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4 らびゅ、推しへの熱情いざ胸に留めん




 彼の情報は少ない。外套を深々と被り、颯爽と現れては悪役令嬢を殺しに来る。まあそれは自分なのだが。


 モブだったら遠巻きで観察出来たが、至近距離で見る機会が多くなるのならこの身を危険に晒しても見たい。


「また懸想しておりますね。この専属侍女には通じませんよその氷の鏡は」


「だって、婚約者とか邪魔なのに王子妃教育とかもう無理では? 時間勿体無いわよ」


「探しに行くって聞かないのは相変わらずなのは安心しましたお嬢様」


 あまりにも手足をジタバタさせて転生を噛み締めて奇行を繰り返していたら、専属侍女にドン引きされた。

 いや、仕方ない。悪役令嬢であるセシリアーナは傍若無人で、とにかく性悪女である。


 プレイヤーから見ても、我儘で傲慢で家柄を盾に弱者を平気で蹂躙する悪役だ。自分より家格が低い者は人間扱いしないし、誰からも嫌われる典型的な憎まれる存在。


 その彼女が以前、愛してやまない男性はグランドル王国で第二王子だ。名前は興味無いが、一応情報としてある。


 アルベルノ・キャルスラータ。このグランドル王国第二王子殿下であり、悪役令嬢(セルリアーナ)の婚約者だ。


 幼少期から王家と侯爵家のガッチガチな政略結婚で、より確固たる強い関係性を構築する。その為に締結した親が決めた婚約者。

 本家セルリアーナはこの第二王子にゾッコンだった。一目惚れらしい。


 あれの何処が良いかは分からんが、公式サイトの人気投票ランキングナンバーワンらしい。あ、そーですか。興味ありましぇえん勢としては、予備知識程度にある。スチル回収の為に。


(眉目秀麗で王家の宝だろうと……、セルリアーナをあっさり捨てるのだから)


 彼女は毎日毎日追っかけ回して、侯爵家の義務を放棄してまでストーキングする熱愛っぷりは、逆に感激したものだ。


 人を愛する気持ちが過激になるのは、気持ちも分からなくもない。好きな相手と会話出来る機会があれば逃さないだろう。自分だってそうする。


 だって推しと同じ空気を吸えて、言葉を交わせて礼服やら学生服を合法的に拝めるのならば。


 だが、今のセルリアーナは推し一筋である。壁画や集めたコレクションを破棄して部屋を一掃したら、流石に侍女が気が付いた。次のターゲットは誰だと。


 特に隠すつもりも問等無かったので「第二王子には愛想を尽かして、この初恋に終止符を打った」体で振る舞う。


 アデュー恋心、おかえり推しへの情熱。


「だってだってだって」


「もしかして王宮に出入りする機会が多ければ多いほど、重鎮や貴族達とお目にかかれます。それって好機では? まず素性も全て謎に包まれた方ならば情報リサーチしなければなりませんよお嬢様」


「……わかった。まず貴女の良い嫁ぎ先を見繕いましょう。これで手を打ってくれるかしら。何たって私は侯爵家の長女ですもの」


「ええ……結婚はちょっと」


「え?」


「お嬢様にお仕えする身としては、貴女様がお幸せになってからでないと足元向けて眠れませんので」


 ゲーム内では殆ど登場しないものの、セルリアーナは自分より下の階級貴族には専ら手厳しかった。


 見下して、会話も碌にしない。

 未来の王太子妃としては不適切だが家柄と魔力量、そして王家と侯爵家の繋がりを強固したい狙いだ。


 それなのに転生後、人が変わった様に使用人や侍女達には横柄な態度をせず、平等に接したので評価は変わったらしい。階段から何者かに突き飛ばされて、心が入れ替わったと。


 勿論、それは事実だったが幾ら貴族令嬢だろうとやって良いことと悪いことの分別はある。


 自分だって嫌だ。セルリアーナに転生したからには、悪役令嬢として周囲に嫌悪される存在よりも、無害であった方が断然良い。それに、推し活もしやすいだろう。


「はあ、分かったわよ。未来なんてどうなるか分からないしね」


「紅茶のお代わりは?」


「ありがとう、頂くわ」


 不思議とセルリアーナの振る舞いは、板が付いている。記憶も引き継いだのか、セルリアーナとして振る舞うことが自然と出来る。


 セルリアーナ・エスメラルディ。侯爵家長女で、留学中の一つ上の兄と両親の四人家族。専属侍女は幼少期から同じで、紅茶を淹れるのが上手い。


 氷属性で魔力量が膨大で、プライドの塊。王家との政略結婚だろうと、初恋を成就させようと日々王子妃教育にも、勉学を怠らず殿下の為に一心不乱で相応しい令嬢であろうと努力する憐れな悪役。


 初恋は決して叶わぬと心の何処かで分かっていても、微かな希望に縋ろうとする。


(あれ? 本当はセルリアーナって、ただ婚約者に振り向いてもらいたくて頑張る痛いけな女の子では?)


 主人公の登場で、より立場が危うくなれば王家との政略結婚や貴族令嬢としての責務、そして初恋。不器用な彼女はやり方さえ間違わねば、殺されずに済んだかもしれない。


 舞台は主人公マイカの為に存在したシンデレラストーリーだが、転生した私ならば一ミリとも愛していない殿下を譲っても良い。


(本家のセルリアーナ、すまん。私は振り向いてもらえず、主人公と結ばれる運命には逆らわないわ)


 だってどんなに頑張っても、殿下は絶対にセルリアーナに恋をしないのだから。更には主人公マイカとラブラブハッピーエンドを迎える。


 それならば今の自分は、推しの為に生きる。


 だから悲恋はお似合いじゃあない。せめて好き勝手に出来ずにいた青春を謳歌する為に、今日も推しの背中を追い掛けるのだった。





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