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20 ザラメの味





「暫定的な婚約者って、どういうことだ」


「どうとは?」


「書簡での件だ」


 相変わらず差し入れにはノーコメントで、もぐもぐ食べるカリュプスにセルリアーナはあっけらかんと答えた。


 婚約者候補を増やすことで、より貴族階級の家々が我先に王族へ娘を押し入れたいだろう。先手を打って、敢えてキャサリン・バーンを推薦の様に名前を出しただけで大きな借りを作らせてあげた。


(野心家のバーン侯爵家を敵に回すより、味方に出来たのは心強いわね)


 両親も婚約者である第二王子殿下が全く愛娘に見向きもせず、形式的な花束や宝石をエスメラルディ侯爵家の邸宅へ贈ってくるものの。


 本人からは一つもアクションが無い。


 お茶会の誘いも、幾ら此方が数時間悩んで便箋に熱情を綴っても。

 王都で流行を作り出すデザイナーにドレスを作ってもらい、いつか来るであろう共に過ごす時間に想い馳せても。


 誰かの代筆なのか、適当に素っ気なく返される。


(そうやって、どんどんセルリアーナは愛に敗れ、枯渇して……振り向いてもらおうと間違った手を使ってでも、彼に見てもらいたかったのよね)


 愛娘を溺愛する両親からすれば、王家との繋がり以前に娘の幸せを第一に考えている。家族が一番なのだ。


(不毛な恋は断ち切りなさい! そして良いお婿さん見付けるわよと張り切ってるのは……ちょっと止めなきゃだけれど)


 だから、セルリアーナの申し出にも快く了承し、上手く事を運んでくれたのである。歪み合っていたバーン侯爵家とも破滅的な関係も修復されるだろう。


 味方は一人でも多く作るに越したことはない。狡猾な人間は如何に相手を陥れるか、虎視眈々と隙を狙っているのだから。


(御母様が聡明で優しく殴っても魔力暴走に耐えられる頑丈な体躯の殿方を探し回ってるけれど、そんな神話に出てきそうな男性なんか何処探してもいないわよ)


 監視対象が増えるものの、セルリアーナだけでなく婚約者候補が現れたのは不服だったのか。いや、そんな口振りでも無さそうだ。


「へえ、直談判したのか。殿下の御心はわたくしにから離れてますし、これを機に未来の王国を支えるとか上手いこと言ったんだろ」


「御名答! さあ召し上がって、今日は自信作ですのよ。お菓子も作って来たので」


「菓子?」


「あら、召し上がったことは?」


「まあ……ある、が」


 カリュプスはセルリアーナの話を良く聞いてくれる。此方の意図を汲み取るのが、異常なくらい上手い。聞き上手なのか、最近は特にそう感じる。


 沈黙をして微風を肌身に感じていても、ゆったりと流れる時間すら心地良いのは彼が特別なのだろう。


(この時間が好きだわ)


 セルリアーナは肩の力を抜いて、対等に話せる存在の有り難みを改めて噛み締めた。

 今日は外套の御礼にと、焼き菓子を作ってきた。勿論、初挑戦なので侯爵家専属シェフと相談しながらレクチャーを受けつつ、何とか作った物だ。


 ザラメがクッキーに施した、甘い物と砂糖控え目の二種類を用意した。男性は甘い物が苦手な人もいるらしく、口に合わなかった時用だ。


「味しないぞ?」


「砂糖控えめと、普通のを作りましたが、あら? 配分間違えたかしら……」


 花の形をした甘さ控え目の物をぱくりと食べてみるが、味はシナモンの香りと柔らかい味が広がる。


 その様子にカリュプスは若干、目尻が微かに動いた。


「悪い、味覚が鈍いから他意は……」


「そうでしたの。では、此方はザラメを使ったお菓子ですから」


(味覚が鈍い?)


 平常心を保つのに必死で、不恰好さを隠す為にザラメをたっぷりと使ったクッキーを手渡した。


 上手く話せているだろうか。いつもと変わらずにこりと微笑んで、相手に動揺を悟らせてはならない。王子妃教育で、散々叩き込まれたのだから、絶対に見破られないだろう。


(うそ、カリュプス様は……)






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