10 推しをストーカーしないと眠れぬ令嬢とは、このわたくし
ランチをセルリアーナ同様の悪女として存在する当て馬役二人の令嬢と摂り、久し振りに楽しい時間を過ごせた。最近の流行りや、愚痴大会を繰り広げて、お陰様で心のモヤモヤも清々しくなった。
二人と別々のクラスだったので、今度お茶会を開催して招くことを約束を取り付けられたのも良い兆候だ。
仮に断罪ルートに進んだとしても、セルリアーナの無実を証明する潔白な二人を抱き込めたのは重要である。
でっち上げの証拠を並べられようと、証拠の有用性を示したり、調査するにも彼女達の協力は必須となる。
(一人でも私のアリバイ立証になってくれる人達を作らなければ)
そして推しに手を汚して欲しくないのも、要因の一つに加わった。彼がセルリアーナを処理するならば、所謂処刑を意味する。
推しの幸せもセットで考慮しているので、全面的に味方を着実に作りつつマイカには攻略対象者と親密になって頂きたいのだ。
(ただ、マイカちゃんの恋愛模様を見て過ごすには、あまりにも非効率的よね)
やっと授業が終わり、放課後は全寮制の王立学院のしきたりに従うが、一日一分顔を見なければミッションコンプリートしない。
推しを探すのは、ゲーム内でイベントやフラグ回収に歩いて散策することで、得られる。特に悪役令嬢の動向は第三者の視点からが圧倒的に多いので、目測がつくのは強味である。
どれだけ推しの為にやり込んだか。
寝る間も惜しんで、推しを激写して引き伸ばして壁一面に貼ったり、有料で入手した推しの個人情報を妄想しては二次創作で書き殴った日々は成就される為にあったらしい。
(取り敢えず、鬱々とした気分を晴らすには、推しの顔を拝みに行くのがどんな栄養ドリンクよりも効果抜群よね)
スキップをしながら、今日の監視ポジションへ向かう。死角から忍び寄らないと、直ぐ監視対象を見失ったら確実に現場を瞬時に離れるからだ。
射程圏内を維持し、安全に監視出来る絶好の場所がもしも仮に見抜かれたら、直ちに撤収し態勢を整える。
だからその隙を与える間も無く見付けることが出来るのは、プレイ時間と重過ぎる愛と強欲さが物語るんじゃないかと今では証明出来る。
「私を監視してらっしゃるのでしょう?」
王立学院は全寮制だ。貴族だろうが関係無く、社交性や勉学に励む為に身分関係無く敷かれた校則である。
専属侍女が隣接する部屋で待機した後、推しが窓際に生い茂る木から返事をしてくれる。あまりにも執拗に追いかけ回した挙句、張り込み先が瞬殺でバレている(これもオタクのスキルのお陰)からか話し掛けると答えてくれる様になった。
「さあ」
「惚けたって無駄ですわ……。わたくしには何だって分かってしまう資質があるのよ」
(相変わらず素っ気無いのに、会話して下さるなんて……。ああ本当に御優しいわ)
「何処ぞの貴族かは知らんが、お前なんぞに構っている暇はない」
「釣れないこと……。では、わたくしが敵意がないと、そして王家への威信を崩さぬことを約束したら、信じてもらえるかしら」
王族への不信感、そして監視対象。
何故窓際まで来てくれたのかは分からぬが、王族からの依頼ならば納得が行く。
そもそもゲーム内ではセルリアーナの暴挙が原因である。
暴走した氷魔法の担い手が次期王子妃ともなれば、圧政を促す起因とされるだろう。
王家が危惧するだけの魔力量に加えて、いつ暴走するか分からぬ爆弾をセルリアーナは抱えている。
更にはこの傍若無人ぷりを侯爵家は静観して、金で解決するから余計太刀が悪いのだ。
王家に謀反を働く可能性、そして次期王子妃に相応しい人材なのか逐一報告をする。これが彼の仕事であろう。
「監視されていると分かっているのに、良く平然としていられるな。普通なら卒倒したり、怯えるのに」
溜息を漏らして、外套から顔がハッキリとセルリアーナの双眸を捉えた。
心の準備、まだ出来ていないのに。嘘だ嘘だ嘘だ、今息吸えてるだろうか。
(待って???? え???? 私の推しマジ、神級にカッコええんですけど????)
金に物言わせたら、攻略本以上の知識得たにしても、これは作画コストを遥かに上回っている。
深々と被る布で顔は覆われがちだが、風の強さが手伝って、真っ黒な綺麗な瞳と意志の強そうな眉、鼻梁のある精悍な相貌は想像を絶した。
(……私、生きてる……? 息、吸えてる?)




