45 野外害獣討伐訓練で、ドキワクハプニングイベント起こそう!②
決してヒロインである主人公が悪者では無い。
ただ、この世界は残酷だ。ヒロインに優位に働く中で踠き苦しむ。
結果は変わらないかもしれないと言う絶望と隣り合わせである。
悪役令嬢セルリアーナ・エスメラルディはどう足掻こうが絶対悪となる。それがゲームの摂理であることには変わりない。
各自それぞれが準備する中、テントの配置や持参した豪華な野営グッズでマウントを取り合っている。面倒な世界である。
とにかく他者より優位に立っているのがステータスだと思う人間が多いのだ。
すると、矛先は今度マイカに移る。彼女を崇拝する人間が多い中でも、嫉妬心を抱き憎悪する人間もいる。
特に婚約者のいる令息達を誑かしている、と婚約者持ちの貴族令嬢からは顰蹙を買うのはゲームでも同じだった。
「はあ、嫌な役回りね……」
「セルリアーナ様?」
「失礼、今日の害獣討伐訓練が楽しみで眠れなくって」
(おっと……私ったら、本音がうっかりと。気を引き締めないと)
「分かるわそれ! なんたって、合法的に試し斬り出来るからね! 模擬訓練じゃ味気なかったから」
「それノエラだけだからね? 結局サーベルやめて刀剣にしたんだ」
「元騎士希望だからね。シュシュは魔導書かあ、らしいわ」
「詠唱時間の短縮が出来るし、そもそも戦闘向きじゃないからね」
「あら適材適所って言葉もありますし、良いと思いますわよ? 本人が一番輝ける場は必ずあるわ」
セルリアーナはゲーテの森討伐訓練序盤から、とにかく権力と金の力でマイカを虐め倒して、取り巻きと連携プレーをしたが最後は切り捨てられる。
女の友情ほど、横に長くて脆い物は無い。
あんなにも茶会でも最高級品の茶葉やらお菓子を披露したり、有益なポジションを演出しようが最後に訪れるのは断罪されて一家滅亡の末路である。
しかし、今のセルリアーナは攻略対象者の婚約者であるノエラ達を上手く関係構築が出来ている。
彼女達の本心を聞き出せ、且つ因縁の関係であったバーン侯爵家との仲裁役にもなった故に信頼は厚く寄せられていた。良い功績である。
エスメラルディ侯爵家の存続、そして此方の被害が最小限で終わる穏便な婚約破棄。
推しの幸福と言う新たな野望を抱いてセルリアーナは着実に前に進んでいた。
(早く断言してくれれば良いのに、マイカさんと恋仲だからお前が恋慕したんだろー! とか。まあ貴方が余所の女生徒と浮気に走っても、私が悪いってセオリーが腹立ちますが)
さっさと王子殿下は見切りを付けてマイカとの熱愛報道を王都で繰り広げれば良いのに。大スクープだろうから。
こそこそと小声で顰蹙買った生徒達が噂好きなのか、ここぞとばかりに風潮する。
そんな疾しさが際立った音は、自ずとセルリアーナの耳には嫌と言う程に入るようだ。地獄耳は辛い。聞きたく無いことも耳に届いてしまうから。
「家事スキルが高い平民出身者の、まああの王子殿下を誑かす方は張り切ってらしてね」
「下賎は者はこうも、使用人がすることを率先してやるのね? 流石ですわ。身の振る舞い方は天下一品と言ったところかしら、殿方を珍味として認識させるだけあるのだから」
「どうやって籠絡したんだか……光属性の血脈が欲しいのか王家は」
第二王子殿下アルベルノが、浮気者であることはサンドバッグの刑にしても足りないが発言は自粛すべきである。
当本人でもエスメラルディ侯爵家当主が言及することを、部外者が面白おかしく風潮しているのはどうも許せない。
セルリアーナは堪忍袋がプツっと切れてしまう。
「あらその御言葉、グランドル王国の高潔な血筋を持つ殿下を冒涜するようにも伺えますが? 少し言葉が弾み過ぎては?」
「い、いや…………これは、エスメラルディ侯爵令嬢」
「ふふ、皆さん少し郊外と言う珍しい空気や環境に触れて、少々肩の力が抜けて楽しまれてらっしゃるところに水を指すのも気が引けますけれども」
(外野がこうやって社交場を賑やかにするのでしょうね。今の私にはとっても耳障りだけれど)
「……っ、そ、それは、なあ?」
「課外授業ってあまりないし、私達も少し、その」
「殿下に不敬を働くつもりは……」
言い訳にもレパートリーが欲しいところだ。聞き飽きてしまって、セルリアーナはフンと鼻を鳴らした。
「わたくし、今日は耳が遠いようですわ。だから風の御声だと思ったのだけれど、何方か御存知ですか?」
陽が傾いて、ひんやりとした風が森林を駆け抜ける。
それ以上に冷気を纏ったセルリアーナで周囲の温度は一気に下がったらしい。ぶるぶると震え上がって唇が紫色になるのだから。
焚き火のパチパチと木が燃える音で、悪口大会をしていた彼等は暖を取る為に一目散に逃げ出してしまった。
セルリアーナは踵を返し、野営準備に戻った。




