表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/104

2 推しはどんな絶望からでも救い出して下さる存在





 これは、真面目に死ぬ以外の選択肢残されていない。頭を抱える理由はセルリアーナの末路が悲惨だからである。

 悪役令嬢セルリアーナはどのルートを進もうと、凄惨な結末を迎える。


 一家の爵位剥奪からの断頭台行きや、崖から突き飛ばされて全身骨折に臓器破裂による失血性ショック死。

 または敵国へ売り飛ばされて手足が飛ぼうが生きる奴隷として死ぬまで前線で戦わされるとか。


「嫌よ、どうして……わたくしは、ただ幸せになりたかっただけなの」


「全部あの女が悪いのに、わたくしは! 侯爵家の息女として、毅然たる態度で接しなければ! それこそあの女を許してしまえば……貴族なんて階級制度は破壊の一途を辿るじゃない」


「憎い、あの女が憎くて……死んでも死に切れないわ……」


「貴族令嬢であった、このわたくしを死戦に駆り出して泥水を啜らせ魔力切れで剣の串刺しが最期なんて、同じじゃない。わたくしと同じ、正真正銘の悪女よ!!」


「冗談じゃないわよ、王族を誑かしたのは貴女よ。傾国の光魔法なんて馬鹿みたいだわ、こんな真っ暗闇の戦場を照らす物なんて無い……」


 こんな要領でとにかく、断罪される。命すら危うい。


 ありとあらゆる死に方を考え抜いた作者を、悪役令嬢の当事者になれば見方は若干変わる。ここまで嫌われて滅多刺しされる貴族令嬢はいないだろう。


(あーあ……これは始める前から死ぬのほぼ確定じゃないですかあ……)


 侍女情報によるとセルリアーナが通う王立学院の不祥事で謹慎処分を食らおうと。王宮での政務スケジュールを把握し、婚約者である第二王子の情報を掌握する彼女は全く反省の色は無かった。


 流石は第二王子殿下に盲目なだけある。権力に財力は惜しみ無く注いでいる。


 だが、突然階段から落ちて気を失って、生死を彷徨ったらしい。

 何故だか辻褄が合わないことが起こったのか。階段から転落するシーンは無かったはずだ。


 ともかく、絶望の淵に立っていたが、ガバリと勢い良く体を起こした。生きる希望はたった一つ、存在することを。




 あの好きな乙女ゲームに転生したのならば、幻の推しの御尊顔を拝見出来るかもしれない────と。





 忘れてはならない人物が一人だけいる。他はモブ。芋にしか見えん。以上、と言い切るくらい眼中に無い。


 どんな攻略対象者のイケメンズがいても、社畜の鋼鉄な心を響かせず、ただある男性だけが自分を射止めた。


(もしかして、恋シュミに転生したのならば、彼に会える……の?)


 彼の名は、覆い隠す銃口(カリュプス)である。


 ギリシア神話に登場する海の女神カリュプソーは覆い隠す者の意味もある。叙事詩オデュッセイアーでトロイア戦争の英雄オデュッセウスの帰国に関する物語だ。そこから因んでいるのだろう。


 彼は黒髪黒目で、悲しいことに一秒程度の登場しかない。スチルに付き一秒、即ち全てのルートを回っても合計攻略対象者四人と別ルート合わせて十秒未満の登場。


 本名は語られなかったが、ある貴族の婚外子として生まれて不遇な生活を送っている。


 それ故に王国の汚れ仕事を全て請け負う掃除屋と変貌したらしい。

 冷酷無比で、他者を平気で裏切り嘲笑う反面、愛を知らぬ孤高の暗躍者なのだ。


『王家が放った弾丸は、此方を冥闇(めいあん)から覗いている────』と、揶揄されるくらいの手腕の持ち主だ。


 ましてや細かな設定や攻略対象者でも無く、必ず悪役令嬢を様々な方法で暗殺や見せしめに公開処刑してみたりとする残忍な人間である。


 念の為だが、このゲーム内では拳銃の開発は著しく、専ら魔力形成がベースだ。

 なので、武器の改良にも大量生産をするには国庫から出すには決め手が弱い。


 一秒しか流れぬスチルを何枚もかき集めるくらいに、どハマりしたのは、彼の真っ黒な瞳に射止められてしまったのだ。なんて美しく、気高い生き物なんだろうと。


 王子殿下だの、宰相閣下の息子やら騎士団長の次男坊とか、隣国の王太子とかどうでも良い。




 名前も知らぬ彼しか、勝たんのだ。





「お名前を頂戴するまで死ねないわ……」


 ガッツポーズを天井に高々と掲げる。推しの生存確認、御名前、出来れば御尊顔拝見、あともしも叶うならば好きな食べ物とか聞きたいのだ。


 断罪回避をしたら、恐らくお目に掛かることは無いだろう。断罪前提で、生きる活路を模索すると言う前代未聞なる悪役令嬢の喜劇を演出せねばならないなんて。


「あわよくば、まず御尊顔を間近で拝見したい、睫毛一本一本数えたい」


 あまりの変貌ぶりに、家族が心配して扉に張り付いて聞き耳を立てていたのは、知る由も無かった。








 火蓋は落とされた。これからどうするかは、以前のセルリアーナと違い、ただ指咥えて大人しく断罪されるとでも?









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ