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27 仲を取り持つ簡単な方法





 幸いにも発覚が早く、現地の人々の懸命な救助活動のお陰でバーン侯爵や付き添いの商人達は命を落とすことはなかった。


 後日、改めて豪奢な邸宅に招待され、改めて深々と御礼を言われた。

 バーン侯爵家の領地へ赴くのは初めてだったが、とにかく活気が溢れており領民達は市場でも物流が豊かだと話していた。観光客も多く、商売人が多く足しげに訪れるのも頷ける。


 バーン侯爵邸内で、様々な珍味や高級食材が使われた料理、果実水を振る舞われ、挨拶回りに目がぐるぐると回りそうになっていると。


「こんなに人が集まるなんて、不慣れで落ち着きません……」


「シュシュ、それは私もだ……。うちは騎士服のままとか皆んな服装指定なんか無いし自由に酒飲んでるから」


「あら。シュシュに、ノエラではありませんか。ごきげんよう」


 モスグリーンの落ち着きな色味で、露出が極限に少ないドレスに、丸眼鏡と言ったシュリシュナータは手に持った皿に沢山の料理が載っている。


 正反対に襟ぐりが大きく開いたマスタードカラーのドレスを身に纏ったノエラは編み込みのアップスタイルである。両手には骨付き肉だ。鍛錬後だからと、もりもり口いっぱいに頬張っていた。


「セルリアーナ様のお召し物、とてもお似合いです」


「まるで朝露の中に咲き誇る、一輪の美しきアマリィシアですわあ……」


 セルリアーナのドレスは父が王都の有名デザイナーを邸宅に招いて、デザインから何から何まで口出しして作らせた特注品だった。


(私より御父様が張り切ってたのよね……)


 透明感のあるブルーのドレスは、コールドショルダーの様な肩が空き、袖口はシースルーである。襟元から腰回りまでは刺繍された花柄の鮮やかなデザインで、一級品だった。


(社交界大嫌いで、癇癪持ちみたいな歩く傲慢な愛娘が、ここ最近まで睨み合いしていたバーン侯爵家の招待状を真っ向から受け取ったのだから)


 そこにハーフアップで、エスメラルディ侯爵家の紋章が、肩章にすら見える煌めくサファイアの数々は威厳すら象徴していた。


「アマリィシア?」


「その美しさ故に棘が多いけれども、高嶺には手を伸ばしたくなる程の……朝降りる露の中、咲くアマリィシアは透き通ったアイスブルーで綺麗な花なのです」


 花を加工して作るドライフラワーや、保存が難しくて市場では殆ど見掛けぬ幻の花だとシュリシュナータは教えてくれた。


「肩の力を抜いてごらんなさい? なんたって、今夜の主役は颯爽と危機に駆け付けるメリウスの騎士ですもの!」


「大袈裟ですよ、セルリアーナ様!」


 メリウスはペルシャ領で栽培される、領土内で有名な美しい花である。丸い簪の様な形状で、小さな花が密集したアルメリアとも似た真っ赤な花だ。


 彼等の領土では冠婚葬祭で多く用いられ、お祝い事にも手向けられる。


 ただ土や気候に左右されやすく、あまり王都では出回っていない。満開に咲き誇る季節に、とノエラが満面の笑みで語る姿が印象的だった。


 メリウスの名称を付けることは、即ちペルシャ領を意味する。彼女はそれだけ勇猛果敢で、正義感に溢れた優しい貴族令嬢である。


「メリウスの騎士、か。それは我が娘に相応しいなあ! がはは!」


「御父様まで! 私は当たり前のことをしたまでです」


「改めましてメリウスの騎士、ノエラ・ペルシャ侯爵令嬢。先日の崖崩れの件、命を救って頂き感謝の言葉もみつかりません」


「あ、ええ、と…………そんな、その」


 尻込みする態度で、ノエラは一歩下がる。髭面の人相悪い仕立ての良い燕尾服を着て会釈する姿は、異様だったからだ。


 隣で華麗なカーテシーをするキャサリンは、王子妃教育を受け始めたことで、より淑女として磨きかかった様である。


 野心家な一面に気品が香り、彼女をやんわり推薦したのは間違いで無かったと心の中で頷いた。


「貴女が後押しをして下さらなければ、今頃……」


「わたくしはお友達を信じたまでですわ」


「貴女ってひとは」


「ペルシャ侯爵令嬢。バーン侯爵家の者としてまずは感謝を」


「人命がかかってるのに、そんな貴族とか不仲な相手とか関係無いでしょう」


 力強い握手と、今後の物流で使用する陸路について花を咲かせている領主達を横目に、大人の談話からひっペ返してくれたのはキャサリンだった。


 グラスにはベリー系の果実がたっぷり使われたジュースが注がれる。グラス片手に乾杯をすると、キャサリンは本題をさらりと伝えてきた。


「……税率の件ですが、私から御父様に掛け合います。彼等にとっても重大な生活費であり、もう少し彼等が歩んだ歴史を学ばなければなりません」


 それでは挨拶回りがあるので。と、キャサリンは華麗に貴族達の輪の中に戻って行ってしまった。


(抜け目がないわね、キャサリン様は……。敵に回さなくて良かったあああああ)


 シュリシュナータがこそりとセルリアーナへ耳打ちをする。


「ねえ、私が知らぬ間にどうやって懐柔したのですか? 生まれた時から仲悪かったのに」


「おほほ、わたくしったら」


「もーうー! なんで知らないうちに仲良しになってんだよー! ずるいっ!」


 シュリシュナータには悪いが、貴族ならば交渉術も巧みな心理戦の種明かしは厳禁だ。足元を掬われるのは、いつだって明日は我が身である。






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