50 いいから黙って、第二王子殿下の好感度を上げてくださらない?
「これが光魔法の輝き……」
「出来ました! これで少し痛みは和らぎますから安心して下さいねっ」
「聖女……の様だ」
「選ばれし者の、光」
害獣討伐訓練初日がついにやって来た。二泊三日のプチ遠征と言っても、馬車で数時間程度のゲーテの森。
害獣は猪や兎、ゴブリンの様な二足歩行系等が種族的に多い印象を受けた。
統率力も無く、班全員が各々役割を果たせば何ら障害にもならない。
セルリアーナは氷魔法を詠唱無しに使えるが、敢えてマイカの前で使わなかった。
あくまでも体術訓練で応用した、魔力を末梢に流して掌から鋭利な氷柱を飛ばす攻撃や、下腿まで氷で冷却し物理攻撃を与える肉弾戦。
魔力持ちが剣や槍、ましてや術者の能力を出力を安定させる魔杖を使わず戦うスタイルは、物珍しいだろう。
ただマイカは不安要素が多い。
殿方を侍らせて、セルリアーナを破滅させる主人公である。警戒しておくのが得策だ。
ましてや、この世界はセルリアーナが悪役令嬢だと決め付ける。
誰も信じてくれないし、弁明も聞き入れられない。最期は悲惨な末路を辿り、一家は国家反逆罪で全てを業火に焼き尽くされるのだから。
「彼女の生み出す光や癒しは正に、君では成し遂げられない」
「あら、光魔法の持ち主でもないわたくしに、そんな高度な魔法技術を押し付けられても本末転倒ですわ」
「人を傷付けることしか、出来ないのですか」
嫌悪を滲ませた碧色は、セルリアーナをやっぱり否定する。アルベルノ殿下はよっぽどエスメラルディ侯爵家との縁を切りたいらしい。
マイカも便乗してセルリアーナを糾弾するのも、正直気分が悪い。
自分はグランドル王国第二王子殿下の寵愛を受ける子女として、肩書を大いに利用しているからだ。
転生前だったら、既に醜いキャットファイトが始まっても遅くないだろうが。
今のセルリアーナはただ穏便に婚約破棄に持って行きたい。
それなのに事柄を盛大に率先して大きくする二人を、今直ぐにもぶん殴りたい葛藤とも戦っていた。
「エスメラルディ侯爵家は代々、氷を司る魔法の使い手……王家の者でしたら御存じですわよ?」
「だってセルリアーナ様は、私のこと妬んでます。幾ら殿下が振り向いてくれないからと言って、他の女生徒達にも────」
「わたくしの氷は、他者を傷付けることも厭わぬ強さを秘めております。けれども、その多くは貴女達の生活の源を支えていることも同時に覚えて帰って頂けると光栄ですわね」
「私、知ってますから。セルリアーナ様が虐めの主犯格だって……」
「根も葉もない御話は語り手で決まるのを、分かっていて披露なさるのだからチャンベラさんこそ、わたくしを殿下の背中に隠れながら恋を咲かせてらっしゃったら?」
(まあ私は二人のイチャコラシーンは見飽きているけどね)
もう呆れ返るくらい、身も蓋もない話を吹っ掛けてくるので、思わず欠伸が出そうだった。
澄ました顔で飄々と対処するセルリアーナを見て、怒り噴騰なのはアルベルノである。
マイカを愚弄して、自身の株を上げようとする狡猾な女として事実を捻じ曲げ都合が悪い物は見なかったことにする憐れな殿下の誕生だ。
そもそもエスメラルディ侯爵家は王国の生活至便からライフラインへ、魔力をエネルギーに変換させ行き渡る様に、六柱の一角を担っている。
その名誉を穢すのは侯爵家としても愚策以外無い。
膨大な魔力を宿した侯爵家の血筋の人間は、一歩間違えれば謀反を企てる弑逆者に成り下がる。
そう物語を作ろうと思えば、エスメラルディ侯爵家を良く思わない貴族家が共闘し、画策するのも容易いだろう。
最も現投主である父がそんな思惑は捻り潰すのである。
しかしそれくらい侯爵家内でも力を持つ存在。冷酷にもなるだろう。
「この膨大な魔力は、自分以外の誰かを守る資源エネルギーとして循環させる為にもあることは学院でも勉強なさったのでは?」
「それは義務じゃないですか」
「義務? 普通の魔力持ちでも判断を見誤れれば死ぬことだってあることを? 貴女、当事者でも何でも無いのに自由に首を出されるのは良くなくってよ? いつか離れ離れになってもおかしくはないわ」
魔力切れが無くても、過剰な使用にはリスクが伴う。命を削る。
それを一般人は知らないのだ。だからこんな身勝手極まりない発言を軽はずみにしてしまう。
セルリアーナはゲーム内で横柄な態度で、且つ感情的になってマイカを責め立てるシーンが圧倒的に多かったが、自分の立場に置き換えたら言いたくもなる状況である。
命懸けで行う責務が他者にやって当たり前根性で軽率に口に出されたら、平手打ちで済むわけがない。
実際に魔力切れになった人間も報告書状おり、彼等は一年未満で短い人生を終えたのだから。




