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48 もう一人の攻略対象者





 セルリアーナは野営用テントを設置し終え、焚き火に囲む生徒達の方へ踵を返した。

 横断幕を振る様に、ぶんぶん手を振って呼ぶ朗らかな声に目を細めた。居心地の良い場所は作れるものだ。


「焚き火の準備出来ましたよ、セルリアーナ様!」


「シュシュはとっても手先が器用ですわね、きっと刺繍もとってもお上手なのは手に取るようにわかるわ」


「いや、この子手先貧乏なんですよーマジ詐欺っすよね! あ、火の管理はお任せ下さい」


「ノエラ様も頼もしくて、わたくしの仕事が全部なくなってしまうわ」


「あ、の」


 平民出身者は、勿論従者なんて同行していない。彼女達はセルリアーナが従者無しの行動に困惑していた様子だ。


 大き目の石を椅子代わりにして、火の元に近い所には串が数本地面に刺さっている。

 真っ白なふわふわなお菓子はこんがりと焼き目が付き、転生前に食べた「アレ」を思い出した。


「あ、これ市井で流行っているマシュマロ焼きです」

「うめええええ! あ、ごめんなさい、もうとりつくろうの遅いかしら」


 渡されたマシュマロは、このゲーム内でも存在したのかと思うと少し心が湧き立つ。口の中に広がる甘い砂糖と、蕩ける舌触りはキャンプ定番の焼きマシュマロの強みである。


「ノエラ、時既に遅いわ」


「やってしまった」


「あら、ここでは無礼講よ? そもそも野営や魔獣討伐訓練なんて生徒達の団結や、コミュニケーション能力などの個性も成績に反映されますので」


「今だから言えますけど、貴族の方が従者無しでの野営とかびっくりしました」


「ああ、何事も経験ですわ。郷に入れば剛に従うのでわたくし」


 各自持ち寄った食材で、香草の串焼きやサラダ巻きにしたり、平民の食事風景を大いに楽しんだ。順応性のあるノエラ達以外の貴族令息達は遠巻きで顔を歪めていたが。


 そもそも手掴みや、テーブルに用意されぬ食事は彼等からしたら無作法に近いのだ。


 貴族として、食べ方の所作は厳しく教育を受けて来た彼等にとって、平民の食事作法は受け入れ難いと言っても過言では無い。


 ノエラは先住民族が領土の半数以上を占めていることから、彼等の文化や価値観を尊重し、狩りも同行したことがあるらしい。


 獣の捌き方も、貴族令嬢としては有り得ぬ特技を持っており、こっそり打ち明けてくれた。


 シュリシュナータは図書館で読んだ各国を旅する冒険者の主人公が仲間達と野営するシーンを実体験出来たと喜んでいた。


 冒険譚もこの世界では流行しているのか。

 セルリアーナは書物は文献や各諸外国の歴史書や、図鑑等現実的な物が多かったので、知識の偏りを理解した。


 そうか、以前のセルリアーナもこの手の話題には一切触れずにいたのは、知らなかったからだろう。

 日々の王子妃教育や勉強に明け暮れて、子女達に流行る物一つ知らぬ令嬢である。


 少しずつ、変わりつつあるセルリアーナを取り巻く環境が良い方向に進む為の行動ばかりしていたが、もっと視野を広げるべきかもしれない。


 今はセルリアーナの人生なのだから。


(そうだ、この子達なら攻略者の一人を知っているかもしれない)


 実は攻略対象者の一人が王立学院に通っていないようだった。もしかすると市井にいるのかもしれない。


「あ、ヨルダム・クラウスという人物はご存知ない?」


「いや、そんな生徒はおりません」


「それではリオフェナ・パーパルダは」


「うーん、知りませんね」


(おかしいわ。攻略対象者の人物とその婚約者がいないなんて)


 攻略対象者、幼馴染ポジションの彼等とその婚約者が王立学院に不在なのは気になる点だった。

 どんなに念入りに調査依頼をしても、彼等の所在を掴めなかった。


 ヨルダム・クラウスは攻略対象者で、子爵家の長子であるが マイカとは一番親しい間柄であるポジションだ。


 所謂近所の歳の近いお兄さんである。

 その彼の婚約者が幼馴染のリオフェナ・パーパルダだが、全くと言って良い程に今の今まで登場していない。


 この二人の駆け引きは、かなり昼ロマンスドラマ並みに過激であることから結構、ワクワクするシーン上位を争っていた。


「まあこんなに広大な敷地内で、且つ生徒数も多いから探し出すのは難しいかもしれませんね。私の方でも父に聞いてみましょうか?」


「シュシュの御父様のお手を煩わせる訳にはいきませんわ。お気持ちだけ」


 ニコリと微笑むセルリアーナはなるべく、口角を上げて目を弧に意識した。


 最近気が付いたことだが、このセルリアーナの本体は全くと言って良いほどに表情筋が動きづらい。


 社交的な振る舞いを阻害するくらいに、笑みを浮かべようとも冷たい雪を降らすが如くな、不適な笑み〜次の標的は貴女よ氷柱でブルを狙って差し上げる添え〜である。


 ブル、とはダーツの的ど真ん中を刺す用語だ。要するに貫いたるってよ、と宣戦布告する氷の花が直々にするなんて物騒なことをゲーム内では行われていた。


「うーん、本当に淑女の鑑とは正にエスメラルディ様ですよね〜」


「お話し出来て光栄です。事実は自分の目で確かめるべきだと、改めて実感しました」


「気高きエスメラルディ侯爵家の令嬢と話すなんて機会、滅多に無いもんなあ」


 火を囲む同級生から、そう言われると声を掛けづらい威厳さの風格を出すエスメラルディ侯爵家は注目の的にもなる。


 その反面、マイカは平民出身者でクラスメイトから圧倒的支持を持ち、天真爛漫な振る舞いや清純性からか親しみやすいのだろう。


 同級生達の誤解を解ければ、少しは出来上がった高慢卑劣な悪女のレッテルを剥がすきっかけにもなるかもしれない。


「そうかしら。わたくし、そんな壁ある様に見えますか?」


「王国のライフラインを支える六柱の一つで、畏れ多くて。でも、毅然としたあの御姿、本当に尊敬します!」


 マイカや取り巻き、そして陰口を叩く姑息な連中と同じ土俵に上がる必要性は無い。


 そもそもセルリアーナは穏便に婚約破棄をして、二人にはハッピーエンドを迎えて欲しい。あわよくば、遠い場所で幸福を願いたい。


(このゲームの最大の見せ場、悪役令嬢を徹底的に嬲り破滅させるシーンがパッケージで印字されるくらいの見所なのは分かるけれど)








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