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23 図書室イベントの発展を見守るのも楽じゃない





 相変わらず、今日も監視対象者である二人を同時に王命通りの仕事を熟すカリュプスは、王立学院が保有し生徒達へ一般公開する図書館にいた。


 楽しそうに私語は控えるべきと壁に高々と掲示されるルールを破って、インテリ眼鏡代表格のオースティン・トンプソンと仲良く勉強をする。


 マイカはキャッキャと楽しそうな甲高い声で、体を引き寄せてペンを握り締める彼に甘えている様子だ。


「ねえねえオースティン、ここって何て書いてあるの?」


「この文章は、我がグランドル王国が第二言語として幅広く浸透しているハディス語だな」


「どうして? グランドル王国で適用されているのはグランドル語なのに」


(グランドル王国は元々が小国の集まりで大国となった歴史的背景がある。それ故に統治国家として吸収された小国が持つ言語を第二言語として採用し、彼等の文化や言語を奪わず共存する道を切り拓いた。と表向きではなっているわね)


「ハディス語を話せる奴等は王都じゃあいないくせに、何が部族対立を回避したい背景をこうやって使われるとは。グランドル王国の歴史を簡単に語って欲しくはないな」


 セルリアーナがボソリとツッコミを入れそうになった時、カリュプスが舌打ちをして代弁してくれた。やはり彼は公爵家の人間だ。


 何故ならば、王家が表向きに誂えた情報統制で築き上げた物を、裏書まで知っているからである。


 実際問題、小国同士が手を組んで武力行使をされたり、別の国を構築されると国家の存続に響く。

 ましてや彼等は元々が戦闘民族だったり魔力持ちが多い国民性が根強かった。敵に回すのは得策ではないと判断したのだろう。


(人種や信仰、そして文化を排除し塗り替えることが残された人間にとってどれだけの屈辱であるかなんて……侵略戦争を仕掛けた側は本質を理解していない)


 何が共存だ。侵略して土地も尊厳も奪っておいて、共存を語るのは彼等の祖先に対する不敬である。


 セルリアーナはだから建前である、王立学院での歴史授業が嫌厭していた。器のセルリアーナが、全身で拒絶を表して知った経緯だ。


 侵略国家が根本的にあったグランドル王国の歴史的背景は複雑に曲がりくねっている。建国されてから一切、その手の歴史書は禁書として扱われ、アクセスも不可能に近い。


「グランドル王国は小国の集まりでな。彼等の文化と共に生きる意味も込めて、第二言語をハディス語を採用しているんだ」


「滅んだ国なのに?」


「国としてはないが、彼等の生きて来た証を後世に残す為に当時の国王陛下が配慮して下さったんだよ」


「へえ、とっても優しい王様だったんだね! みんなが平等に幸せになることはとても良いことだって、お母さんが言ってたなあ」


(おーい、便箋も何も全く手紙出してないのに良く口が回るわね。家の仕事も手伝わずにいるのも、報告上がってますわよー?)


「御両親を大切に思っているんだな。マイカこそ優しくて努力家だと思うぞ? 今もこうやって苦手な歴史に取り組んでいるのだから」


 歴史の授業を全く理解していないマイカに対して、全肯定するオースティンの浮かれ具合は実物だ。


(オースティンは第二王子の家臣でもあるのに、逢瀬は本能に抗えないのね。やっぱり殿方は恋に溺れると立場も全部都合良く忘れてしまうのかしら?)


 第二王子殿下がマイカにベタ惚れなのは、表情がころころ変わって、明るく活発的な天真爛漫さなのだろうか。平民出身のマイカが物珍しいのか、周囲にいないタイプの人間と接したら目で追うのが真理だ。


 特に王宮内では、愛憎蠢き大人達の足の引っ張り合いばかり目にしている。嫌気が刺して現実逃避もしたくなる。


(あの人がマイカさんを好きになるのは分かるわ。愛くるしい見た目……セルリアーナとは違って。可愛くて健気で、庇護欲を駆り立てられる)


 真愛に目覚めたのならば、尚更それはより振り解けぬ欲望となるだろう。絶対に手放したくない女性だと、第二王子殿下は本来の政略結婚の目的すら忘れて鞍替えするくらいだ。


「オースティンの教え方が上手で、次のテストは絶対に満点採りたいなあ」


「出来るさ、マイカなら」


「じゃあね……満点もしも、もしもだよ? 採ったら……オースティン、ご褒美くれる?」


(これはツンデレメガネルートのテストで満点採れたら♫ イベントのリーチね)


 歴史の裏側を知るのは、王族や王家に携わる一部の人間、そして王家との確固たる繋がりのある爵位持ちの上位貴族だけだ。


 興味が無さそうに、図書館内は飲食厳禁なのに無視しているカリュプスは神経が太いのだろう。対して気にもせず、目の前で大きく掲げられるルール十箇条はお気に召していない様子だ。


「あれ、まだ続くか? 飽きたな」


「報告書に提出なさるのでしょう?」


「あの茶番、俺にとっては退屈過ぎる」


 こそこそとセルリアーナ達は、番号管理が徹底されるジャンル別で分かれた本棚の上に潜伏していた。視力が良いカリュプスはかなり遠い距離なのに、目視で彼等を捉えている。


(相変わらずブラックダイアモンドよりも美しい瞳……)


 一方でセルリアーナはオペラグラスで辛うじて確認出来ており、つまりは魔法でも使わぬ限り視認出来ぬ距離にいた。二人の声は閑静な図書室内に響き渡るくらいには大きいので盗聴も何も無いが。


 甘い空気感はまるでカップルである。攻略対象者であるオースティンは婚約者もいるのに、他人から見ればあまり良い印象は受けないだろう。


 けれども、此処はマイカに用意された舞台である。何者にも邪魔は出来ないのか、咎める人間すらこの空間にはいない。


 ちらりと上目遣いで、マイカはオースティンを見ている。


「それじゃあ……今度、王都で有名なケーキ屋に行こうか。新作のベリームースケーキをご馳走するよ」


「────あの」


「なんだ? マイカ」


「……その日、ずっと、オースティンと一緒にいられる?」


「そりゃ、僕はいつだって時間を空けるけれど……逆に良いのか? 家の仕事手伝ったり────」


「だって、一番にテストの結果報告したいのは、オースティンだもん……」


 王都でオースティンとの親密度を急激に上げるデートイベントへ王手が掛かりそうな雰囲気である。


 オースティンの反応を見るからに、本人が紳士らしくないと言う理由で甘い物好きをひた隠しにしている設定がある。

 それを露呈してもマイカには良い、つまり心をかなり開いていることが分かる描写なのだ。


(マイカさんは着実に攻略対象者を籠絡させているわね……主人公の貫禄かしら)


 オースティンは完璧にマイカへ夢中であり、親密度はこの時点でかなり高いことが窺える。


 セルリアーナは二人を見守っていると、飽きてしまったカリュプスはさらさらと適当に報告書を書き上げて欠伸を盛大に漏らした。


「まだか?」


「甘酸っぱい青い春を過ごしてらっしゃるのですねえ」


「なんだ青い春って」


「青い春と書いて、青春ですよカリュプス様」


「学院なんざ、良い思い出も何も無かったからな……。あ、少し腕上げたな」


 もぐ、と特製第二改良版ザラメクッキーを摘みながら、カリュプスはそう呟いた。


(カリュプス様は王立学院出身なのね、世間体を気にする貴族家ならば筋が通るけれど……)


 リスの頬袋の様に沢山詰まっている。詰め込みすぎだなあと思いながら、微笑ましい光景を眺める。


(黙々と召し上がる姿を見たら、何も聞けないわ)


「ふふ、嬉しいですわ。もっと精進致します」





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