはそれはもう勇気と希望が湧きますので」


「その点は問題無い。魔力残債すら消せる俺だぞ?」


「頼もしい限りです。これで一人で立ち向かう決心が付きましたわ」


「お前の周りには友人も、愛してくれる両親もいるんだから悲観すべきことじゃ無いだろうに」


 ラルシュの魔力残債を消失させるのは、この世の原理では不可能に近いことだ。魔力は謂わば、痕跡が残る物である。現世で言えばDNAに近い。


 魔力を放出した場合、どんな形であろうとも使用者がある程度分析出来るのはゲーム内で研究が進行している証拠だった。


 その為、セルリアーナがラルシュを意図的に見付け出せたのはゲームでの画面視点から角度や目測で潜伏先を割り出しただけで。


 実際は今回の様にラルシュが救出しに来たのも、全く予知しない出来事であった。


 セルリアーナが把握しているゲーム内の知識や情報はあくまでも、プレイヤーであり非公式で公式な限定攻略本(有料)のお陰で。ラルシュの行動一つ一つは、今のセルリアーナと関係性を如何に構築されたかに焦点が行くのだ。


「……いつ何時も最悪の事態を想定して行動すべきではありません?」


「それを踏まえるなら、戦争に発展してもおかしくない状況に陥るが」


「戦争だなんて、物騒なことを仰いますわね!」


「この保存食も兵糧の大量備蓄に長期戦を見越したクーデターを目論んでる、と貴族共が騒ぎ立てて、火のない所から煙を出すぞ」


 木の枝を焚き火に放り投げて、ラルシュはセルリアーナを膝の間に居させたまま頭頂部に顎を乗せた。


 誤解を招く状況下であるが、押し当てられた胸部からは心音は至って平常だ。ドギマギしそうなのは、どうやらセルリアーナだけらしい。


「そ、その点につきましては、一切公表しておりませんのよ? わたくしの努力の結晶ですから」


「は? この保存食が? 研究員囲って開発尽力してるのではなく?」


「冗談じゃあ無いわ!? 特許はこの! わたくしが! 頂きますもの!!」


「その辺は抜かりない厭らしさがあるのは、俺も共感出来るな」


 特許を取得すれば、商売の煩わしさを一つ拭える。仮に婚約破棄断罪され、自宅軟禁を経て辺境の領地で王都立入を一切禁じられようと。痛くも痒くもないのだ!


 ゾワゾワと掻痒感が上腕に現れて、セルリアーナは昂る感情を押さえ付けるのに必死だった。





※※





 暫くすると、うたた寝をしていたらしい。幾ら魔力タンクは常人並みで、枯渇することは無くとも疲労困憊であった。特大魔法の詠唱で体力も奪われるし、そこまで万能でも無い。


 セルリアーナは本来、(たお)やかさとは掛け離れた貴族令嬢である。家格を前に権力をぶん回して、暴力の限り他者を蹴落とす歩く高慢卑劣だ。


 寝息が静かに肌へ伝わる。ラルシュの体重がどうも心地良く、そして愛おしかった。


『おーおー、御主人サマは呑気にお昼寝ですかぁ』


 急に右腕から出て来て吃驚すると、黒い物に包まれて異空間が作られた。声を遮断する場所らしい。 


「カ、カリュプス様?!」


『はいよ、お嬢さん』


「驚きましたわ……魔装は自由意志をお持ちでらっしゃるのも、文献として提出したら王都全土に号外物ですわね」


『やめてくれよ。ひっそりと暮らしていたいのに。ただでさえ、俺様達は肩身が狭いんだぜ?』


 神すら干渉出来ぬ空間にセルリアーナは引き摺り込まれた。


 セルリアーナはラルシュに短時間であろうと休息を取って欲しかった。膝枕をつくって横にさせる。


『珍しいなあ。直ぐ物音や気配で起きるってのに、力を使い過ぎて消耗したようだ』


「え?」


『幾らこの俺様の力を使ってようが、コイツはお嬢さんのハイパータンクと違って、魔力量は多いが消耗も激しいんだよ』


 闇の眷属であるカリュプスを使役するのは、確かに肉体を酷使しそうだ。力を借りる代償として、ラルシュは対価を支払っているようだ。


 魔力消費量も大きく作用され、ラルシュの疲労は思ったよりも蓄積されているとカリュプスは揶揄した。


『そんでもって、急いで駆け付けたもんだから、余計な。刺客を捌いて、貧血に力の酷使! 良くやるぜ』


「刺客って……」


『いつもより数が多かったし、毒が効きにくいったって人間だからなあ。まあ、そう言う複雑な出自って訳────』


「毒?! だ、大丈夫なのですか?!」


 解毒鎮痛薬は手元に無い。ましてやどんな毒性かも不明ならば尚更、適切な処置を施すには不向きな環境下だ。


 セルリアーナは全身の血の気が抜かれた感覚に、一瞬で陥った。寝こけている最中、ラルシュがもしかしたら呼吸が止まっていたら?


 そんな最悪の事態が頭を過って、泣き出しそうになった。


『まあ暫く横にさせておきゃ、こんくらいじゃあくたばったりはしねえよ。俺様とラルシュ(これ)は一心同体、生命線は繋がってるからその辺のボーダーライン分かっちゃうわけ』


 カリュプスが大袈裟だなと暢気に言うが、人間は簡単に死ぬ生き物だ。それはセルリアーナが良く知っている。


 セルリアーナの膝で、死んだ様に眠るラルシュの漆黒の美しい髪を撫でる。無防備で、己の軟い部分を曝け出している。


『お嬢さん、別の時間軸である秒針がぐるぐるしてるから良く分かるよ。この次元の人間じゃあないって』


「どうして…………それを」


『となればあ、結末は分かってるんだろうな? コイツはその強制力で働いていることを。即ち、道筋を変えて仕舞えば直ぐにでも第三十四代目として役目を終える』


「は? 嘘よ。ラルシュ様は公式では生きてましたから! 死ぬのはわたくしよ、セルリアーナ・エスメラルディは第二王子殿下と婚約破棄され断罪されるのだから!!」


『うーん。そいつは違うな』


 ゾワっと身の毛がよだつ。体温が一方的に奪われる。


 それだけカリュプスの言葉は、セルリアーナを追い詰めるだけの力強さがあった。







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