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57 チートアイテムは無事マイカの手に渡ったようです






 死にたくない。死にたくない、なんてことば。

 日本にいたら殆ど急死に一生なんて場面は訪れやしないのに。


 交通事故や飛行機事故、なんでアクシデントに遭う確率は低い。テロが頻発する国にいなければ、銃社会でもない日本じゃあそういったイレギュラーな死には触れることは少ない。


 じゃあ、この圧倒的な死に直面したのは何故だ?


 悪役令嬢セルリアーナ・エスメラルディに転生したからだ。


 血の気が引く。胴体を貫かれ、最期はばくりと食べられる。骨がバリバリ砕かれて、人間の肉を好んで捕食する生き物がいる。


 ゲーテの森出発前夜。

 帰りの動く馬車に、颯爽と窓から乗り込んだラルシュは悪路にも全く体感を動かさず長い脚を組み直した。


 凛然としたラルシュは、外套のフードを脱ぐと「参加は見送らないのか」と突然話を切り出した。


 セルリアーナの答えは否、以外無かった。

 このイベントでは断罪後の処罰の重さが絡む、今後生存するには必須条件が掲げられている。


 普段のちょっとしたスパイス染みた難癖は、周囲の援助もあり度々回避出来ていたが、問題はでっち上げがしやすい郊外訓練である。


 教員の数や、鬱蒼と茂る視界の悪い森林の中で害獣討伐訓練をするのだから、一番セルリアーナを貶めるチャンスがゴロゴロ転がっているのだ。不毛な戦いである。


「何も負け戦に進んで参加するのは、愚行とは思わないのか」


 だから死の階段に近い舞台へ、敢えて上がらなければならない。

 それをラルシュは勘が鋭いのか。セルリアーナの言動へ顰蹙(ひんしゅく)した。


「あら、わたくしはやってもないことを認めるほど、愚かな女ではありませんわよ」


「不利な証拠が上がってようが、気にも留めてないようだな。いつか暗殺未遂だの、誘拐・暴行罪をでっち上げられるぞ」


(婚約破棄シーンで、そっくりそのまま罪名が読まれちゃうんですよね……。ラルシュ様が予測しているのだから雲行きは怪しいままのようね)


「王家の監視役が常日頃おりますのに、火のない所に煙も立つなんて世も末ですわね」


「呑気なことを……」


 淡々と客観的に監視者として報告を挙げているが、王宮内で未だ留まる悪評は薄まっていないからだろう。


 マイカの清純さや、周囲の信者達が数々の卑劣な行為を犯罪に仕立て上げるのに躍起なことも相まってか。


 ラルシュはその信憑性が異常なまでにある、不利な材料をセルリアーナに擦り付けられそうな事実を察知している様子だ。


 鍛え上げられた腕を組んで、半ば呆れるしか無い状況下だからかラルシュは、両肩を敢えて竦めた。


「それと。お前、次期王子妃なのにヒルダ守護石を授けられていないのか?」


 ヒルダの守護石とは害獣討伐訓練前に、王城で渡されるクエスト達成時の成功報酬である。

 これはプレイヤーがどの選択肢を選んでも、様々な理由をこじ付けて手に入るレアアイテムだ。


 初見殺し・ゲーテの森での、戦闘モード時である一定のライフポイント減少時に無条件で発動する無敵アイテムなのである。

 立て直しを図り、二ターン目までヒロインのマイカはどんな攻撃も無効化出来る優れ物と言えよう。ポーションとはまた別格の最強お助けアイテム。


(チートアイテム持ってくるせに、同じ平民の子達からポーション取り上げようとするなんて何処のヤンキー様よ)


 だから入手条件は、殿下との好感度が一定数超えることと、装備品に殿下から贈られた物を一つでも身に付けていれば達成する。


 セルリアーナはラルシュ同様、態と華奢な肩を竦めて見せた。


「ヒルダの守護石、なんて勿体無い施しをする王族が居られると?」


「分かっていて、強請らずにいるお前の貴族としての矜持を、俺はくだらないと言いたいな」


「ふふ。わたくしもお馬鹿さんではありませんのよ。自分の身は自分で守る。暴漢がやって来られようと対象出来ますわ」


「それは魔力を封じられていない状態ならば、お前は最強だろうが。魔封じの腕輪で魔力制御されたら、気娘同然だ」


 そう。魔力封じの腕輪は厄介な魔道具だ。断罪後に魔力供給を施せるエスメラルディ侯爵家は、実質的力の源を奪われる。


 封印された彼等に抵抗する術は無く、囚人同然扱いで魔力持ちの犯罪者が収容される地下牢行き。


 何度も断罪処刑される悪役令嬢セルリアーナ・エスメラルディを、この目で見てきたのだから。


「まあそうなったら、最大限貞操くらいは────」


「セルリアーナ。辱めを受けてようが、奇跡的にそうでなかろうが、その可能性の有無関わらず社交界では貴族令嬢としての権威失墜は目に見えているのに? まだ不利なテーブルに上がるつもりか」


「それが目的なんでしょう。この機に乗じて、わたくしに消えぬ遺恨を植え付けたい方達の願望は、目に見えてますわ」


「だったら、ヒルダの守護石は今のお前に一番あるはずの物が────何故手元に無い」


 それはマイカに渡された物だ。


 アルベルノ殿下の好感度が一定以上上がれば、戦闘時に一ターンだけ身を守れる希少価値の高い守護石である。


 勿論、セルリアーナは貰えない。そもそもの前提が違うから。


「さあ? わたくしを心底嫌いな殿下は、想い人に渡したのでしょうね。今更、別の女性の手に一度は渡った手垢付きの守護石なら、無い方が御利益ありそうですわ」


「手垢付きって、お前……いや、俺もそれは辞退するが、今はそんな悠長なこと言っている場合でも無いのは分かってるよな?」


「何とかしなければならないのならば、何とかするのがエスメラルディの血筋ですから」


 セルリアーナにはチート級の魔力量や圧倒的な攻撃力を誇るが、孤立無援状態なので害獣が群れを成せば、幾ら彼女でも苦戦するだろう。


(ああなんて優しいひと。私に降り掛かることを、もう分かってらっしゃるのね)


 無傷では帰還することは叶わず、挙げ句の果て全責任押し付けられる。





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