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36 アマリィシアの輝き





「何かとお前の周りは騒々しいな。また喧嘩売られたのか」

「あら、ご覧になってらしたの?」


「泥棒猫は相変わらず、頬膨らまして風船みたいだったな。針でプスッと行けば割れそうだ」


(毒を吐く御姿も、凛々しくて美しいわ)


「それでも替えの効かぬ光属性ですもの。重宝される、存在自体が奇跡な様な御方へ少しばかりお灸を据えただけですわ」


 カリュプスは報告書をピンと指で弾いて粉状にした。忽ち砂の様に風へ乗って消えて行く。

 さて、一仕事も終えたところなので網目状の鞄から取り出した渾身のおやつである。


「わたくし、とーっても張り切って作りましたの」


「……紅茶、か?」


「正解! 少し濃く紅茶を煮出してみたので是非」


 紅茶のパウンドケーキは香りが強くなる様、茶葉を多くして作った。代わりに甘いホイップクリームを塗って二度美味しい物にチャレンジすると言う、無謀なことをした甲斐があった。


「いた、だきます……」


「! どうぞ! 召し上がって下さい!」


(いただきます、なんて初めて聞いたわ。うーん、可愛いわ……。存在自体が可愛過ぎて、暴漢にでも食べられそうになったら、その時は腐った物は排除しないと)


 千切って口に運ぶ所作は美しく、バターナイフで掬ってクリームを足すと黒眼をパチパチと瞬きさせる。輝いた双眸は、まるで大好物探しの冒険をして発見した瞬間にも見えた。


 カリュプスは飲食禁止エリアだろうと、気にも留めずパウンドケーキを咀嚼している。在籍中の生徒でも無いから、と平然と禁止事項を破る。


 まあ、彼は王家から派遣された監視者である。対象であるセルリアーナを見張ることが出来るのならば、多少のルール違反や倫理を逸脱した行為も揉み消すだけの権力を行使するだろう。


「キツイことを言った謝礼……いや、嘘だ。美味しいよ、ほら礼だ」


「キツいこと?」


「その辺の歯が浮くことが平然とベラベラ喋る紳士みたいに言えたら良いんだが、思い付かない」


「えッ? カリュプス様はありのままで良いと思いますが…………」


(何かあったかしら? もしかして、私が床ドンで気絶する前の御助言のこと?)


「と言うか、お前気絶する回数多いからやっぱり医者に診てもらえよ。吐血とかしないだろうな?」


「いえ……それは大丈夫、ですが…………」


 ポケットから思い出した様に取り出された小さな箱は上等なラッピングで、刺繍が施されている。中身を見るまでも無く、その箱が貴族御用達の高級店であることが窺える。


(待って待って待って、あの推しが私の為に買って下さった物が異常に高価だった場合……え? 推しが握手会でファンサ以外に手紙読んでくれていて、ウインク独り占めさせてくれるくらいの破壊力が)


「こんな高価な物を……」


(カリュプス様こんな高価なお品物を、毎日同じ空間で酸素スーハーして英気養いたい下心ある私に! なんて御慈悲を!)


「俺の気紛れだ。侯爵令嬢なら宝石なんか見飽きてるだろうが……その」


(息吸うことだけに、集中。じゃないと、私、真面目に息……出来ない……)


 恐る恐る推しから貰った貴重なプレゼントを開けると、まるでこの世の美しさを全て詰め込んだ輝きに目を奪われた。


「綺麗……」


(あうああああ推しに金貨何枚も……! でも嬉しくて意識失いそうだわ……)


「アイスブルーの髪飾りが、お前に似合うと思って露店で目が合った。それだけだ」


 露店で売っている様な代物では無い。


 アマリリスに似た大きな花弁に淡い青色が咲き誇る美しい髪飾りだ。上質なサファイアの宝石や、ダイアモンドの透明感ある美しさは誰をも魅了するだろう。


 棘の細工まであるのは、シュリシュナータが以前図鑑を広げると掲載された美麗な一輪。セルリアーナを例えた、アマリィシアを指す花を連想させた。


(うあ? あ? カリュプス様……? なに、を)


 するとカリュプスは何気無くセルリアーナの髪へ着けてくれるから、肩を竦めた。

 顔は真っ赤な茹蛸になり、恥ずかしさと嬉しさで胸が熱くなる。


「取って食うとでも?」


「いや、あの……慣れてらっしゃるのですか?」


(待って、聞いた私馬鹿だわ。同担拒否だぞ。もうここまで来たら私以外が物理的に幸せに出来る人間いないだろこの野郎)


「はは、俺が? 手土産があった方が円滑に進むなら用意するが、仕事じゃああるまいし────」


「し、仕事じゃなく、選んで下さったの……ですね?」


「……黙秘を行使する。ちゃっかり誘導するな会話を。そういうところだ、全く油断も隙も無い」


(何処まで行っても尊い推しだ……ああ、神よ。推しが吐く二酸化炭素すら感謝して吸い込みたいです……)


 セルリアーナは伏せた長い睫毛を上げる。ドキドキと胸が高まって、こんな祝福を受けるとは思ってもみなくて、呼吸数が荒くなるのを根性で抑え込んだ。


「あの、どうですか?」


「悪く……は、無い。馬子にも衣装か」


「カリュプス様らしいこと。それ褒め言葉じゃ無いですけれど? でも、嬉しい」


「嬉しい? 別に大したことはしていない」


「ありがとう御座います、カリュプス様。大事にします」


「お、大袈裟な……」






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