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54 光魔法はただ勝手には奇跡を齎さない






「だって学生の本分は勉強って言うの、おかしいと思いませんか?! 恋をして遊んで、感受性も育ませるのだって大事じゃないですか!」


 マイカはお菓子が貰えない癇癪を起こした子供の様に手足をばたつかせた。これも彼等から見たら可愛いのだろう。


 だが、相手が悪い。セルリアーナは無詠唱で攻撃を繰り出しながら、答える。


「だから彼女達は俗世を捨て、困窮者に手を差し伸べ地域を巡礼するのですよ」


「意味、分かりません……そんなの」


「はあ。この期に及んで、強情な方ですわね。昔は聖女なんて呼ばれた時代もありますが、現代では光を宿す者とも称され、貴女の一挙一動は全て王国の名の下に存在します。保護ですつまり」


「な、なんですかそれは」


「だから特待生として異例の入学、学力テストや身辺調査の免除もされ衣食住は生涯困らず国の保護下の元で悠々自適に奉仕活動を行う。御両親から聞かされてないのですか?」


「わ、私は……皆んなの為になると思って……」


「随分と自由な教育環境の下で育ったこと」


 理不尽なくらい、マイカの為に描かれた物語が今は心底憎い。


 遊び呆けて、異性と恋愛に夢中で訓練を疎かにしていました。普段の振る舞いは天真爛漫で、感情の思うがままに行う。


 身勝手で倫理的にも自制心が養えず、神気を扱う者としては自覚が足りない。


 セルリアーナは日々の努力はひた隠されている。努力は結果論には勝てぬし、見せびらかして行うものではない。


 その過程を知らず、成果を披露するのが美徳。貴族令嬢として、また王家に連なる者としての嗜みである。


 それをマイカは崩してくれる。率先して、努力とは無縁の世界で自由気ままに恋愛をし、善良な人間だと口を揃える連中達も馬鹿である。


「皆んなの為と口にする割には、軽いお気持ちで学院に入学されて御令息方を両手に抱き込んでお楽しみになったではありませんか」


「そんな言い方! 良くしてくれてるだけです! 人の善意を踏み躙って、セルリアーナ様は────」


「侯爵令嬢に向かって、どの口が偉そうに開くのです?」


「学院内じゃ貴族階級だの関係無く学べると校則に掲げられています!!」


「貴女、本気でそう仰ってる?」


 もう堪忍袋も切れそうだ。幾ら魔力過多であろうが、負傷者を守りながら戦うのは劣勢だ。

 この深刻な事態を教員の耳に届けば良いが、他力本願だろう。


「彼等の婚約者達は血反吐を吐く程の厳しい淑女教育や、婚約者に恥じぬ振る舞い教養に作法を身に付ける為に己の時間を投資して、家格を守り発展させる為に良い家柄に嫁ぐ。そこに恋愛感情なんて無作法は不要なのです。女は出世の道具と同じ……」


 それを超越して、ベタベタと他人様の婚約者に触って上目遣いをして、休日はショッピングにカフェテリアへ連れ回す。


 不興を買うのはマイカなのに、全ての醜悪さは何故かセルリアーナへ辿り着く。


「彼女達の覚悟を、その愛嬌で振り回して池に落とせるのだからよっぽど長閑で素敵な村で生きて来たのでしょうね」


 見覚えのあるお下げが、地面の土で汚れている。ぐったりと横たわるのはスチルで見た光景だ。


 シュリシュナータは本来、このゲーテの森で重傷を負う「用意された被害者」である。ゲーム内ならば。


 あの怪我して倒れていた令嬢とは、シュリシュナータだったのだ。

 スチルで重傷を負った生徒複数の内の一人が、彼女であると知る。


 グッと握り拳を作って、セルリアーナは怒りでマイカに語気を強めて言い放った。この憤怒は一生涯消えないだろう。


 光魔法の担い手だからと怠惰で、守るべき他者を危険に晒したのだから。


「死ぬところだったのよ、シュシュは」


「そんなの私の所為じゃ…………私だって、頑張ったもん」


「は? 貴女がちんたらちんたら亀以上に愚鈍で、助ける術を持ち合わせている優れた待遇に胡座をかくから!」


「セルリアーナ様…………」


 悔しい。傷を癒す力が無く、攻撃魔法に特化した特性をセルリアーナはこの日ばかりは憎んだ。


 大切な友人が傷付いているのに、何もしてやれない。苦痛も恐怖も拭ってやれない不甲斐無さに。


「どうして選ばれた者なのに、努力も何もせず寵愛を受けられると思ってらっしゃるの?」


「わ、私は……………」


「貴女は救う術を持ち合わせているのに、普段の体たらくな行いのせいで、助けられる命を助けられない」


 ぎろりと悪役令嬢セルリアーナは、凍て付く瞳でマイカを侮蔑を示した。






「王族に連なる者として、自覚すらないわ」









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