55 恥を知りなさい、なんて悪役の決め台詞
駄目だ。スチルと同じセリフが口から出てしまう。
だが、セルリアーナは容赦出来なかった。
「貴女みたいなひとは、殿下に相応しくありません。恥を知りなさい」
此処から先は、お決まりのゲームストーリー通りの流れである。はずだった。
「何も出来ないなら、早く行きなさい? 足手纏いは要らないわ」
「単独行動は駄目だって先生が!」
「此処にいる八人で死ぬか、七人確実に生き残るか。答えは決まっております。わたくしは勝率が高い方に賭けする。こう見えてもわたくし、勝ち戦しかしませんのよ?」
この展開を想像していたのに。
セルリアーナが救援を求める班を早く見付け出せたことや、マイカの力量不足が相反してか。
ストーリー通りの流れには、大まかなっていた。一番囮として適任なのは、魔力量が一番多いセルリアーナである。
だったらやるべきことは一つだ。
「武器はまだ刃こぼれはしておりませんね?」
「問題無いです。一斉攻撃を仕掛けるのですか?」
「それは非効率的ですわね。負傷者をカバーしながらの戦闘には部が悪すぎるから」
害獣の皮膚は剛結である。刃が通りにくい為強化魔法が施された武器を、支給されたのは生徒達の能力値を後押ししてくれる。
グランドル王国では駆除対象は大きく三つに分類される。四種、二種、原種と呼ばれる分類方法で足の本数が基本とした害獣の仕分け方である。
四足歩行タイプに分類される土兎や野生猪は、特に繁殖スピードも早いので国の悩み種の一つだ。
続いて二足歩行タイプは、ゲームでも良く登場する亜人系の豚の様な牙や鼻が特徴的なオーク。大柄で好戦的なオークとは違い、小柄で卑屈な性格の群れで行動する小鬼が有名だ。
「まさか野生猪だけでなく、大熊までお出まし……なんて」
獰猛で体格が優れた、強者そのものが具現化した大熊と、野生猪の群れに囲まれるなんて。絶対絶命だった。
(しかも血の味を覚えているなんて……不運は続くものね)
領土内で農作物や畜産に必要な牛や山羊も食い荒らす。主な主食源は雑食に近かったが、近年の研究では肉を好むことが知られた。
また、排泄物が草木も土壌すら汚し、農作物の生育被害が拡大して、農夫達に忌み嫌われている。
そして最後は原種。古代種とも呼ばれ、絶滅したと噂される建国以前の歴史上最も凶悪な害獣に指定されている。
謂わば、魔王やダークエルフと言った凶悪な種族に設けられた枠だ。
(まあ古代種じゃないだけ、班全員の全滅は一応回避出来るかもしれないけれど)
「わたくしが時間を稼ぎます。槍使いのポルシェオンさん、敵が現れたら間合いには入り込ませぬ様リーチを生かして補佐。マシューさんは動けない生徒を運び、索敵担当のアミラさんは周囲を警戒しながら、先生の元へ」
セルリアーナは瞬時に的確な指示を出す。
C班には気を失ったシュリシュナータと、怪我はしたもののポーションで何とか動ける三人。
D班にいた二人と協力して、何とか先生の元へ辿り着いてもらう必要がある。怪我人がいるならば早く離脱させ、救護を受けなければ。
「セルリアーナ様お一人で……」
「大丈夫ですよ。こう見えて、わたくし結構強いのですよ?」
彼等には狼煙を上げてもらい、六人を離脱させる。
索敵のアミラがスキルで砂煙を引き起こして、害獣達の視界を奪って撹乱している間に、彼等は無事害獣の群れから脱出することに成功した。
(スキルは使い用ね。敵へ目眩しをして時を稼ぐのも、立派な戦術なんだからアミラさんはもう少し自信持っても良いんだから)
あとは特大魔法をぶつけるまでの、詠唱時間を稼げたら良い。
セルリアーナの特段魔法は、ゲーム内でもチート級の攻撃力を放つ。魔力量も無限なので、打ちたい放題である。
「難点は詠唱時間で二ターンのステイが条件なのよね……」
魔法陣を展開し、まずは防御に専念をしなければ。
するとドンッと、強い衝撃がセルリアーナの背中に走った。集中力と詠唱の中断で、粉々に氷が目の前で砕け散る。
反射した氷の破片から、ある女性の目を見開いた形相が映し出される。
それが忽ち恐怖に慄いていたのは、口端を片方だけ上げて嘲笑するテラコッタオレンジヘアーの持ち主が。
セルリアーナを地獄のどん底に突き落としたのだった。




