51 暗雲を引き寄せる悪手の一人
「貴様! それはマイカを殺す気で言ったのか?! 何足る侮辱と暴言だ、私は貴様の発言を王宮に報告するぞ」
「結構ですわ。ああ、それならば彼をお仕事を取ってはなりませんので」
「はあ?! 誰だその男は! 貴様は男を囲っているのか」
(貴方に言われたくは無いわよ。それに、ラルシュ様は崇高で歴とした王家が飼う暗躍者、謂わば監視者であるのだから)
「わたくしの動向全てにおいて、監査対象になるのでこれもまた、報告書に上がるでしょうから御安心下さい。勿論、王家から輩出した者であるので公平な目をお持ちですわ」
「は、あの例の暗躍者って奴か。俺はそう言う類の穢れた末裔は信用しない太刀でな」
思考に偏りがある人間が王家を導く臣下になるかも知れぬとは、先行きが怪しい。
そうセルリアーナは悟った。
王位継承権第二位、アルベルノ・キャルスラータは暗雲を引き寄せる悪手の一人だろう。
頭がお花畑なのは百歩譲って致し方ないが、王家お抱えの暗躍者を小馬鹿にするのは聞き捨てならない。
「王家に関わる人間全てが対象であることを努努忘るるなかれ────」
「────は?」
「殿下の暫定的ではありますが、私も侯爵家の令嬢で貴方様の婚約者です。今は、まだ」
「ふん。私は貴様を愛してなどいない。私の未来の伴侶はもう決まっている」
「良いのです別に。殿下の御心にわたくしがいないことは随分と前に存じ上げておりますから」
「なら、とっとと貴様は退いてくれ。顔も見たくないのだ、気分が悪くなる。その氷の様に冷たく高慢な醜悪さが」
(王家もここまで落ちた、とは不敬罪に成りかねるから口にしないけれど。まあどうか、とーっても遠い場所から二人の幸せを願っているわ)
「で、殿下ッ! 独断行動は班にとっても、評価に影響を及ぼ故今一度持ち場へお戻り頂けないでしょうか」
貴族令息が慌ただしく走って、アルベルノの前でそう跪いた。
勝手に別班に合流するのは反則である。団体行動について、協調性や集団の損失に伴ったリスク回避への対策、またはルールを守ることは大切である。
また、権威勾配と言ってリーダーを設置するのは良いが、この場合アルベルノが力関係を優位に働かせているのは事実だ。
彼が絶対的権力を得ている状況下では他メンバーとのコミュニケーションが一方通行化しやすく、意見も言い出しにくいのがデメリットと言えよう。
同じ目的を持って集団で行動を共にするのは苦手な人間も多い。
他者との協力から、一つの目標に向かって共に切磋琢磨する過程が重要なのだ。
「おい、それは班長である私に命令をするのか」
「と、と……んでもございません……殿下」
「では何故、私が発言を許可していないのにも関わらず、頭が高いのだろうか」
この害獣討伐訓練は一種の、集団生活においての課題とも言えよう。
だからこう言った勝手な行動を取り班内の士気を下げた上に、悪びれもなく傲慢な態度を取った場合心象は悪くなるのだ。
ゲーム内では、ヒロインの前では毅然とした面持ちがプレイヤーに評価が高かったが、目の前にすると自分勝手極まりないのはプレイヤー補修なのだろうか。がっかりした。
「殿下は今回の害獣討伐訓練で、班分けは生憎マイカさんと別行動になって様子を見に来て下さったのですよ。光魔法が不安定で心配したマイカさんを気に掛けていたようで。ご学友を気遣って、何が悪いことはありますか?」
「こ、これはエスメラルディ侯爵令嬢。恐れ入ります」
「貴方も態々迎えに来てくれて、ご苦労でした。アルベルノ殿下、それではご機嫌よう」
エスコートだって、今の一度もされたことすら無い。だからマイカは勝者である。ゲーム内で輝くヒロインである以上に、全てを掌握する強大な力を持っている。
けれども、悪役令嬢にも矜持というものがある。
セルリアーナ・エスメラルディはただ一方的に断罪などされない。
(……最悪、エスメラルディ侯爵家を糾弾される前に、籍を抜いて無関係を貫く。ゲームの強制力が働けば、一番はその選択肢が唯一血を流す人間が少ないはず)
舌打ちが聞こえたようが、王家の沽券に関わるので無視をしてあげたのは、善行を積んだとセルリアーナはほくそ笑んだのだった。




