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46 正ヒロインだろうと、やって良いことと悪いことの分別はありますことよ





「あの!」


 設営場所に戻ろうとすると、甲高い声が話し掛けてきた。振り向きたくはなかったが、渋々セルリアーナは背中越しに感じる無垢な存在に溜息を飲み込んだ。


「あらチャンベラさん、ごきげんよう。何か御用かしら」


「あの、あの……ッ」


(イラッ。何溜めてるのよ)


「アルベルノ様のこと、本当に好きなんですか?」


(好きじゃねえええええよおおおおおお!)


 確かにキャラクターランキングトップを誇る、金髪碧眼王道攻略対象者だ。周囲の熱望を浴びるのは無理もない。それだけハイスペック機能搭載キャラクターである。


 体感だが、第二王子殿下アルベルノの恋人の座を奪取を目論む令嬢もまだ多い。ワンチャンスあれば、懐に飛び付く勢いだ。


 貴族家の繁栄も絡めば、それはそれはキャットファイトを繰り広げるなんざ軽傷程度である。

 未来の王子妃はそれだけ、貴族家だろうと女性にとって憧憬を抱く存在だ。


 苛立ちが真骨頂まで上昇したが、セルリアーナは溜息を飲み込む。


(ゴミ殿下やるわよ、何なら無料でクーリングオフしてやるわ)


 主人公・マイカはゲーテの森で、絶対王者並みのポイントゲッターである。協調性や主戦力ともなり得る、光魔法を駆使してチームを引っ張ることが出来るからだ。


 回復にも、マイカは光に弱い害獣達にも効果覿面なので王立学院で戦闘モードで苦戦しようが、最終的には過去一のポイントを取得することが可能である。


「わたくし、殿下とは貴族と王家の謂わば政略結婚でありますの。そこに私情は挟めません。貴族令嬢としてこの世に生を授かったからには、恋だ腫れただのでは、成立致しませんことよ?」


「じゃあどうして手紙の返事をしてくれないんですか?! 殿下ばかり送ってばかりです。そんなの寂し過ぎませんか? そう思いませんか、セルリアーナ様」


(いや、従者とか適当に他人に書かせた形式上の手紙とかもう読まねえし。あれ手紙じゃないから、本人が書いてないから。はい以上! 話終わり、終わり終わり終わり────ッ!!!!)


「手紙? 何のことでしょうか?」


「とぼけなくても────」


「王家からの書簡や、通達には目を通しておりますがプライベートのことを身内以上の関係でも無い貴女にとやかく言われる筋合いは無いかと思いますが?」


(同時にこのイベントで、セルリアーナの心はバキバキに壊される場面……)


 本来の台詞では、手紙の返事が殿下からで無いことも重々承知の上だった。セルリアーナは代筆をされた手紙にすら、目を瞑っていた。


 だから「わたくしがどんなにあの方からの手紙を心待ちにしていたか、貴女のような下賤な泥棒猫には分かるものですか!」がゲームシステム上での正しい台詞である。


 平手打ちからの、土を蹴り飛ばして主人公を徹底的に罵倒し攻撃するセルリアーナのスチルは悪辣な顔をしていた。


 気高く美貌のある悪役令嬢が、悪人面際立つシーンは操作側のプレイヤーからしたら憤怒する場面に対してその後のざまぁ演出でスカッとするだろう。


 セルリアーナを主人公が華麗に撃退シーンするのは実物だ。


(そりゃあ婚約者が、多くの殿方を虜にしている……。それも平民に御熱心な上なら、尚更プライドも享受も全部壊れるわよ)


 それでも、彼女の苦難や傷口を平然と抉っては、他者に見せびらかす行為をするヒロインの標準装備・天真爛漫さ(チートスキル)が今は憎い。


 セルリアーナは愛されたかっただけだ。普通のごく一般的な女性で、好きな人に振り向いて欲しいだけなのに。


「まさか人様の綴る内容にすら干渉されるのは些か個人情報漏洩も問題視したいところですけれど……」


「…………え?」


 絶対的なゲーム内のシンデレラが現れてしまう。だから嫌がらせの数々を仕掛けて、失墜させようとするが裏目に出て多くの人々に見放される。


 未来永久的に悪役令嬢として烙印を押された哀れな女性。セルリアーナに転生してから、イベントを過ごすうちにマイカの振る舞いにおける風評被害の拡大。


 彼女の幸せをひっそりと願いたいし、正直あわよくば攻略対象者と恋を成就して欲しい。


(ただ、セルリアーナや周囲に不幸を撒き散らさないで欲しい、それだけのことよ)


「王家に準ずる臣下や伝者に問題がありますわね。もしやそのことを、態々二人きりになってまで教えに来て下さったのですか? 親切なお気遣いありがとう、チャンベラさん」


(ラルシュ様の手を煩わせたくないし、とっとと円満な婚約破棄か全員がハッピーエンドを迎える結末を、ゲーム強制補正に抗っていかなければ。私だけでなく、皆んながそれこそ不幸になるわ)


「その、手紙……楽しみじゃ無かったのですか?」


「何故貴女に個人的なことを答えなければならないの?」


「だって、好きな人からの手紙ですよ! ワクワクしてドキドキするし……」


「ああ。毎度同じ花屋でルーティンされた四種類の花束や、誕生カードの筆跡が毎年異なる物をでしょうか。色々な意味で、どきりと胸が高まりますわ。今回は何方が言伝を頼まれたのかって推理するのも、わたくしの楽しみですのよ?」


(そもそも過去の手紙内容とか、その口調ぶりからして見せたわね。個人的なやり取りな物を引き合いに出して、やっぱり殿下はクソオブクソな卑怯者)


「殿下はそんなこと……っ。だって殿下のフレグランスが香る手紙を送って……」


「フレグランス? そんな良い香りがする手紙なんて一通も届いておりませんもの。きっと、さぞ爽やかなオレンジブロッサムのシトラス系な香りでしょうね」


「どうして、それを……」


「だって、その香水はわたくしの領地で収穫され卸したオレンジブロッサムから抽出されてますもの」







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