12 推しと強制ランチデート遂行してみせます①
「それよりも毎日飽きずに監視されてらっしゃって。熱烈な視線を向けられて、本日も幸せな気持ちで授業も身に入りませんでしたわ」
「四十八時間、飲まず食わずに張っていた場所を見付けられると、流石に面食らうな。いっそ、ここで始末した方が良いか」
「あら、わたくしがそこら辺の貴族だとご存知ならば簡単に殺せませんわよ? なんたって、有名人ですから色々と」
「王家の根回し者がこうやって付け回しているのに、堂々たる御前だな」
「王家御用達の……、覆い隠す銃口様ならば、侯爵家を追い回すのも非合法で合法的に出来るでしょうし」
「へえ、根拠も無くお前はその名を口にしないだろう。何せ、暗躍者の名を好き好んで出そうとは思わないぞ」
これは遠回しに認めたのだろう。余りの執拗なストーキング(追い掛け回し)たのが功を成したようだ。
セルリアーナの眼に狂いは無かったらしい。
「カリュプス様をご存知無い王宮の方々はそれはおりませんことよ? 噂好きの侍女や人の往来が激しい場所でもありますから」
「俺はお前が面白おかしくその噂を検証する、物好きな貴族令嬢にしか見えないが」
「心外ですこと。わたくし、こう見えても貴方と仲良くしたいだけですのに」
「胡散臭い」
(疑念を抱く、まるでブラックダイアモンドの様な輝きを持つ瞳も美しいわ……)
「酷いわ、傷付きました。せっかくお昼を一緒に頂けたらと思って、こうして参上した次第だと申し上げたいのに」
侯爵家令嬢を一人消すには、金と労力以上に貴族社会の均衡が揺るぎ、適当に事故死の処理は出来ない。
どんな目論見があるのか、暗殺者の特定等、次は誰が狙われるか激震が走る。
王家だって、一応第二王子の婚約者が不慮の死を遂げれば膨大な魔力を持ち生活の基盤を支える侯爵家との繋がりを強固し損ねる。
四六時中、セルリアーナを監視する為に王家から派遣されているならば無駄な動きは微塵も許されないだろう。
飲まず食わずなのかと勝手に思って、片手でさっと食べられるサンドウィッチを侯爵邸の一流シェフに作ってもらったんだったことを思い出す。
(私としたことが、忘れていたわ)
推しには健康で幸福な人生を送る義務があるので、悪役令嬢兼推し命のオタク代表として差し入れをせねば。
「お腹空いてるかと思って、手早く食べられる痕跡残さぬ食べ物をお持ちしたんです」
「は、毒でも入れて懐柔させたいのか?」
手料理は毒物の混入も疑惑が生じると思って、シェフに作って頂いた物だ。
食材の産地も隠し調味料も質問されれば答えられる自信はある。なんたって、推しの健康と豊かな人生を守る為ならば。
「でもこれは市販の物を組み合わせた我が家の一流シェフが作った物ですわよ。食材はうちの領地の物ですが。だからわたくし本人の手料理ではありません」
「じゃあ毒味してみろ、その張本人が」
推しがこれを食べろと顎で指示した物を口に含む。
(うーん、このマスタードがピリッと効いた低温調理されたローストビーフとフレッシュなレタスが合わさったサンドウィッチ!)
流石はエスメラルディ侯爵邸で囲う手腕の持ち主。良い仕事をする。
領地内で手掛けている野菜や果物は品質重視で、とにかく手塩にかけて育てている。新鮮な食材を提供し、流通させ領地民達の食卓を間接的に守るのも、貴族としての仕事である。
(あー美味しくて、頬っぺたが落ちそうだわ)
特にエスメラルディが納めるエーメ領は冬は厳しく夏は短い。作物が育ちにくい気候ではあるが、一方で厳しい寒さに強い物を中心に、特産物を作り出していた。
エーメ領で収穫される農作物は甘味が強く、また自然界に負けぬくらいの艶のある新鮮な物を卸せる強みとして。
(ゲーム内では出なかったけれど、婚約破棄後の余生は領地に帰っても良いかもしれない)
選択肢を拡大させるにも、自身の置くエスメラルディ侯爵家について知る必要があった。
勉強熱心だと両親に感動され、領地経営や領主としての在り方なんて王子妃教育には全く無関係なことを片手間に教わる流れになってしまったが。
「やっぱり美味しい……。彼は天才だわ、今度お手当弾まねば」
口の中で蕩けるのに、脂身がしつこくないけれどマスタードのアクセントが絶妙で、本来ならば毒味係なのにあまりの美味で浮かれてしまった。
「イかれてる令嬢だな」
「それはそうと例年、此処は雪が積もるくらい冷え込むのに、どうして?」
「職務を途中放棄しろと?」
「そうですけれど……お身体に悪いですわ」
推しであるカリュプスが徹底的にセルリアーナを監視しているのは良い。
それでも身を切る行いは避けて欲しい。
美味しい物を沢山食べて温かい場所でゆったりと過ごして、幸福を一心に独占して生きる様な、誰しもが憧れる様な愛情に浸った人生を送って欲しいのである。




