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61 推しと共闘するなら、張り切って特大魔法をぶちのめします!




 一人と一匹(?)の軽快なやり取りは、前世のお笑いと似ている。流石に淑女の鑑とも呼ばれたセルリアーナも、大きな声で笑ってしまった。


「あ、あはは……ッ、夫婦漫才みたいだわ」


「顰めっ面より断然、そっちの方が可愛いぞ」


「え?! もっとお褒めになって下さいラルシュ様!」


「……調子に乗る余裕が出来たのなら、とっとと古代種を片付けるぞ」


 誰かに背を預けた経験は一度も無い。戦乱の世は過ぎ去って、他国との諍いも減った中では軍事力はグランドル王国では陰を潜めている。


 平和が一番だ。それこそ、無用な争いは血を無駄に流すだけの、国同士の見栄張りである。


 セルリアーナは資源エネルギーとして、魔力供給を王国から担う侯爵家であるが、戦闘訓練も幼少期から施されている。王子妃教育としてでは無くだ。


(まあそれが仇となって、王国転覆を齎す悪女なんて言われようも無理は無いけれど……)


 王家に連なる者として、己を守る術を身に付ける。そしていざとなれば、他者を救える力として。


 ゲーム内では間違えた方向へ、怒りに狂ったセルリアーナは破滅の道を辿ったが。教育とは窮地に陥った時にこそ、自身を守れる叡智となる。


 セルリアーナは転生前、暴虐の限りアルベルノ殿下に近付く不届き者や令嬢達を魔法で蹴散らしていた。あれは単なる前菜レベルだ。


 メインディッシュ級の特大魔法は、侯爵家内の一部しか知られていない。


「ラルシュ様にお見せするのは初めてですわよね? 張り切って特大魔法を展開致しますわ」


 くすりと不敵な笑みを浮かべて、原種の攻撃を華麗に交わしながら、セルリアーナは詠唱を始める。


「さあ我が主君の名の下に、我が眷属たる者達よ。大地を凍らし氷槍で息を断ち切らん────」


 ラルシュは指の腹を噛み千切り、血を滴らせると紫煙の如くゆらゆら右腕へ霧が集まって行く。


「さすれば我の悪血流れし贄とする、共鳴しろ覆い隠す銃口(カリュプス)


『そんじゃあ、大いに暴れ回ってやるさ、貧血でぶっ倒れるなよ?』


「は、誰が」


「貧血? 介抱させて下さるのですか?」


「ああもうお前は本当に侯爵令嬢なのか?!」


「報告書通りですわよ、ラルシュ様」


「特大魔法────夜明け(アローラ)()息吹(スピリトゥス)


 曙光の様に光り輝く雪の結晶の様に、敵対象を氷刃が包囲し一斉攻撃を仕掛ける特大魔法である。


 これで大抵の害獣は四方八方串刺しになるので、身動きを防ぐことも可能だ。


「此処はわたくしが引き留めます。ラルシュ様はわたくしにお気遣い無く!」


 特大魔法は詠唱から発動時間まで短縮出来ないので、無詠唱で連発可能な中級魔法を繰り出す。足元を凍らせ、物理攻撃もセルリアーナは得意だ。


 世間一般の認識はこうだ。魔力持ちは魔法頼りだと言う。

 道理に沿った固定概念は普通である。多くの魔力持ちは近距離戦は苦手だ。


 主に彼等は後方支援や敵の注意を引き付けるブロッカーの様なタンクが前にいる状況下で力を発揮する。

 そんな魔力持ち達を凌駕し、攻撃特性を兼ね揃えたセルリアーナは別格である。


 ゲーム内ではトップクラスの魔力量と圧倒的攻撃力に俊敏性を持つので、セルリアーナの班は基本全滅はしないのだ。


 冒険者パーティーでも組めば、王国一脅威になるだろう。

だからこそ王家も危惧する不穏因子であるが。


「逞しいな」


「ラルシュ様のお美しい魔装をお目にかかれて、やる気が出ましたわ。此処はもっと目に焼き付けたいので、死に物狂いで抵抗致します!」


「それはそれは光栄だ」


 フィナーレを飾るならば、推しを最大限引き立たせる準備をする。相手の体力を削り奪い、動きが鈍くなったところ、ラルシュへ振り向くと。


(古代語を勉強しておいて、良かった────!! 推しがなんて言ってるか分かるとか役得過ぎる!!!!)


 彼は魔法陣を展開し、古代語で詠唱をし始めた。


「混沌の祝福を得られぬ行燈を持つ者達よ、我が標に煉獄から甦り血肉を啜り噛殺(ごうさつ)せよ────双頭の狗(オルトロス)


 一匹の獰猛な双頭犬が現れると、涎を大量に撒き散らして喰らい付いた。(たてがみ)と尻尾が蛇で、ギラギラと眼光は鋭く捕食者をラルシュは召喚したようだ。


 餌の時間に待ち草臥れたのか、食事にありついている。びちゃびちゃと体液や肉片が飛び散り、夢中に尻尾を振っている様子にカリュプスは呆れ返った。


『おーい、これじゃあ犬っころの豪勢な食事パーティー開催じゃ、俺様の輝かしい功績残せねえじゃんか』


「丁度餌を与える日だったからだ。残骸処理はオルトロスに任せて、証拠は持ち帰るぞ」


 ガツガツと双頭の狗は原種を食べている。

 眷属を召喚するのは、極めて高度な古代魔法である。ましてやギリシャ神話に登場する怪物だ。


 遥か昔に存在していた召喚士は、己の魔力や神力を糧として、精霊や異次元の怪物を召喚する能力をその身に宿していた。


 外界と接触するには、献上する代わりに力を借りると言う等価交換の原則に基づき、召喚士は世に名を轟かせていたのだった。


 けれども召喚士が滅亡したのは数百年前の歴史で、今現在古代魔法を扱える人材は少ない。


 これも覆い隠す銃口(カリュプス)の力なのだろうか。






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