14 婚約者の存在忘れてた、一応そうだったけど認めてない
木に登るのも、板に付いてきた。制服はドレスと違ってまだ動き易いから良い。コルセットも要らないし、何なら機敏に動ける。
視線の先にはイチャイチャしている第二王子殿下とゲーム内の絶対的ヒロインであるマイカ・チャンベラだ。見詰め合って逢瀬に花を咲かせているのだろう。
王立学院は敷地も膨大で逢い引きをする場所は幾つも点在している。庭園内にあるガゼボは特に人目を気にせず親密度を高められる絶好なデートスポットだ。
(お忍びデートするなら、王都から離れた所でやって頂きたいわ……。毎日眺めるのも、退屈ではないけれど)
また、勉学を励む生徒達が集う大きな図書館には様々な書物が寄贈されており、これもまた閑静で神聖な場所である。
食堂や生徒会室も良い。そもそも親密度が上がらない場所なんてゲーム内で存在したかも怪しい。
ただ全てにおいて、マイカの恋愛成就スポットで、遭遇率は高いわ当て馬役にとっても精神的ダメージを負う針の筵だ。
「良いのかあれは、お前の婚約者だろう」
「え?」
「他の女と白昼堂々浮気三昧で。昔なら視界に入った瞬間、猪の如く突入して冷気撒き散らしていたのに」
「わたくしのことをやはり、ご存知なのに。素知らぬ御顔も素敵だけれど」
「そのサファイアの瞳を見れば、大凡予想がつく。別に俺は否定も肯定もしていないぞ。それに、報告書と齟齬があるから余計目が離せない」
「まあ……紛いなりにもグランドル王国の第二王子殿下ですもの。お慕いする方の一人や二人いらっしゃっても」
最近セルリアーナが執拗にカリュプスが潜伏する場所を特定し、よじ登るからか低い木で待ってくれている様子だった。優しい。
貴族令嬢たる者、裾が巻き上がる動作や木登りなんて御法度に近いからか。
淑女として自覚が足りないと言われたら終了だが、生憎セルリアーナはカリュプスと合法的に会話する為にリスクを冒すは承知である。
(待つのよセルリアーナ。これは名前を知っているなら、呼んでもらうチャンスでは? ナイス、ポジティブシンキング!)
推しに名前呼ばれたら毎日反芻して身悶える。
監視対象者ならば粗方、セルリアーナの過去の暴走やら高慢で卑劣たる悪行は知っているはずだ。
セルリアーナは確かに故意に盲目だったが、今の自分は他者を巻き込んで恋愛を求めてはいない。
「ふふ、楽しそうですわね。わたくしといる時は、あんな御顔見せて下さらないのに」
「そう……なのか?」
「ブスッとしていて、私を見る侮蔑を滲ませた……エメラルドの瞳は忌々しい程に美しいのよ?」
(セルリアーナの前じゃ、あんなデレデレ鼻の下伸ばし……まあそう見えるのも無理はないわね。真実の愛に気付いた殿方も、所詮は人の子だから)
「金糸色の髪に、グランドル王国血族の直系にだけ宿す碧眼は誰をも魅了するとは恐れ入るな」
「そりゃあもうカリュプス様を前にしたら霞みますけれども!」
「はあ? その目は節穴か? それならお前の方が────」
「わたくし?」
「……凍て付く氷花とは物は言いようだな」
カリュプスの美しい顔と、そして話せる環境に居られるだけで史上最高の幸福なのだから。
推しに認識されるなんて、マジ合掌。である。
相変わらずストーリー通りにフラグ回収をする主人公を横目に、殿下との距離を取りつつあるのは穏便に婚約破棄をしたいからだ。
主人公が殿下一筋ルートだと思っていたが、どうやら見当違いだったらしい。
図書室や騎士団を夢見る生徒達が集まる練習場にも出没しているようなので、マイカはどうやら逆ハーレムルートを狙っているのかもしれない。
「その異名よりも、わたくしのお名前呼んで下さっても、罰当たらないですわよ?」
「誰が呼ぶか」
「えええー! そこをなんとか!」
「食い下がる訳ないだろうが」
(惜しい!)
好感度の上昇具合が、均等である。それも完璧なまでに一番良い選択肢を選んでいることから、伝説の逆ハーレムルートを目指していそうだ。
いや、他意は無い。逆ハーレムエンドは数あるエンドの中で最も難易度が高いのだ。
それを意図も簡単に成し遂げそうなんて、流石は主人公の為に出来たゲームである。
また、この逆ハーレムルートはメインの殿下ルートに加えて幾つもの障壁をクリアせねば、側近や他対象者を合法的に手籠られないのだ。
「……おい、例の侍らせ女は婚約者がいる男もこうやって愛想振り撒いているのか?」
「彼女、可愛らしい子ではありませんこと?」
(マイカちゃんを嫌いな男性はこの世を探したらいないのでは……)
「は、何処が。俺は狡猾な女は大嫌いだ。男を手玉に取って悠々自適がお望みな魂胆が見え見えで」
(あ、いらっしゃったわ)
「あら、女性だろうと戦わねばならぬ場もあるのですよ。貴族ならば尚更、社交場では弱味を見せれば格好の餌食……まるで言葉を嗜むように」




