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49 悪役令嬢は形を潜めて、学友達と仲を深める





 だが、そこに王家への陰謀論やら、国家転覆を目論んでいるとか政治的背景を持ち出さないで頂きたいのだ。


「その……婚約者を前にして仲睦まじい姿を、ああも周知の上で見せ付けてくる女性がいたら、私だったら堪えられないですもの」


「正直、俺も婚約者がいる立場ならぶっちゃけ、疑われる行動を取るのは避けたいよ」


「だよなあ。だって、恋人がいるのに腕絡められたりされちゃったら、それこそ婚約者に誤解を招くことになるし」


 意外なことに、平民出身者のクラスメイトはマイカの肩を持っていないようだ。

 執拗にセルリアーナを非難して、周囲から断絶させ孤立するよう仕向けている悪意持った嫌がらせは貴族令息達の方が占めている。


(そりゃあ自分の立場になったら、たまったもんじゃあ無いからよね)


 逆に市井から王立学院に通う生徒達からは、口を噤むものの心情は複雑だったようだ。


 この事実は後のアドバンテージになる。


 しかし貴族令息達は、マイカに前世で何番煎じの登場を誇る魅惑魔法でも使われたのでは無いかと疑念を抱く程の人気ぶりだ。


 熱狂的ファンが、有る事無い事風潮するのも容易いだろう。自由に使える駒は多いのだから。

 それでも此方には強い味方がいる。監視者であるラルシュや、学友達が。そして家族もセルリアーナを愛している。


(だから私はこの平穏を守ってみせるわ。どんな手を使おうとも……)


 今仲良く話す市井出身者達と交流を深められたのは、セルリアーナにとっても見解を改める良い兆しとなっていた。


 ゲーム内のセルリアーナ・エスメラルディは侯爵家の家紋を振り翳し、徹底的な貴族階級制度に染まる悪女だった。


 平民とは口も聞かず、下級貴族は言動が気に入らねば氷漬けにした強固な扇子で頬を叩く。

 取り巻き連中の言葉に惑わされ、吹聴されたことでより侮蔑に拍車をかけたのだと。


 だが今のセルリアーナは、彼等が本当は口になどしていない。謙虚で聡明な彼等は争い事も好まないし、細々と王立学院での学ぶ日々を大切にしていた。


 貴族家の生徒が介入すれば、退学処分は朝飯前なのを理解して、低姿勢で事勿れ主義に徹していたのだ。


「マイカちゃんってさ、俺達とはあんまり会話しないよ」


「あー確かに俺たち市井組とは、一方距離置いてるっていうかね。まああんな華やかな貴族達を両手にしてたらさ、足元にも及ばんってやつですよ」


「分かります。上手くかわしてくると言うか……」


「そう言えば、なんかエスメラルディ様と同じこと聞かれましたよ俺。そんな生徒聞いたことないなあって、言ったら凄い険しい顔してて怖かったわ」


「あ、それ私も。なんかいつもと雰囲気が違っていて、ちょっと近寄り難かったかも」


「最近じゃあ貴族家の人達が周りにいて、話し掛けるのも恐れ多いというか、なんかちょっと……ね」


(ああ、何処まで行ってもマイカさんが優位な世界だけれど、こんな所に綻びがあったとは。私は大いに有効に使わせて頂くわ)


 セルリアーナは持って来た食料を、野営する平民の生徒達に分けた。ポーションも万が一に備えて、人数分以上に持参したのも彼等に配るからだ。


 このゲーテの森は初見を一網打尽する、苦戦イベントである。引率の教師がいても、全員を監督するのは困難だ。負傷者も出るだろう。


「色々とありがとう。実は討伐訓練の為にお持ちしたの。良かったら皆さん貰って下さるかしら」


「こ、これは噂のポーション……」


「実物は初めて見ます……」


「勿論、ノエラ様達の分も」


「ええー!? マジかあ! うわあ凄い純度の高いポーション……良いんですか?」


「製造過程は秘密ですけれど、万が一の御守りに」


「素晴らしい技術……ああ是非研究所に見学……ごほん」


 ポーションは反対を押し切る形で侍女や従者無しを選んだセルリアーナに、父から提案された物だった。ほぼ強制的に。

 鞄にぎっちり詰められて、テーブルに置かれたので、せっかくだからともう一袋分頼んだのだ。


「つーか、セルリアーナ様はあたしのこと様付けやめて下さいよー何か壁感じますー」


「あらわたくしとしたことが。失礼致しました、ノエラ」


「セルリアーナって呼んでいーい?」


「勿論。皆さんもわたくしのことをそう呼んで下さいますか?」


「え?! エッ、あ、あうあああ良いのでしょうか恐れ多いことに……」


「セルリアーナ様……って女神様の様な御方です……」


「大袈裟ですわ」


「分かる。俺もそう思いました。平民の俺達のことを気に掛けて下さるなんて、本当に感激で……帰ったら母ちゃんに言います」


「今度、良ければですが市井で美味しい串焼きのお店があるのです。うち、その店をやってまして、良かったら……」


「ふふ、嬉しいですわ。わたくし、絶対伺いますわよ? 本音と建前とか仰らないで下さいね」


「あ、俺の家で作ったパンも是非!」


「あー! 狡い!」


 打ち解けられたことで、セルリアーナは思わずくすりと笑った。嫌われ役の侯爵令嬢と親しくする人々が少なからずいるなんて。


(これで少なくとも、傍観する生徒達を此方側につかせることに成功したわ。ゲームとは違って)


 貴族家では当たり前に持つポーションだが、市場で平民がポンと簡単に出せる程の金額では無い。


 本来ならば全員に持たせるのが学院のルールであるはずだが、団体行動の大切さや協調性を養う為と言って何故かスタンダード所持で無いのだ。不思議なことに。


 だから初心者は街や商店で前以て購入する必要がある。


 ヒロイン操作中に、攻略対象者との各ルートで何度かそのチャンスがある為、買っておくのが無難なのだ。

 念には念を入れなければ、それこそRPG上で好感度を上げたい攻略対象者へ回復薬を使えない場面は痛い。


 そもそも光魔法の使い手で、治癒魔法を習得したヒロインに必要性を問うところ。

 しかし実は、詠唱時間が一ターン必須で、大ダメージを受けた場合は間に合わないのだ。


 鬼畜の所業である。その間に攻略対象者が死亡する、なんて実質ゲームオーバーのノーマルエンドへ速攻突入してしまう。


 それを防ぐ為にも、回復薬は非常に心強いアイテムであった。


 まあ班員の中で誰かが重傷、もしくは死亡した場合。

 全て悪役令嬢セルリアーナに責任が押し付けられるので、ヒロインに非は一つも無いのもご都合主義なのだろう。






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