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18 王子妃の席は穏便にお譲りして、あわよくば味方に抱き込みたい





 王立学院内のだだっ広い庭園辺りで管理されているサンルームで、人払を済ませてある人物と会う約束をしていた。


 木漏れ日が燦々なる太陽の日差しを遮る様に生い茂る木々は緑が豊かで空気が洗練とする。深呼吸をして、セルリアーナは交渉の場に彼女を引き摺り出せたのは好都合だった。手応えはある。


(さて……一仕事しましょうか)


 セルリアーナはティータイムをするのは、良く此処のサンルームを利用する。決まって王立学院と直接契約する老年の庭師くらいしか来ないが。


(やっぱりジィジは良い仕事をするわ。とっても木々が喜んでいるのが分かるもの)


 人気を誇りそうなデートスポット。実際はこの老年庭師が自身の憩いの空間に仕立て上げており、気に入らなければ追い出す。


 薔薇の剪定鋏を握ったまま貴族の顔色を気にせず、繰り返したことで生徒達からは寄り付かない場所の一つだった。


(あとでジィジにもお茶菓子包んで持って行こうかしら)


 セルリアーナは高慢卑劣で王子殿下に群がる蝿を凍らせる暴虐をしていたにも関わらず、何故かこの老年庭師には入室を許可されていた。欲しい物はどんな手段でも手に入れようとする愚直さが刺さったらしい。


 ガチャン。扉が施錠された音が響く。


 淡々と席に着いた貴族令嬢は、差し出したティーカップやお菓子には目もくれず。怪訝そうにセルリアーナを見た。


(来たわね。二番目にお会いしたかった御方が)


 無駄話はセルリアーナも好きでは無い。せっかく淹れた紅茶が台無しになるからだ。冷める前にとっとと話を終える。


 交渉は単純だ。話が長くなればなるほど、相手に自信が無く見えるし疑惑を与える要因が増える。

 簡潔に、要点を提示して双方に利があることを明確に伝えることだ。


「……ごきげんよう、エスメラルディ侯爵令嬢」


「バーン侯爵令嬢、ごきげんよう。ささ、どうぞお掛けになって?」


 悪役令嬢セルリアーナの第二宿敵令嬢である、商家として勇猛なる功績を持つキャサリン・バーンだ。


 キャサリンは優美な佇まいとは裏腹にオリーブカラーのツインテールに、大きなリボンが特徴的で、勝気な性格である。彼女は魔力は微力だが他国から買い付けた特殊な武器を駆使して、戦闘を優位に運ぶ指導者の能力がある。


(ツインテールでこのツンとした感じ、画面越しと変わらない可愛さね)


 どうせ婚約破棄をされるならば、いっそのこと早々にマイカや別の貴族令嬢に放り投げて仕舞えば良い。


 王政絡みも面倒であり、何より簒奪を企てたなんてデマを流されても困る。婚姻政策は貴族では当たり前の責務で、重大だ。


「単刀直入に申し上げます。マイカさんかキャサリンさんにお譲りしたいわ」


「あら、婚約破棄なさると?」


(食い付いたわね。何と明言していないのに)


「オフレコですわよこんなこと……」


「でしょうね。侯爵家が許しませんわよ」


 魔力の膨大な血族であり、国民の公共機関を守る主柱と言うエスメラルディ侯爵家の後ろ盾は王家として絶対に欲しいカードであった。


 また、どんなにグランドル王国が他国侵略や戦争とは無縁な平和であっても、治安維持の為に様々な国策を敷いている。


「その辺は根回ししておりますので、お気遣い無く。本題ですが────」


「貴女ともあろう方が、こんな鬱蒼とした森みたいな場所に呼び出したかと思いましたら、内容によってはガッカリしますわ」


「そうでしょうか? わたくし、此処とてもお気に入りでしてよ。最高なる腕の持ち主が手入れなさっておりますから、少し言葉に棘を添えるには早いのでは……バーン侯爵令嬢」 

 例えばだが国境管理も厳重だ。他国は戦争真っ最中なんてことも屡々あるので、軍事訓練も頻繁に行われている。


 平和ボケせず、王宮直属騎士団を筆頭に日々鍛錬を欠かせていないのは王宮内からも窺える。


「近々、害獣駆除訓練ありますよね? 是非手合わせの成果を見せて頂けることを楽しみに……しておりますわ」


「……相変わらず、性格が曲がりくねっておりますね」


「あら! お互い様でして? で無ければ、バーン侯爵に学院で配給される武器でない、特殊性能のある物を秘密裏に使おうとしてらっしゃるのは目を瞑りますわ」


 さあっと青褪めて、キャサリンは絶句した。


(バーン侯爵令嬢はゲーム内でも後方支援型で、戦闘能力はあまり高くなかったからね)


 貴族令嬢たるもの、どんな不利な状況下であろうと毅然と姿勢を崩さず、相手の空気に飲み込まれてはならない。

 セルリアーナはにこりと微笑んだ。勝利は目前であるからだ。


「ど、どうして……」


「ふふ、でもそうやって信念を捻じ曲げてでも勝利を得ようとする心根は、嫌いじゃ無いのです」


 ゲームでも後々登場するが、グランドル王国が抱える問題の一つは王都近郊外は害獣が彷徨っていることだ。害獣はここ数百年前より神出鬼没なる、その名の通り人に害を為す獣である。


 皮膚は剛結で刃を折るのも容易く、気性が荒い厄介者だ。グランドル王国では駆除対象であり、繁殖スピードも早く駆除が必要だった。

 特に領土内で農作物を食い荒らし周り、排泄物が草木や土壌を汚すので農夫達から絶大な反感を買っている。


(はい、出ました。吊り橋効果で害獣討伐訓練はメインイベントの一つなのよねー……)


 王立学院でも害獣を倒す方法が確立しており、微かな魔力でも込められた武器で駆除が出来る。


 必須項目で今後のグランドル王国での繁栄には切っても切れぬ問題に共に立ち向かおう精神で、何と駆除任務が授業で課せられるのだ。

 なので、貴族だの平民だの関係無く不参加は落第コースの強制任務が近々待っていた。


「最近張り合いが無くなって、退屈だわ。それに、休み時間は何処かに行ってしまわれますし。殿下の乗馬スケジュールや政務も把握なさってらしたのに」


 だからその点、マイカは稀に見る光属性で回復魔法が使える王族も手にしたい人材だ。国王陛下も放任主義な一面があると思っていたが、マイカもセルリアーナと同様に監視対象である。


 要するに、婚約者候補に一気に駆け上がった為の、身辺調査とも言えよう。


「張り込みする大変さを、実感したのです」


「はあ? 何を仰るの……? 雨だろうと強風で外出制限が勧告される中でも貴女……いらしていたのに」


「あ、あと毎日縦ロールはもう疲れました」


「あら残念。お似合いでしたのに異名を誇張されますし」


 セルリアーナは以前まで縦ロールをしていたが、早起きが辛かった。長時間の拘束と、侍女の手間を考慮して廃止したのだ。


 今のセルリアーナは緩くランダムに巻いた時短仕様である。


(さて、世間話も程々に。そろそろ本題に入りましょうか……)





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