24 悪役の集い
「この間、オースティン様がこう言ったんですよ! マイカみたいに可憐な花と比べて、お前はずんぐりむっくりな湿地帯で自生するキノコとは雲泥の差だ……ですって!」
「物真似に磨きかかってるわね……って言うか何その言い方?!」
「キノコに例えるならば、ベニテレンケキノコと申し上げましたよ!」
「返しも独特ね……て言うか、それ毒キノコじゃない!」
悪役揃いの昼下がり。食堂は相変わらずマイカ達が占拠しているので、人も疎な庭園でアフタヌーンティーを満喫していた。
シュリシュナータとノエラは軽食で新作のマカロンや王都で流行っているナッツ入りのチョコレートブラウニーを食べながら二人の掛け合いを眺める。
「毒キノコでも可愛いんですよお」
「ええ…………どんなのよ」
ベニテレンケキノコを鼻息荒めに解説するシュリシュナータは、手帳の切れ端に描き始めた。
転生前の世界では、ベニテングタケの様な白い水玉模様で鮮やかな赤い傘が特徴だ。
このゲーム内でも毒キノコに該当するらしく、食した人に強烈な幻覚、昏睡状態に陥る有毒キノコだ。
外面が華やかであるからか、害虫駆除剤に用いれるから画期的な毒だとシュリシュナータは言う。
それにしても、シュリシュナータの婚約者であるモノクル攻略対象者は最低野郎だ。嘘でも外聞的な婚約者を小馬鹿に出来るなんて、親の顔が見てみたい。
(まあ何度か王宮内で顔を合わせているようだけれど、記憶の中のセルリアーナは食えない宰相以外の感想が無かったのよね)
「婚約者に対する物言いでは無いですわね」
「そう思いません?! あの片方しか眼鏡掛けてないのインテリっぶててより腹立ちますよ!」
(確かに、あのモノクル眼鏡かち割りたくなる時あ────)
「物理的にノエラなら壊せるでしょ……」
「シュシュあんたねえ!!!!」
(同じこと考えていた人がいたわ)
この二人の仲良しさは、見ていて微笑ましい。曰く、二人は元々領土の隣同士で幼少期から交流が深いそうだ。
気心知れる友人が近くにいるのは、とても頼もしいだろう。
温かい紅茶で喉を潤しながら、過去のセルリアーナに本当の友人なんて居たのだろうか考えた。
幼少期よりエスメラルディ侯爵家の一員としての自覚を持ち、魔力操作の鍛錬や淑女教育も熱心だった。
(初めて出来たお友達だもの、嬉しいに決まってる)
セルリアーナに転生してからは、何処か心の奥底で孤独を抱いていた。
勿論、最推しのカリュプスは自分のオアシスだ。けれども学生生活で、友人達と共に過ごす時間もまた、嬉しいものだった。
(王立学院で過ごす楽しみを増やすのも、また良いわね)
ノエラやシュリシュナータから様々な王都での流行事や、情報が入って来るのも新鮮だ。
セルリアーナはあまり王都に出向くことは少ないし、時間が無い。魔力供給の業務や王宮で王子妃教育も受けねばならないと、とにかくタスクが多いのだ。
最近はやっとキャサリンも婚約者候補として抜擢されたので、期待の目は分散出来たから安堵しているが。
「いつもセルリアーナ様は木陰で過ごされていて、何度かお見かけしたのです。でも、一人のお時間も大事にされてらっしゃるのかなと」
(危なかった。木陰にはカリュプス様がいらっしゃるから)
「もしや御悩み事でも……?」
「ほら、その」
「オペラ歌劇団で、王族専用席に……」
婚約者候補に駆け上がったキャサリンか。悩みの種として勝手に浮上してくれたのは、都合が良い。
思い耽った仕草で、頬に手を添わせる。眉を顰めれば、恋煩いとも取れるだろう。
「まだあの平民の……しかも、婚約者のいる殿方達にも腕を絡め、甘える仕草……許すまじなチャンベラさんよりは」
「そうね、そこだけは唯一妥協出来る点だけれど、私は納得行かないです……。こんなにも美しく優しい可憐なセルリアーナ様を差し置いて……ッ」
まだ彼女達の安全が確保されるまで、外堀を埋めてから出ないとマイカを震源地として全てが吹き飛ぶ。正に彼女は今では他者を不幸にしてまで幸せを勝ち取る主人公だ。
それが許されてしまう、お気楽ご都合主義ゲーム内で、悪役令嬢に転生された宿命。だが、彼女達を進んで巻き込みたくはない。
(ああ、私って強欲よ。だって……初めて出来たお友達ですもの)
セルリアーナだって悪役令嬢が成敗された後は、攻略者の婚約者である彼女達がどうなったかなんて容易く想像出来る。婚約破棄は貴族令嬢にとって、汚点でしかない。
一度結婚を約束していた相手から捨てられれば、貴族ならば家名にも傷が付く。つまり貴族令嬢としての役割を果たせなかった烙印を押されるのだ。
そうなれば彼女達は、どうなるであろう。
王太子殿下をポイ捨てして辺境地での推し活スローライフには程遠い懺悔と、自責の念で死にたくなるだろう。そんな人生は御免だ。
「キャサリン様は我が物顔で、帰りの馬車までごいっしょだったと。信じられません、これが黙ってられるかって感じです!!」
「あら、王族として当然の行いですわよ。これは逆に、喜ばしいことだわ?」
(マイカさんを押し退いて座ったのね、流石だわ)
「セルリアーナ様はお優しすぎます!」
「だって、どうせ……誰が座っても同じではありませんか。わたくし以外の御令嬢に目が行くなら尚更、足掻いてみっともない姿をお見せするわけには参りませんわ」
(要約、他の女にうつつ抜かす男は断じて愛さん)
「セルリアーナ様……心中お察し致します」
(ノエラは殿方があっちふらふらするのを絶対許さないマンだから、余計腹立つんでしょうね。婚約者もマイカさんに夢中だし)
オペラ歌劇団の演目で今流行っているのは、まるでマイカと第二王子殿下を描いた平民の少女と王子の身分差恋愛のシンデレラストーリーだ。何が『王子の心を溶かす、花売りの少女』だ。
(クソオブクソな内容よ。こんなゲロ吐く素人が作った演目なんか垂れ流しされたキャサリン様も御気の毒だわ)
完璧なことに悪役の魔女も登場する。彼等の恋愛親密度を加速させるスパイスである。
見目が悪い魔女に惑わされ心を氷漬けにされた王子を癒し、深い愛情で真実の愛に辿り着き、悪い魔女は倒され永久の幸福を手に入れる話だ。
(なーにーがー真実の愛よ! それは日本語ではね、略奪愛って言葉があるのよ!!)
そんな下らない演目を永遠と見させられたキャサリンには同情するが、目撃されたことが重要なのだ。王族専用の席で、完全プライベートで一人の貴族令嬢と懇意にしている事実が。
「き、きっと殿下も今に目が覚めますよ!」
「シュシュ……ノエラも気を遣わせてしまいましたね」
「とんでもございません! 私達はセルリアーナ様の味方ですから!!」
二人がセルリアーナの手をガシリと取った。力強い。殿下には永遠に目が覚めて欲しくないと言う心情をひっそり飲み込んだ。




