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25 ペルシャ侯爵家とバーン侯爵家の確執





「バーン侯爵令嬢、ですか。失礼を承知の上ですが、私はあまり良い印象を持ち合わせておりません」


(そう、ペルシャ侯爵家とバーン侯爵家は良好な関係性では無い)


「でも付かず離れずの関係性を保てば、互いの領土を潤わせる秘策が出て来そうなのに」


「通行料が高いだの、関税を下げろだの一方的なんですよ!」


「セルリアーナ様、バーン侯爵家とはノエラが生まれる前から犬猿の仲でして……」


 ペルシャ侯爵家の領土はとにかく広大で自然豊かな、作物が豊潤の地である。

 また、最近は収穫時期に突入して出荷や搬入が多いかきいれ時だ。季節や天候に左右されずに、土壌が良い領地が強みのあるペルシャ侯爵領。


 根っからの商人気質のあるバーン侯爵家が隣接する港から王都までの通行料の税率で長年睨み合いが続いているのがネックとも言える。


(キャサリン様とノエラ様が仲睦まじく……は困難な道かもしれないけれど、領地において有益な相手だとは今後知って欲しいかしら……)


 事の発端は港を挟むペルシャ領を通過するには、迂回する形で陸路でもかなり時間のかかる山間か、最短ではあるが狭隘な道であるけれど労働力や負担が軽く済む川沿いの二択だった。


 まだペルシャ領は山林を切り拓くのは時期尚早とも言えるだろう。


 そもそも、その気が無いのである。大きな理由としては、領土内でも吸収された形となった少数民族達が多く住み、彼等の神聖な土地として広大な森林を道路開拓まで至っていない。


 つまり彼等のルーツや信仰に敬意を称して共存している。


「とっとと関所だの、祈祷所だの無駄な固定費を撤廃しろって、毎年収穫祭や流通が活発になる頃に態と伝書鳩飛ばしてくるのよ」


「へえ、意外です。伝令係では無いのですか?」


「ペルシャ領とのやり取りは山間の凸凹道や、獣道が多い道中で事故が多いし害獣も頻発しているから、専ら伝書鳩が主流なのです」


 だから迂回ルートは使わせて頂いている、通過ににも大地の恵みや祖先へ挨拶をしなければならない。

 その入山の儀式をして、初めて許可証が発行されるのでタイムロスだとキャサリンがぼやいていたのを思い出した。


 一方で、川沿いは地元民が緊急を要する事態や天候によっては殆ど暗黙の了解で使われていない。何故ならばゲーム内の知識として近年地盤沈下をしており、崖崩れも多い。


 神の怒りが表面化しやすいと言って、祭壇もあるが彼等は神の禍(アティーラ)と呼称する。


「私の母様は、今は小国に吸収された一族の族長だったのです。父様が王家の間に入ってくれたことで、元来あったハーディーの里は誇りや尊厳を失わずに今を生きられているのです」


 こんな田舎娘ですみません、とノエラは歯切れが悪そうに言ったが、セルリアーナは首を横に振った。


「確かにグランドル王国は小国が集まった広大な国です。けれども、私達は忘れてはおりません。彼等の生きた足跡や文化も、言語も全て後世へ伝えられるように」


(ノエラ様は王都でも珍しく、ハディス語をルーツに持つお母様との間に生まれたから、余計キャサリン様とは相性が悪いのよね)


 けれども、バーン侯爵家はゲーム内ではあるきっかけで退場を余儀無くされる。

 キャサリンを引き入れたのは、まだ舞台に立ち続けて欲しいから、と言う邪な考えも無くはない。


 バーン侯爵家はその一件で、一家の大黒柱を失う。更には大損失を負い、負債を返済する為に多くの私財を返納して、領土管理が困難となり爵位も返上し舞台から消え去ってしまうのだ。


 これがきっかけで、一気に関係は悪化し王都を中心とした流通にも影響が出たのだった。


(ああ、なんだったかしら……。バーン侯爵家の衰退の原因って。彼女達にはもっと大活躍して頂かないと……)


「因みに、川沿いって通れるには通れるのかしら?」


「祈祷師と現地の案内人、通訳者がいれば通れるけれど、敬意を払ってか積極的には……」


「あそこは川の流れが複雑なんだよね、地形的に。昔からそうなんですー」


「だから地元の人達の協力も必要なのね、彼等の先祖が守って来た土地へ足を踏み込むのならば尚更……」


 セルリアーナは王族が軽視していた過去の遺物として処理する姿勢がどうも、嫌だったようだ。彼女は歴史書や翻訳がされていないハディス語で綴られた、当時珍しかった伝記や書物を読み漁っていた。


 それは王国を担う者として、正しい道標を指すことが使命であると信じて疑っていなかったのだ。


(それでも貴族階級や、平民を侮蔑の目で見下ろしていたのは、何か過去にきっかけがあったはずなのに)


 人種差別はしないのに、階級差別をするのは何故か。人間の生命は等しいものだと思う反面、何か悪い物を吹き込まれて助長されたのではないか、なんて。


 憶測で物事を見誤ってはならない。それこそ、今生きるか死ぬかの瀬戸際を歩いているセルリアーナならば、懸念点だけにフォーカスしなければ。


「ハディス語話者を連れて来てるのならまだ良いのだけれど」


「ハディス語なんざ滅んだ種族が人間の真似事だとさ。思い出しただけでも腹立つわ」


「……でも、彼等の文化や伝統を蔑ろにしては良くないのに未だ差別意識を持ってますよね」


「そうね、どんな言葉を話そうとわたくし達は同じ人間なのに」


 シュリシュナータもティモラスビーテ侯爵家の一員として考えることがあるのだろう。


 王宮内にある王族が利用出来る専属司書官の家系で、現宰相の長子の婚約者。ハディス語を毛嫌いする正統派なる公爵家は過去の遺産には興味が無いのだろう。


(セルリアーナとして転生して、この器に入った途端。まるで心にブレーキが掛かるようになった。それって、転生したことや感情を暴走しないようにシステムでバグが起こったと考えても良いかもね)


(そうだとしても、頭お花畑のマイカさんの弊害で私以外の誰かが傷付くのは、恋の傷心よりも辛いわよ)


 ふと気になったのは、ゲーム内でキャサリンが呆気無く退場した時のシーンだ。顔面蒼白で膝から崩れ落ちて、訃報を聞かされたキャサリンに対してマイカが声を掛けるのである。


 マイカの一言が思い出せない。靄のかかった雲に覆われた様に、決定的な何かが。朧げな記憶に、眉間に皺を寄せる。


(思い出さないと。あれは、大事なことなのに)







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