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13 推しと強制ランチデート遂行してみせます②





 だから、セルリアーナの手首を掴んでじっとマスタードが溢れそうなサンドウィッチに、嫉妬する日が来るなんて。


「寄越せ。自生した野草で腹を満たすよりはマシだ」


(かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいなになになになにまじかわええええええええええああああああああああ?????????)


 フリーズしているセルリアーナの手から、サンドウィッチを口にして咀嚼している。

 もぐもぐと口いっぱいにして、リスみたいに胡桃を溜め込む可愛い動画特集を観ているみたいで。


 待って欲しい。時を止められるスキルをセルリアーナは習得していない。いや、そもそも時間を制御したり操る能力はこの世に存在しないが。


(公式マジでぶっ飛ばすぞ?? これスチルで残せや仕事してくれ公式頼む土下座するから)


 嚥下する瞬間も、食べるのを止めない彼を真近で合法的に見られるなんてご褒美だろうか。


(頬張ってるううううううううううううううう!!!!!!!!!)


(スチルなんでなかったんだよ原作目の節穴かよクソ!)


「身悶えてて、気味悪いな」


「おほほ、お口に合ったのであれば、光栄ですわ」


 悶絶した姿を披露するのは侯爵令嬢として、そして第二王子殿下の婚約者としての毅然とした姿勢を保持する為に取り繕ったが、既に遅かったらしい。


 すんっと頬を窄ませてみたが、ダメだ。可愛くぶりっ子しても無駄である。


 くすくすとセルリアーナの突如とした変顔からの澄まし顔の移り変わりに、思わず笑っている推しが、もう慈しみである。推しの笑顔守らねばならないのが使命だと改めて胸に刻んだ。


(この笑顔は……世界を敵に回そうとも絶対に守り抜きますわ)


 元社畜の自分がゲームに飲めり込んで、馬鹿にする姉もいたが今を生きる悪役令嬢セルリアーナとして転生した今。


 史上最強に、幸せだ。推しが見せる一挙一動に、翻弄される。


 なんて素晴らしい世界。この時間を大事にしていた。推しの笑顔、ずっと守りたい。


「……悪くはない」


「あうあうああああ、もう一つ召し上がるのですか……」


「俺に持ってきた物だろう。腐らせたら罰が当たるぞ」


 食べ物を粗末にしない。好感度は下がること無く爆上がり。

 黙々とサンドウィッチを平らげる姿を見守る親衛隊とは私のことだ。邪魔する奴は万死に値する。


 すると、最後の野菜も焼き過ぎて焦げ目の目立つローストビーフに武骨な手は伸ばした。前世で言う、黒胡椒の様な実を磨り潰して使ったシンプルなのに収まりの悪いサンドウィッチに手を伸ばそうとした彼を咄嗟に止めた。


「その不格好な物、はやめた方が」


「はあ?」


「……これは、その……手作り、なので」


「これが?」


「わたくし、生まれてこの方……料理は一切して来なかったので……」


 そう、この体は厨房に入るなんて論外だ。体が全く機能せず、転生前のスキルが無に散って、急遽料理長に手伝ってもらった始末。


 セルリアーナの不器用さと貴族令嬢が料理をしない実質的な経験値が反映されぬことを真面目に呪った。


(主人公のマイカちゃんは手料理振る舞ってたじゃない!!!!)


(あ!!!! そもそも出自から違うわ。色んな意味で終わった……)


「……最初に言え」


「申し訳ございません、ですので此方の物は────」


「それなら、お前が作った物を先に口にしたのに」


「へ?」


 ぱく。と口に運んで咀嚼からの嚥下。待ちなさい。今手作りの物食べたのは目の錯覚だろうか。

 ゴシゴシと目を強く擦るが、彼は食べる手を休めていない。


(あ……あ? たべ……は?)


 手作り嫌いなはずなのに、どう言うことだ。混乱してセルリアーナは口をはくはくと、水辺に打ち上げられた魚の様にしていると。


「味は悪くない、形は歪だが、さっき食べた物より……その」


「ふあ、あ、はい」


「そんな顔で見られると言いづらい」


 血走った目で凝視しているのを、一瞥した推しはセルリアーナが作った物含めて全てサンドイッチを完食してしまった。


 推しがセルリアーナの前で食事をして、無防備(?)な御姿を見せてくれる……。

 警戒心が若干解けた野良猫ちゃんみたいに、手からご飯食べてくれるなんて通い詰めた甲斐があった。


「美味かった……が」


「うううううああああああああああああああああああああああ」


(心の声がもう抑えきれないくらい、死んでしまいそうよ!!!!!!)


「お前拾い食いでもしたか? いきなり奇声発して────毒か? 吐け、今すぐ。医者をよ────」


「違ううううううああああああ指が、指、駄目ですそれはあああああああ」


「は?」


 キャパオーバーで発狂したが、数秒で侯爵令嬢の顔に戻せるのは最早顔芸かもしれない。


 令嬢たる者、貴族としての誇りを持ち合わせ、いついかなる時も淑女であらねばならないのだ。


 医者を呼ぼうとしてくれたのも、彼なりの優しさなのだろう。


「ただの、持病です」キリッ


「俺には異常にしか見えないが」


「うちでは代々、こうして突然魔力の回路に不具合があると半狂乱になったり錯乱状態に陥る症例が確認されているのです……。どうか穏便に」


「そ、そうか……」


(誤魔化せたわ、セーフ!)※社会的にアウト


 いや、まあ強ち嘘ではない。


 エスメラルディ侯爵家の出自の多くは戦争が終結した今、魔力を使う場所が限定されている。


 エネルギー資源として提供出来る魔力供給装置が各柱を担う家格に象徴的に建造されているのは、魔力過多で放出先が見付からず暴走を防ぐにも有り難い措置であった。


 魔力が体内で限界まで駐留すると、暴発して周辺一帯を破壊してもおかしくないのだ。


 セルリアーナの場合は侯爵邸近くにある湖や侯爵邸を一瞬にして氷河にした前科があるので、悪役令嬢であろうとも還元先を持つのはメリットが大きかった。


 精神が崩壊したり、錯乱状態になる症例もあり、セルリアーナが壊れなかったことは運が良かっただけである。


「まあお前が変じゃなかったことは無かったしな」


 推しを丸め込むことに若干、侯爵令嬢としての何かを失いつつあるがセルリアーナはそれでも良かった。


 今日も推しが目に入れても痛くないくらい、カッコ良くて過ぎて幸せであるからだ。






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